十九幕
今回は少々時間が流れています。エミリアナは十四歳になりました。
エミリアナは緊張して扇子を持つ手が震えていた。
昨年からルイシーナとお茶会に出席し始めて令嬢との付き合いにも慣れてきたところだ。十四歳になったばかりで王宮のお茶会に招待された。これまでとは規模も格式も雲泥の差のある会場の様子に気後れしてしまう。
案内されたのは一般には開放されていない王族用の薔薇園で、令嬢だけを招いたガーデンパーティーだ。
見事な大輪の薔薇が各種咲き誇り、色とりどりで目にも鮮やかである。テーブルや椅子にも薔薇の花が蔓ごと巻き付けられて飾られている。繊細で華やかな茶菓子が盛られた大皿やティーカップやポットは白磁に鮮やかな薔薇の模様入りで薔薇づくしの会場だが、華美すぎるほどではない。華やかさの中に気品を感じさせるセンス抜群だった。
控えている侍女や護衛騎士の胸に白い薔薇が飾られていて、パーティースタッフの証らしい。彼らは洗練された動きで場に馴染んでいた。さすがは王宮勤めである。一流の使用人ばかりで、数多の貴族令嬢を見てきた眼差しには緊張させられる。
王都の貴族令嬢が少ないため、流行病が治まってから養子に迎えられた女児は十人ほどいた。養子の令嬢のみを招いて開かれたお茶会で、主催は王妃だった。
『貴族学園の入学前に面識を得たほうがお互いに心強いでしょう』とのお心遣いは建前で、本音では第三王子カルロスの婚約者候補を見極めるつもりだと思われた。
「エミリアナ、基本装備を忘れているわ。微笑みは淑女の嗜みよ」
「はい、お姉様」
広げた扇子で口元を隠したルイシーナに囁かれてエミリアナはひくっと頬を引き攣らせた。なんとか口角を上げて微笑を浮かべると、扇子を開いて戦闘準備を整えた。
未成年者が王宮に呼ばれたので付き添いがいるのだが、侯爵は仕事の都合がつかずに不参加。体が弱くて領地で静養中と触れ回っている夫人も不参加。同い年なのに、姉だからとルイシーナが付き添う始末だ。
心強さでは侯爵夫妻が束になっても敵わないが、未成年だけの参加は彼女たちだけである。少々、注目されていて居心地は良くはない。
本来ならば、こうした公式の場は養母であるオクタビアの出番なのだが、エミリアナを嫌っている彼女には徹底的に避けられまくっていた。最初の挨拶以降は顔を見たことがない。
まあ、オクタビアがエミリアナのために尽力してくれるとは思ってもいないし、後が怖いからされたくもないのだが。
「ゆっくりと深呼吸してご覧なさい。そっと周りに目を配るのよ。
お茶会は情報戦なのだから、視覚情報を少しでも得ておいたほうがよくてよ」
「はい、そうします」
エミリアナは素直に姉のアドバイスに従った。
エミリアナは侯爵夫妻は敵だと警戒しているが、何かとよくしてくれるルイシーナには懐いて慕っていた。ルイシーナは前当主である祖母に育てられており、淑女教育も祖母から受けたという。
ルイシーナは両親相手でも気を抜くことなく、淑女の笑みの完全装備が標準仕様だが、エミリアナには本音で接していた。貴族的な付き合いではエミリアナが理解しないとわかっているので、遠慮なく本心を晒していた。お互いに血のつながりはないと理解しているが、本物の姉妹らしく気心が知れた仲で十分な信頼関係を築いていた。
「こう・・・、いえ、お、とう様の交流関係で挨拶が必要な相手はいますか?」
「今回はいないから気にしなくてもいいわ。それよりも、侯爵呼びはダメよ。『お父様』呼びも難しいなら、『父』呼びで凌ぎなさい。
・・・まあ、呼びたくない気持ちもわかるけどね」
