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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第二章 貴族令嬢のエミリアナ

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十四幕

「えーと、それで君は窓から出て庭を突っ切って木登りしたの? 邸の外へ逃れるために?」

「はい。木登りは得意だったのですけど、ちょうど降りようとした時に公爵子息様の馬車が通りかかったからびっくりして落ちてしまったのです」

 大真面目に頷く少女にイラリオは頬をひくつかせた。


 平民の女の子は木登りするのか・・・。

 それで侯爵邸の塀を越えようとするとか、この子はアグレッシブすぎるのでは? と、ちょっと遠くを見る目になってしまう。


 ごほんと従者が咳払いして、イラリオは現実に戻った。

「君のお母さんの手紙に書いてあった内容を覚えているかい?

 どんな話だったか、教えてもらわないと判断できないのだけど・・・」

「全部覚えてます。何度も読んで暗記してます」

 エミリアナが内容を教えてくれて、イラリオはしばし考え込んだ。


 唯一の母親の遺品だ。何度も目を通したのは間違いないだろう。きっと、内容に誤りはないと思うが、それで両親の証明になるとは言えない。

 確かな証拠が記されていたわけではなく、すでに手紙そのものが焼失している。母親が思い違いしたと言われればそれまでだ。

 それを告げると、目の前の少女はブンブンと首を横に振った。


「手紙を預かってくれていた人は産み月が合わないって教えてくれたんです。お母さんが領主様に目をつけられたのは雇われてから二か月も経ってからだって言ってたし。

 その人から話を聞けばわかってもらえます」

「・・・侯爵が手紙を燃やしたのはなぜだと思う?」

「え?」

 エミリアナはきょとんとなった。イラリオは気の毒そうな顔になる。


「証拠には不十分な手紙だったけど、存在されては困るから燃やしたんだ。侯爵には何か君を引き取る理由があるのだろう。実子でないと都合が悪いのかもしれない。

 それを覆そうとするなら、手紙のように証人も消されるかもしれないよ」

「消される? え、そ、そんな・・・」

 エミリアナが青ざめて震えていると、従者がイラリオに声をかけた。


「若様、外の者にこの後の指示を出されたほうがよろしいかと」

「ああ、そうだね」

 イラリオが外に出ると、従者がそっと耳打ちしてきた。

「実はあの少女の素性に心当たりがございます。

 十数年ほど前に隣国で騒動がありまして。

 当時の王太子の婚約者が側近候補の女性に危害を加えようとした、と王太子に糾弾されたのです。王太子は女性官吏の登用を政策として勧めようとしていたのに、婚約者は愚かにも邪推して嫉妬から邪魔をしたそうです。


 婚約者は責任を問われて有責の婚約破棄になった上に身分剥奪で平民に落とされたそうです。婚約者の実家や分家も関わっていたとして、全員が貴族籍を剥奪で国外追放になったと聞いたことがあります。

 ですが、数年後に王太子は病気療養で王位継承権を返上して地方の離宮に移り住みました。第二王子が王位を継ぐことになり、その恩赦で婚約者と一族は許されました。

 しかし、時遅く、婚約者はすでに亡くなり、一族もほとんどが行方知れずや死亡したそうです。どうやら王家が密かに婚約者の一族を探し出したようでして。

 一人だけ分家の子息で冒険者になっていた者を見つけたようですが、お家再興はお断りされたとか。

 一度取り潰した貴族家をわざわざ再興させようなど、不自然な動きです。もしかしたら、婚約者は冤罪をかけられたのではないかと噂されていました」


「その婚約者の一族は?」

「サラサール侯爵家と分家が二家族ほどです」

「あの少女は分家の子供かな?」

「その可能性は高いと思います。手紙を焼失させたセルダ侯爵はあの少女に何か利用価値があると思われたのでは?」

「うーん、侯爵は婿入りだけど、セルダ家の遠縁で一応セルダ家の血筋だ。侯爵の実子なら、セルダ家で養女にしても問題ないけど・・・。

 僕が婿入りでルイシーナが跡継ぎだから、あの少女は政略結婚の駒にでもするつもりか? でも、セルダ家以外の血筋だと後でわかったら身分詐称で契約違反になるリスクがあるのに・・・。

