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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第二章 貴族令嬢のエミリアナ

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十八幕

新春スペシャルでの投稿です。楽しんでいただけたら幸いです。

今年もよろしくお願いします。

 フィデルは神父に呼ばれて教会に出向いていた。

 氷魔法は南国に多いスキルなので珍しがられて、これまでもスキル確認で声をかけられることはあった。

 いつものことだと思ったフィデルは目の前に差し出された手紙を訝しんだ。

 手紙をもらう心当たりはない。しかも、セルダ侯爵令嬢からとか。領主のお嬢様が孤児なんかになんの用なのだか。


「この度、領主様は養子を迎えたそうだ。跡取りであるルイシーナ様の異母妹になる。エミリアナ・セルダ侯爵令嬢だ」

「エミリアナだって⁉︎」

 フィデルは思わず興奮して叫んだ。

 エミリアナが領都に連れられて行ってから一月以上が経っていたが、何の音沙汰もなかった。初めて彼女の消息を知ることができたのだ。

 神父がフィデルの両肩に手を置いて声を低くした。

「落ちつきなさい、フィデル。エミリアナは領主様の庶子だったそうだ」

「そんなバカなっ! エミリは領主の子供じゃない。隣国出身の没落貴族が両親だ。母親からの手紙に書いてあったのに、なんでそんなことになってるんだ?」

「それは大きな声で言ってはいけない。領主様の耳に入ったら、それを知る全員が不幸に見舞われるだろう」

 神父が沈痛な面持ちで首を横に振る。フィデルはハッとして神父の顔を見返した。


「神父様、どういうことだ? エミリはスキルの確認で連れて行かれたのに・・・」

「エミリアナを連れて行ったオルギン男爵様はエミリアナの母親をご存知だった。領主様が気にかけているから会わせると言っていたのだが、おそらく血縁の養子が必要でエミリアナの存在はちょうどよかったのだろう」

「ちょうどよかったって、なんだそれ。エミリは都合の良い道具じゃないぞ」

 フィデルが不快感からものすごいしかめ面になっている。神父が深々とため息をついた。

「男爵様にもっと強く抗議すればよかったと、私も深く後悔しておるよ。スキルの確認が済めば戻してくださると思っていたのだがなあ。

 実は王都では流行病の影響で、第三王子殿下の婚約者候補が集まらなくて困っていると聞いたことがある。

 エミリアナはそれに巻き込まれたのかもしれない」

「まさか、エミリアナがその殿下の婚約者候補とかになるのか?

 領主の子供じゃないのに、そんなことできるわけがない」

 フィデルが気難しそうに眉間にシワを寄せる。神父もつられたように苦悩を顔に滲ませていた。


「フィデル、領主様が我が子だと公言しているのだ。それを否定するなど領主様の耳に入ったら、無事ではすまないぞ。

 気をつけなさい、ただの孤児が領主様に逆らえるわけがないのだから。それはエミリアナにも言えることだ。

 幸いにもエミリアナは領主様のお嬢様に妹として受け入れられたらしい。お嬢様が面倒を見てくださっているようだ。当面の心配はないだろう。

 それよりも、手紙を読んでみなさい。何か不安に思うことがあったら、私もできるだけ力になるから」

「・・・わかったよ。神父様」

 フィデルは不満げだったが、手紙に目を通してみた。

 懐かしい丸っこい文字で、確かにエミリアナの筆跡だった。


『フィデルへ

 突然のお別れで挨拶もできなくて残念でしたが、元気ですか?

 わたしは領主様の養子になりました。お姉様ができて、とてもよくしてもらっています。

 勉強が大変です。貴族学園に入るためには必要なことで、頑張らないといけないみたいです。

 

 孤児院に挨拶に行きたいのですが、行く暇はないそうです。だから、フィデルに頼んでいたことはフィデルの好きなようにしてください。

 テオドラから借りていたバッグを手紙と一緒に頼みました。テオドラに返しておいてください。

 勉強を頑張って時間ができたら、挨拶に行けるかもしれないけど、いつになるかはわからないからフィデルに頼みます。

 いつかまた会いたいです。

                        エミリアナより』


 文字に乱れはない。脅されて書いたとかではないだろう。元気そうでひとまずは安心する。

 フィデルがほっとしていると、神父に内容を聞かれた。神父もエミリアナを心配していたから、手紙を渡した。


「おや、私が読んでも良いのかね?」

「ああ、神父様の意見が聞きたいから、読んだら聞かせて欲しい」

 神父が手紙を受け取って読み終えると、顎を撫でて考え込んだ。

「うむ、どうやら、エミリアナの待遇は悪くはないようじゃな。フィデルに頼んでいたこととはあの小箱のことかね?」

「そうだと思う。でも、『フィデルの好きなように』って、どういう意味だろう?」

 フィデルも考え込んで難しい顔になった。


 エミリアナの父の形見はバネッサに預かってもらおうとしたが、生憎とバネッサは隣町に住む独り身の叔母が骨折したとかで看病に行っていた。しばらくは戻らないと聞いて、小箱の隠し場所に困ってしまった。