エミリアナが小声でこっそりと囁くと、ルイシーナも同じく小声で返した。
ルイシーナは父が浮気したと聞いた時点で激しい嫌悪感を抱いた。よりにもよって母が孕っている間とか、最低最悪だとドン引きした。母は体が弱くて無事に出産できるか不安があったのに、だらしない下半身には呆れるしかない。
ルイシーナは多感なお年頃らしく父の顔を見るのも吐き気を催すくらい嫌だったが、かろうじて表面には出していない。当主の父に逆らっても、いいことは何もないと達観していたからだ。
祖母の薫陶の『殿方は煽てて甘えて見せて油断させること。手のひらで上手く転がしてさしあげるのよ』を実父相手に実践しているだけである。
エミリアナにも『従順で扱いやすい娘だと思わせておいたほうが都合がよい』とアドバイスしてくれたから、侯爵の話には頷きつつも適当に聞き流している状態だった。
ルカスはまさか実子にも養子にも心底から嫌われているとは気づいていないだろう。
「エミリアナ、最後の参加者がいらしたわ。
見事な赤毛ね、彼女がチャベス侯爵令嬢かしら? 侯爵夫人が付き添っているわね」
ルイシーナの視線を追うと、華やかな赤毛の少女がいた。
少々、背が高く、つり目でツンとおすまし顔をしているが、視線が落ちつきなくあちらこちらへと彷徨っていて、社交には不慣れな様子だった。
赤毛の少女が案内されてすぐに王妃がおでましになり、周囲の注目が集まった。
「皆様、本日はようこそおいでくださいました。わたくしがグラシアン国王妃フロレンシアですわ。
貴族社会の新たな一員となられた皆様を歓迎いたします。どうか、そう気負わずに仲良くおしゃべりして親交を深めてくださいな。今日はわたくしとも気楽にお話ししてくださると嬉しいわ」
王妃がにこやかな笑みで挨拶を述べると、侍女の案内のもと参加者たちが挨拶の列に並んだ。
一番家格が上なのは侯爵家で、チャベス家とセルダ家だ。セルダ家のほうが歴史が長いので、一番手になった。ルイシーナに付き添われたエミリアナが先頭に立つ。
「王国の麗しき華、王妃様にご挨拶申し上げます。セルダ家長女ルイシーナにございます。本日は妹の付き添いで参りました。こちらがわたくしの妹となりましたエミリアナですの」
「ご紹介にあずかりました、エミリアナと申します。王妃様にはお初にお目にかかります」
ルイシーナが先にお手本のようなカーテシーを披露して、エミリアナも姉に倣った。
「まあ、ルイシーナ嬢、お久しぶりね。前当主であるおばあ様によく似てきたわね、懐かしいこと。
妹のエミリアナ嬢もようこそ。
あなたの評判は耳にしていてよ。ピアノの演奏が上手だそうね。今度、わたくしも聞いてみたいわ。音楽会のサロンにおいでなさいな」
「お声がけありがとうございます。拙い演奏で恥ずかしいのですけれど、精一杯弾き手を務めさせていただきます」
エミリアナが淑女の笑みで応じて、彼女の挨拶は終わった。
姉と去り際に次に並んでいたチャベス家の令嬢とすれ違う。ギンと音がしそうなくらいキツい眼差しを浴びて、エミリアナは内心で首をすくめた。表面上は何事もなく通り過ぎたが、挨拶の列から遠ざかってつい気を抜いてしまった。
ほおっとため息をつくと、姉にくすりと笑みを向けられた。
「ライバル視されたようね。貴女は婚約者候補争いには興味がないと言うのに。
これまでのお茶会で散々アピールしてきたのに、彼女の耳には届いてないのかしら」
「さあ、お会いするのは初めてなので、よくわかりません。すごく睨まれて怖かったです」
エミリアナがげんなりと死んだ魚の目になった。