 侯爵は何を企んでいるのかな?」

 イラリオは腕組みをして眉間にシワを寄せている。


「若様、あの少女の話の裏付けをとってから判断されたほうがよろしいかと。未確認のまま、鵜呑みにするのは危険です」

「そうだな。婿入り先とは言え、他家の後継問題に口を挟むのはよくないし・・・。

 うん、ここはシーナを味方につけたほうが賢明だな」

 イラリオは従者に託けてセルダ邸へ向かわせた。


 ルイシーナは家令からイラリオからの使者が来たと告げられた。

 最高級ホテルに宿泊しようとしたら、手続き上のトラブルが起きて助力の要望だった。セルダ家の口利きをお願いしたいと申し出られたが、父は不在で母は体調不良で無理だ。ルイシーナしか手が空いていない。

「お嬢様さえよかったら、トラブル解消後にお茶でもご一緒に、とのことです。奥様は薬で落ちつかれてお眠りになりましたから、お嬢様がお出かけされても大丈夫だと思います」

 家令が生温かい目を向けてくる。トラブルは口実で婚約者からデートのお誘いだと思っているのだ。

「そうねえ、せっかく来てくださったのですもの。お詫びも兼ねて行ってくるわ」

 ルイシーナが嬉しそうに頬を染めて頷いた。侍女たちが主人の身支度に張り切り始める。

 ルイシーナは外出着に着替えて髪型を整えてもらうと、いそいそと出かけて行った。


 顔見知りの使者の案内でホテルに着くと、最上階のスイートルームにイラリオがいた。すでに手続きは済んでいて、やはりトラブルはデートの口実のようだ。

「ルイシーナ様、わざわざ足を運んでいただき申し訳ありません。若様が美味しそうなケーキを見つけたからぜひご一緒したいと申しておりまして」

 イラリオの従者が出迎えてくれて、ルイシーナのお付きの侍女に話しかけた。

「侍女の方には侯爵夫人へのお見舞いの品を選んでいただきたいので、こちらの部屋で商品に目を通してもらいたいのですが」

「まあ、こちらの部屋で、ですか?」

 侍女が困惑している。

 リビングの続き部屋で商人がたくさんの商品を並べていた。主人はリビングに招かれていて、別室になってしまう。いくら婚約者といえど、未婚の男女を二人きりにさせるわけにはいかない。


「ドアは開けておきますし、メイドを控えさせておきますので」

 従者の紹介で頭を下げたのはまだ十代前半の少女で、メイドと言っても見習いのようだ。仕草は使用人のマナーで間違いはないが、栗色の髪の少女は窮屈そうにしていてメイド服の着こなしが少々甘かった。

「若様には私どもがついておりますので、部屋付きのメイドはいなくても構いません。このメイド見習いはお茶を淹れるのが上手だそうで、お茶会の間だけ付き添いに借りてきたのです」

「ミレイア、お母様のお好みの物を選んでちょうだい。わたくしは見える場所にいるのだから、問題はなくてよ」

 ルイシーナに命じられて、侍女は続き部屋に留まることにした。

 見舞いの定番の花束からお菓子の詰め合わせ、女性用の小物や化粧品に香水など色々な品物が並べられていた。侍女はお菓子の味見を勧められて、化粧品などは試作品を開けても構わないと検分することになった。