 いつまでも、テオドラのエプロンでぐるぐる巻きにしてはおけない。

 神父はスキルの相談に乗ってくれるし、孤児院の職員よりも信頼できる大人だ。エミリアナが使者に連れられて行った場面に居合わせてもいる。きっと、味方になってくれると信じて、小箱を預かってもらっていた。

 神父が「ちょっと待っていなさい」と立ち上がった。エミリアナの小箱を持ってきて、フィデルの目の前に置いた。神父は深緑の宝石周りの蔓模様を指差す。


「この模様を見て欲しいのだが、これは隣国のカルサダ地方でしか生えていない植物でな。

 紅つる草という植物なのだが、これを家紋に()()()()()貴族家がある。隣国で十数年前に没落したサラサール家だ。

 鍵の近くに家紋を示す紋様を入れるのは貴族ではよくあることなのだ。エミリアナの両親が没落貴族だというからには、エミリアナの父親はサラサール家縁の者だったと思う。実はサラサール家はーー」


 フィデルはサラサール家が没落した理由を説明されて、そう言えばと思い出した。

 エミリアナの母からの手紙に『罪を犯した親族の連座で国を追われた』とあったことを。


「エミリがサラサール家の縁者なら、領主とは血縁じゃない。それが証明できれば・・・」

「それが、サラサール家は冤罪にあったのではないかと噂があるそうでのう」

「冤罪⁉︎」

 神父は物騒な言葉に驚くフィデルに隣国の噂を教えてくれた。

「なんだ、それ。ずいぶんと酷い話だな。

 政策を邪魔されたからって身分剥奪で国外追放なんて、重罪すぎる。それなのに、冤罪で罰せられたとか、ごめんで済む話じゃないだろ」

「サラサール家の跡継ぎの妻の実家が政策に反対していたそうだ。

 サラサール家は反対勢力への見せしめにされたと思われておるようじゃのう。それが冤罪だったと公になったら、大騒動になるかもしれない。

 養子になったエミリアナの身辺が騒がしくなるのは好ましくない。領主様はサラサール家との縁を隠そうとするであろう。

 この小箱は人目につかないようにするのが一番だと思うが、フィデルはどうしたいかね?」 

 神父に問われたフィデルはしばし考え込んだ。思いついたことを確認するかのように一つずつ声にだす。


「・・・エミリはなりたくて養子になったんじゃない。領主に逆らえなかったんだ。父親の形見が領主に知られるとマズいって思ったはずだ。

 だから、『好きなようにしていい』っておれに預けた。

 いつか、エミリに会える日まで、おれが大切に保管してるって思っているんだ。おれはその期待に応えたい」

「そうか・・・。では、フィデルが卒院するまではこのまま私が預かっておくのでよいかね?」

「ああ、神父様、頼むよ。おれにはまだ力が足りないから」

 フィデルは悔しそうに唇を噛み締めた。


 エミリアナを取り戻すどころか、声をかけて励ますのさえ無理だ。侯爵令嬢と孤児では身分差が大きすぎて会うこともできない。

 来年には冒険者登録ができる年齢だ。領都に様子を見に行けると考えていたのに、いかに甘かったのか思い知らされる。

『いつかまた会いたい』とエミリアナが願っているのだ。再会を望まれたのだから、期待に応えたいのに今のフィデルには会う伝手も手段も何もない。それどころか、手紙のやりとりも無理だ。小箱だって自分で保管できずに神父に頼むしかない。

 早急に力をつけて貴族家とやりとりできる実力を得なければならなかった。


「神父様、上級冒険者は貴族と直接取り引きしたり、顔合わせできるんだよな?」

「ああ、できるが、最低でもB級ランク以上でないと難しい、誰もがなれるわけではない茨の道じゃ。危険も多く、大変だぞ?」

 神父が心配そうに顔を曇らせた。


 冒険者は上からS・A・B・C・D・E・Fというランクに分かれていた。

 冒険者は犯罪歴がない者なら誰でもなれるので、身分証発行を目当てに冒険者登録をする者もいる。F級だけは冒険者の活動をしていなくてもライセンスが無効になることはなく、前科がなければ身分証は毎年手数料さえ払えば継続される。

 E級以上は冒険者活動を一年間何もしないと冒険者失格でライセンスを取りあげられる仕組みだ。


 冒険者は薬草採取や魔獣討伐が主な仕事だが、B級以上になると護衛任務も請け負うようになる。護衛任務は貴族からの使命依頼もあるので、平民の富裕層くらいのマナーが求められていた。腕がたってもマナーがなっていないとB級の昇級試験は突破できないのだ。