野心家の侯爵に対抗するためにお茶会で王子殿下には興味がないと吹聴しているが、信じない者もそれなりにいる。好みのタイプではないとはっきりと口にしても穿った見方をしてくるのだから、本当に貴族の社交は面倒だった。
「お姉様のおばあ様は王妃様と面識があったのですね」
「ええ、おばあ様は前当主だったし、王太后様とは学園の同級生だったのよ。
おばあ様は三人姉妹の長女でね、ちょうど女性にも継承権が認められた時期だったから侯爵位を継いだの。おじい様は格下の伯爵家の出で政略結婚だったけれど、温和な人柄でおばあ様の補佐をしてくれたわ。
母は病弱で当主の座は無理だと早くから判断したそうでね、婿に期待していたようだけど、母を裏切ったでしょう。
おばあ様もおじい様も父は信用できないと思ったのですって。
それで、わたくしはおばあ様に教育されたの。信頼し合っていたおばあ様とおじい様の姿はわたくしの理想の夫婦像なのよ。伴侶は信頼できる相手が一番だわ、愛情は二の次で十分よ」
「お姉様とイラリオ様は仲がよいですし、信頼も愛情もありますよね?」
「リオとは幼馴染で気心が知れているもの。
彼なら信頼できるから、彼が婚約者でよかったと思っているわ」
「お姉様には理想の相手ですね。お二人はお似合いだと思います」
エミリアナは世辞抜きで本心から述べた。
本当は『相思相愛で素敵だ』と言いたかったが、父の所業のせいか、ルイシーナは恋愛事に慎重な姿勢だ。第三者が口を挟んで拗れては元も子もない。エミリアナは無難な言葉に留めた。
「ふふっ、ありがとう。貴女のお相手はわたくしが選べるとよかったのだけど・・・」
ルイシーナが複雑な笑みを浮かべた。
血統を明らかにするスキル持ちはまだ見つかっていない。国内は探し終えて、他国をあたっているところだ。セルダ家内のルイシーナの手勢では他国までは無理なので、イラリオのライネス家にお任せの状態だった。ライネス家が総力をあげてくれているが、他人任せなのがどうも落ちつかなかった。
もし、今日のお茶会でエミリアナが婚約者候補に選ばれても、ルカスの実子ではないと証明さえできればお断りできる。証言だけでは厳しいが、いざとなったらルカスの記憶違いだと訴えてもよい。当主の記憶能力に問題ありとして隠居させてしまえばよいのだ。ルカスは抵抗するだろうから、最終手段ではあるが。
「ルイシーナ様、お久しぶりです。こちら、わたくしの妹となりましたカルメラですの。さあ、ご挨拶なさい」
「はい、初めまして。カルメラ・ブランコと申します」
ルイシーナたちの席に案内された令嬢が十歳くらいの少女を紹介した。
令嬢はブランコ伯爵家の長女グロリアだ。ルイシーナの一つ上で、ブランコ家はセルダ領北部と隣接する領地を治めている。
彼女は病弱な兄が流行病で亡くなって跡取りになるはずだったが、すでに婚約済みで相手との仲は良好だった。無理に解消するよりもと、跡取りを親戚から望んだという。
お産で亡くなった従姉の子供が邪険にされていたから養子にもらったと聞いていた。伯爵夫人は少々難聴だから、グロリアは母親のフォローも兼ねて参加したようだ。
「お姉さまのお友達とわたくしも仲良くしたいです。どうか、よろしくお願いします」
「まあ、カルメラ様。わたくしともお友達になってくださるの。嬉しいわ、よろしくね」
にこにこ笑顔のカルメラに引き取った当時のエミリアナの面影が重なって、ルイシーナの微笑みも自然なものとなる。エミリアナも続いて挨拶を交わした。
「カルメラ様、わたくしとも仲良くしてくださいませ。わたくしも養子なのですが、グロリア様には仲良くしてもらっているのです」