 イラリオにエスコートされてルイシーナは席についた。向かい側にイラリオが座ると、メイド見習いがお茶を淹れてくれたが、口をつけると色が濃くて少し渋みが強めだった。

 これでお茶を淹れるのが上手なの? とルイシーナが首を傾げた。イラリオも口にして面白そうな顔になる。

「うーん、美味しいとはいえないけど、不味くもないお茶だな。 

 シーナ、どうかな? 君の妹が淹れてくれたお茶は」

「え、いもうと?」

 ルイシーナが驚いて視線を向けると、メイド見習いは激しく首をぶんぶんと横に振っている。

「正確には『侯爵が妹にしようとしている』だな。実はこの少女は・・・」

 隣室の侍女を気にして声を出さないエミリアナに変わって、イラリオが説明を始めた。


 イラリオの話を聞いたルイシーナは目を丸くした。ルイシーナ付きの侍女から聞いた話とだいぶ違うので困惑している。

「あの、確かにお父様が孤児を養子にしようとしているとは聞いたわ。どうやら、お父様の血を引く庶子らしいって邸内で噂されていて、それを耳にしたお母様が興奮してお倒れになったの。

 でも、その孤児は父を責めてワガママを言ったり、癇癪を起こして泣き喚いたりしているから、部屋に閉じ込めていると聞いたのよ。

 それが窓から逃げ出して木登りですって? 貴女、女の子なのに危ないじゃない」


 非難するルイシーナにエミリアナは身を縮めた。

「わたしは領主様の子供じゃないって言ったのに、誰もとりあってくれなくて、話しかけても返事もしてもらえなかった。部屋に鍵をかけられて食事が運ばれるだけの軟禁状態で逃げるしかなかったのです。

 わたしは孤児院に戻りたいのです。どうか、お嬢様から誤解を解いてもらえませんか?

 領主様の血を引いてないわたしが養子になるなんて詐欺です、罪になります。わたしは孤児だから、誰も弁護なんてしてくれないでしょう。わたしだけ罪人になるなんてヒドイです」

 ルイシーナは孤児の少女に深緑の瞳で懇願するように見つめられて、婚約者へと視線を移した。

「リオ、貴方はどう思っているの?」

「うーん、この子が嘘をついているとは思わないけど、一方の話だけを鵜呑みになんてできないだろ? 裏付けを取る必要があるって思ってる。

 それでこの子の話が本当だとしても、侯爵が何をお考えなのか・・・。

 侯爵家を継ぐシーナの意見を聞いてみたかったんだ。侯爵の思惑に沿うつもりか否か。

 僕はシーナの味方だからね、どちらでも君の意思を尊重するよ」


 にこりとイラリオが微笑んで、ルイシーナはしばし考え込んだ。

 父は婿養子で母は体が弱くて自分一人しか子供が産めなかった。だから、今回の父の隠し子騒動に母はとても心を痛めている。冷静ではいられないようで、泣き喚いたり興奮してひきつけを起こしたり、卒倒したりしていた。

 父は母を宥めるのは使用人に任せて仕事に逃げてしまった。領内の視察だと十日ほどは帰らないそうだ。

 父はセルダ家の遠縁だから隠し子を養子にしても親族からの反対は少ないし、抑え込むのは可能だ。だが、赤の他人となると、大問題だろう。


 七年前の流行病で第一王子とその婚約者が亡くなった。その二年後に第二王子が落馬で半身不随になり、車椅子生活になった。頭脳は健在で政治を行うには問題がないが、身体の不自由さから公務のいくつかを弟に任せることになった。

 第三王子のカルロスは臣籍降下予定で婿入り先を見繕っている最中だった。最有力候補はルイシーナで顔合わせを済ませていたが、婚約話は流れた。

 カルロスは補佐として王家に残ることになり、兄に子供ができなければカルロスの子供を養子にするしかない。そのため、カルロスの婚約者探しは難航していると聞く。


 何しろ、流行病は王都から蔓延して王都住まいの貴族ほど罹患者が多かった。ルイシーナは母の体調が悪くて付き添っていたから領地住まいでたまたま難を逃れたが、カルロスと歳があう高位貴族の令嬢は少なく、ルイシーナのように跡取り娘では嫁ぐわけにはいかない。

 王家は高位貴族たちが養子をとって婚約者候補争いが起こるのを恐れて、血縁者以外の養子は認めないと法を整備したと聞いている。

 父が養子をとるのはカルロスの婚約者候補にするつもりかもしれない。

 ルイシーナが予想を口にすると、真っ先に反応したのはエミリアナだった。


「え、イヤです。絶対にお断りです」

 エミリアナは嫌悪感いっぱいの顔で一蹴した。

「まあ、貴女。孤児が王妃になる可能性もあるのよ。これ以上ない出世ではなくて?