 冒険者ギルドでは貧民層で読み書きができない者も登録するので、必要最低限の読み書きと計算ができるように初等教育講座を開いている。格安の受講料で補講もあるが、それでも読み書きが苦手だったり、覚えられない相手には代筆業を担ってもいた。

 B級昇格用のマナー講座も開催されているが、大都市のギルドだけなので、諸事情で大都市まで受講に行けない者は諦めるしかなかった。冒険者はC級で引退する者が一番多いという。


「もともと冒険者で身を立てようと思っていたんだ。どうせなら、上を目指したほうがいい。目標は高いほうがランクアップも早い」

 フィデルが決意を固めたように強い眼差しで宣言した。

 孤児院では使用人用のマナーを教わっているから、マナーだけは一般庶民より有利なはずだった。マナー講座を受講する必要はない分、早く昇級できると考えていた。

「そうか・・・。決めてしまったのじゃな。

 私にできることは協力するが、気負いすぎて無理だけはするでないぞ。きっと、そんなことはエミリアナも望んでおらんからな」

「ああ、気をつけるよ、神父様」

 案じる神父にフィデルは力強く頷いた。


 


 フィデルは院に戻ると、裏庭にテオドラとマルコスを呼びだした。エミリアナが連れて行かれてから職員に聞かれたくない内緒話をする場合には裏庭を利用するようになっていた。

「神父様に呼ばれてたんでしょお。エミリアナのことで何かわかったのお?」

 期待を込めたテオドラにフィデルが重々しく頷く。

「ああ、エミリが領主の養子になった。神父様のところに手紙が届いたんだ」

「え、エミリアナって領主の隠し子じゃないんだよね? なんで、養子になったのさ」

 マルコスが驚いている。テオドラも鋭く息を呑んだ。


「領主はエミリを利用するつもりらしい」

 フィデルが神父から聞いた話を教えると、二人とも絶句していた。

 ただの孤児が貴族に引き取られるだけでも夢物語なのに、侯爵令嬢となって王子の婚約者候補になるかもしれないなんて、どんな奇跡だと頭を抱えたくなる。

「何よ、それえ。なんで、そんな大事になってんのよおおお」

「うわあ、お貴族様のお家騒動に巻き込まれちゃってるよ。エミリアナ、大丈夫なのかな?

 バネッサさんは領主様の子供じゃないって確信してるんでしょ。他にもそういう人がいたら・・・」

「ああ、神父様はヤバいと思っていた。エミリが領主の子供じゃないなんて、公言するなってさ。

 ・・・領主の耳に入ったら、身の危険があるかもしれない」

 フィデルが声を潜めて最後の言葉をつけ加えると、二人とも顔色が悪くなる。


「エミリが養子になったことは内緒にしたほうがいい。どこかからかバネッサさんの耳に入って騒がれたらマズいからな」

「わ、わかったわあ」

「うん、黙ってるよ」

 二人ともこくこくと頷き、テオドラが隣の教会を見上げた。


「神父様はエミリアナと手紙のやり取りができるのかしらあ?」

「やり取り、というか、スキルの相談という形で手紙がきたそうだ。

 エミリがおれ宛に手紙を紛れ込ませてたけど、今回だけの特別措置だって言われたよ。そう何度もできる手段じゃないそうだ。

 エミリの手紙は養子先が不利になる情報が書かれてないか確認されているはずだって、神父様が言ってた」

「そんなあ・・・、エミリアナと連絡はとれないのお?」

「無茶言うなよ、侯爵家なんてお貴族様でも上のほうなんだ。孤児が繋がりを持つなんて分不相応だって思われるよ」

「悔しいけど、マルコスの言う通りだな」

 フィデルが苦虫を噛み潰した顔になる。テオドラがジロリと睨んできた。


「何よお、諦めるつもり? あれだけ、家族だなんだと独占欲丸出しでドヤ顔してたくせにいいいい」

「まさか、エミリには形見の小箱を任されたんだ。いつか、絶対に渡してやる」

「どうやって?」

「侯爵家の使用人を目指すつもり? 氷魔法なら厨房とかで重宝されるけどお」

 マルコスとテオドラが首を捻った。フィデルはぱしっと拳を掌に打ちつけた。

「上級冒険者を目指す。B級以上は貴族から護衛の指名依頼をだされたりするんだ。貴族との接点ができるからな」

「それ、何年後よお。急がないと、エミリアナは政略結婚させられちゃうわよお?」

「B級とC級の間には超えるのが大変な壁があるって聞いたことあるよ。難しいんじゃない?」

「それでも、やるしかない。これが一番の近道だ」

 フィデルは決意を込めて言い切った。


 もし、運よく使用人になれたとしても、孤児院出身者はこき使われると言われている。せいぜい、下級の使用人で令嬢と顔を合わせる機会もなく、潰される未来しか思い浮かばない。

 フィデルはこれまで以上に鍛錬に励むようになった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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