「はい、わたくしもお友達になりたいです。エミリアナ様は立派な淑女だとお姉さまから教えてもらいました。わたくしに立派な令嬢となる秘訣を授けてくださいませ」
「まあ、カルメラったら、いきなり失礼でしょう」
「グロリア様、お気になさらずに。とても可愛らしいではないですか。エミリアナが妹になった当時みたいで懐かしいわ」
グロリアが興奮気味のカルメラを嗜めるが、ルイシーナは微笑ましいものを見る目だ。引き合いにだされたエミリアナは少々居心地が悪そうにしている。
和やかに歓談していると、全ての令嬢の挨拶が済んでお茶が配られた。
付き添いの大人たちと養子の令嬢たちは別席に案内されている。各テーブルに数人ずつでお茶をいただきながら交流を図るのだ。予め、家同士の付き合いや交流を考慮した席順で、王妃の席に招かれるまでは同席者と歓談タイムだ。
王妃の席に最初に招かれたのはチャベス家とコルンガ家の令嬢で、次がエミリアナたちだった。
侍女の案内で王妃の席に近づくが、どうやら令嬢たちが席を立つのを渋っていた。
「王妃様、わたくし、もっと王妃様とお話がしたいですわ」
「まあ、チャベス様。わたくしもよ。貴女ばかりではずるいではないの」
「お二人とも、皆様との歓談が済みましたら、薔薇園を見て回る予定ですのよ。その時にまたご一緒いたしましょう」
王妃の取り成しで二人はしぶしぶと席を立ったが、また去り際にエミリアナは赤毛の少女にきつく睨まれた。
ええ〜、王妃様の指示なのに、八つ当たりはやめてよねえ・・・
エミリアナは内心ではげんなりしつつも、淑女の笑みを崩しはしない。ルイシーナがかすかに眉をひそめたのには気づかなかった。
全員とお茶の席を交わした王妃は薔薇園の散策に出向いた。チャベス家とコルンガ家の令嬢が率先してそばに侍り、その勢いに他の者は引き気味だったが、王妃と言葉を交わす機会なんてそうはない。数人が後をついていく形で去り、エミリアナは姉やブランコ姉妹と残った。
他にも残っているのはカルメラのように家の都合で引き取られた令嬢で、カルロスの婚約者候補を狙っていた者ではない。エミリアナたちは気楽なおしゃべりに興じていたが、不意に叫び声がしてびくりと身をすくめた。
「な、なに、今の声?」
「お姉さま、怖いわ」
「皆様、落ちつかれてくださいませ。ただいま、護衛が確認に出向いておりますので」
年配の侍女の声がけで残った令嬢たちのそばにも護衛が配置された。
「殿下、お待ちください!」
「よいではないか、私の婚約者候補たちのお茶会なのだろう? 私が出向かなくてどうするというのだ」
護衛をうるさそうに振り切って現れたのは金髪に青い瞳の美少年だ。イラリオと同じ色合いでよく似た顔立ちだが、神経質そうに顔をしかめていて狭量な雰囲気に見えた。
少年は薄紅色の髪の少女をエスコートしていた。参加者の中で唯一の男爵家の令嬢で、十二歳だったはずだ。
「まあ、カルロス。どうして、ここに? 薔薇園には出入り禁止だと言っておいたでしょう」
王妃が護衛を伴って戻ってきた。王妃に侍っていた令嬢たちも一緒で、王子の出現に喜色を浮かべた顔になる。
「この子が迷子になっていたんだ。薔薇園に入った辺りでぶつかったから連れてきた。
それより、母上。私の婚約者候補を集めてお茶会なんて聞いていませんよ?」
「あら、やだ。誰がそんなことを言ったのかしら?
養子になった令嬢たちが多かったから、貴族社会に慣れさせるためのお茶会だったのよ。勘違いしないでちょうだい」
「ええっ、でも、この子が・・・」
カルロスが連れてきた少女を睨むと、彼女はきょとんとしていた。
「えー、違うんですかあ?