 少しは喜ばしいとか、光栄とは思わないの?」

「全然思いません。ただの孤児が分不相応な出世をしても妬みや蔑みを買うだけです。先輩たちを見ていればよくわかりますから、嬉しいなんて思いません」

 硬い声で強張った顔をする少女にルイシーナは目を見張った。思ったよりも孤児の境遇はよくないと知って、領内の視察で確かめなければと次期当主として決意する。


「侯爵が王家と縁続きになるのを望んでいるとしても、血縁者以外は養子にできないのだから、この子の血筋がバレたらマズいんじゃない?」

「リオはこの子の話を信じるの? まだ調べてもいないのに」

 ルイシーナが戸惑いを声に乗せると、イラリオは肩をすくめた。

「侯爵が手紙を燃やしたからね。証拠にはなりそうにないのに、ずいぶんと用心深い。この子の話の信憑性が高まるよ。

 それに血筋を証言できる証人がいるらしいし」

「あら、証人がいるの?」

 ルイシーナに問われて、エミリアナは頭をフル回転させた。ここでバネッサの名前をだすのはマズいし、孤児院での様子を調べられると彼女に辿り着いてしまうかもしれない。


「ええっと、お母さんが働いていた時の使用人の方ならわかる話だと思います。

 お屋敷に長く勤めている方に聞けば・・・。ああ、オルギン男爵様はわたしを見てお母さんの子供だってすぐにわかりましたよ」

「男爵は侯爵の味方だよ。手紙を燃やした場に男爵もいたのに反論しなかったのでしょ?」

 イラリオに確認されてエミリアナはうなだれた。

 男爵は領都に着くまで一緒の馬車で母の話をしてくれたり何かと親切にしてくれた。エミリアナはお貴族様相手だから緊張していたが、いい人だと思ったのに、侯爵の言いなりで助けてくれなかった。


「証人がいても、証言だけでは血縁を否定するのは難しいだろう。

 侯爵が承知の上で血縁を偽っているなら尚更だ。確たる証拠がないと侯爵の決定を覆せないよ」

「そんな・・・。わたしは、お父さんとお母さんの子供なのに・・・」

 エミリアナがぎゅっと拳を握って涙目になった。

 このまま侯爵にいいように扱われて駒扱いだなんて、せっかくハズレスキルと思わせて搾取を逃れたのに。母の忠告が無駄になってしまった。

 エミリアナの脳裏に燃やされた手紙が灰になる様子が浮かんだ。唯一の母の言葉だったのに、目の前で失った。これからも失くすばかりの未来しか思い浮かばない。


 孤児院に帰りたい、フィデルに会いたい、テオドラの毒舌でもいいから聞きたい、と涙がこぼれそうになる。


 不意にルイシーナの感慨深い声がした。

「貴女には本当に野心がないのね・・・。

 そうね、我が家が王家と縁続きになるのはリスクがあるし、肝心の貴女にやる気がなければデメリットだらけになりそうだし。

 父の方針には賛成しないけど、まだ子供のわたくしでは父に意見できないわ」

「シーナは侯爵の思惑に乗らないんだ?」

「ええ、今のところはわたくしには何もできない。父の思うとおりにするしかないけど、成人して貴方と婚姻したら、当主の座につけるもの。その時にはわたくしの好きにできるわ。