将来の王妃様になるかもしれない方にうまく取り入れって、父から言われたのに〜。
今日は王子様の婚約者を選ぶ会だって言ってましたよお?」
ぴきっと王妃の額に青筋が浮かぶ音が聞こえた気がする。
「おほほほっ、まあ、いやだわ。男爵は何かを勘違いしたようねえ。
ええ、後でじっくりとお話し合いをしないと。ええ、そうです、カルロス。貴方もよ」
王妃は見事な作り笑いで扇子を片手に打ちつけた。少し早いけど、と閉会の宣言が出て、重要なお話し合いの準備を侍女に命じた。
参加者たちはお土産を渡す口実で室内に案内されて、ガーデンパーティーは終了した。
エミリアナたちはタウンハウスに戻ってきた。折角の機会だからと明日は王都見物をして、明後日に帰領予定だ。
エミリアナはお疲れ様会で姉とお茶をしていた。
「まさか、殿下が乱入してくるとは思わなかったわ」
「殿下はイラリオ様と従兄弟なのですよね? お顔はよく似てると思いました」
「そうねえ、でも、二人で並ぶと目も髪もリオのほうが色味が濃いのよ。王太子殿下のほうがリオとそっくりな色だわ」
「そうなんですか」
エミリアナは第一王子が流行病で亡くなったから、三歳違いの第二王子が王太子になったんだっけ、と家庭教師から習ったことを思い出した。絵姿を見かけたことはあるが、イラリオと似てるなあ〜くらいでそっくりとは思わなかった。絵姿は本物より美化されているのかもしれない。
「リオのほうが兄と似ているのが、カルロス殿下にとってはコンプレックスのようで、リオは殿下に嫌われてるって言ってたわ。
リオが我が家と婚姻関係にあるから、選ばれる可能性は低いかもって思っていたのだけど・・・」
ルイシーナがため息と共に何やら不吉な予言をしそうだ。
「参加者の中で貴女が一番淑女教育が進んでいたわ。
コルンガ様はチャベス様の寄子貴族で格下なのに立場がわかっていなかったし、逆にチャベス様は統制できていなかったし。はあ、頭が痛いわねえ」
「え、まさか、わたしが選ばれるとかはないですよね⁉︎」
思わず、エミリアナは素で叫んでしまった。
実際に王子を目にしたが、絶対に無理としか思えない。他人の話を聞かないタイプは幼い頃に虐めてきた男の子たちみたいで苦手だった。
「貴女が筆頭候補になるかもしれないわ。その覚悟はしておいてちょうだい。
多分、正式な婚約は学園卒業後になるはずなのよ。ライネスのおじ様によると、他国との縁組も視野に入れているようだから。とりあえず、候補にしている間によりよいお相手を探すみたいなの」
「そんな、取り置きみたいな・・・」
エミリアナが不満げに唸ると、ルイシーナも深々と頷く。
「そう思うわよねえ。殿方のほうが婚姻年齢には余裕があるのだから、年下でもなんでもさっさと見繕えばいいのに。
でも、成立はさせないから安心してちょうだい。
わたくしもリオも殿下を義兄にしたくはないわ。下手に婚姻関係を結ぶと、我が家に無理難題を言ってきそうだもの」
「そういう感じの方なんですねえ」
「ええ、何かとリオと張り合おうとするし、わたくしのことも顔合わせから気にくわないみたいなのよね」
「お姉様と顔合わせしたのですか? へー、イラリオ様との婚約で親族になるからですか?」
「あら、話していなかったかしら? もともと、殿下は臣籍降下で婿入りする予定だったのよ。
我が家が候補にあがって顔合わせをした直後に兄の王太子殿下の大怪我があって、王籍に残ることになったの。
わたくしとの顔合わせなんて、酷かったのよ。何が気に入らないのだか、むすっとしたまま話しかけても返事もしないで睨んできて。
だから、殿下との話が流れてホッとしていたのに、あの唐変木が・・・」
ルイシーナは『父』呼びしたくないと言った通りに、二人きりで気を抜いた時には実父を『唐変木』呼びだ。
「お姉様のことは信じていますから、もし、選ばれてしまっても破談になると期待してますね」
「ふふっ、婚約話が流れるなんて令嬢にとっては恥なのだけど、わたくしたちにとっては逆に切望する出来事ね」
ルイシーナがおかしそうに微笑んで、エミリアナも力一杯頷いた。
領都に戻って数日後、彼女たちを追いかけてきたかのように王家からの通知が届いた。
『エミリアナ・セルダを第三王子カルロスの筆頭婚約者候補として、仮婚約を結ぶ』というもので、貴族学園へ入学後は交流を図るようにとのお達しだった。
叫び声の正体はぶつかった男爵令嬢。脳内お花畑ヒロインではないのですが、迂闊な言動の多い少女。まだ引き取られたばかりだからと大目に見られています。