 ねえ、その時に貴女はどうしたいかしら?」


 ルイシーナが立ち上がってエミリアナの手を取った。

 ルイシーナは赤みがかった金髪に空色の瞳の可憐な少女だ。空色の瞳に気遣う色が浮かんでいて、エミリアナはほろりと涙を溢れさせた。

「・・・帰り、たい。・・・ふぃ、ふぃでる、のとこ、に。みんな、・・・、会いた・・・」

 ルイシーナは泣きだした少女に困った顔をして婚約者に助けを求めた。イラリオがハンカチを渡して、続き部屋の様子を伺う。

 エミリアナは止まらなくなって、えぐえぐと泣きじゃくった。


 ミレイアが侯爵夫人への見舞い品を選ぶとリビングに呼ばれた。

 主が泣きじゃくるメイド見習いを慰めていて面食らう。

「あの、お嬢様。これは一体・・・?」

「ミレイア、この子の面倒をみてもらえるかしら。この子はエミリアナ、わたくしの妹よ」

「はい? 妹?」

 ミレイアは目を瞬かせたが、主にメイド見習いの世話をさせるわけにはいかない。ルイシーナに代わって少女の背中を撫でて落ちつかせようとした。

 ルイシーナはイラリオの従者が新たに淹れてくれたお茶の前に案内されて婚約者の隣に座った。


「シーナはあの子を利用するつもりはないのかい?」

「ええ、王家と縁続きになるなんて、我が家には重荷でしかないわ。王家との縁は貴方との婚姻ですでに成り立つのに、さらに縁組なんて我が家に権力が集中すぎるもの。周囲の反感を買うだけだわ」

「君のお父上はそうは思っていないようだけど?」

 イラリオの言葉にルイシーナはうんざりとした顔になる。


 ルイシーナの父は婿養子だが、妻の体が弱いために当主の座についた。そのせいか、権力欲が強く何かと自分の力を誇示しがちだ。親族内の評価はあまりよくない。

 イラリオの母は現国王の妹で、嫁ぎ先のライネス侯爵家は陞爵して公爵になった。今後三代までは公爵位を維持し、その間は王家との縁組は行わないことになっていた。王家の血を濃くしすぎないための措置だ。

 カルロスの婿入りが中止になったため、イラリオとの婚姻で王家との縁を繋ぎ直した形の婚約だった。政略結婚だが、元々幼馴染で面識があったので、イラリオが相手でも不満はない。 

 むしろ、顔合わせでろくに受け答えもせずに無愛想だったカルロスと婚約するよりずっとよい縁だと思っている。


 ルイシーナはふうとため息をついた。

「お父様は手段は問わずに我が家の力を高めようとなさっているのよ。親族内では反対意見が多いのだけど、聞いてくださらないの。わたくしや母に苦情がきて困っているところよ。

 わたくしが成人するまでお父様には大人しくなさってほしいのだけど」

「それは無理じゃないかな。

 実はね、あの少女の素性は隣国の貴族らしいんだよね。しかも、王家が気にかけている」

「王家が? どういうこと?」

 首を傾げるルイシーナに従者の情報を教えると顔色が悪くなった。


「それは確かなの?」

「確認が必要だけど、おそらく間違いないと思うよ。ウーゴの姉が隣国の新聞社の経営者に嫁いでいるんだ。それで公にはできない情報や噂話なんかが手に入るから」

「お父様は一体何をお考えなのかしら?

 血縁者でない養子を迎えて、しかも隣国の王家が気にする没落貴族かもしれないなんて・・・」

 ルイシーナが額を抑えてしかめ面になる。イラリオも苦笑を漏らした。


「血縁でないと判明しても利用価値があると思っているんじゃないかな。実子であろうとなかろうと、損はしないと計算しているんだよ。

 ねえ、シーナ。侯爵は視察に出かけたって言ったよね? もしかしたら、あの子の身元を確認しているんじゃない?

 シーナはあの子が本当にサラサール家の縁者でも、利用するつもりはない?」

「ええ、今の話を聞いたら、ますます利用しようとは思わないわ。だって、本人に全然やる気がないのよ? 上手くいくわけないもの。

 それにあの子は我が領民の孤児よ。次期当主としては庇護対象なのだから、政略に利用してはダメでしょう」

「ふふっ、シーナらしいね。君のそういうところは好きだなあ」


 イラリオがくすりと笑みをこぼして、ルイシーナはむうっと唇を尖らせた。

 イラリオの『好き』は恋情ではなく、人柄が好ましいという意味だとわかっている。甘さを指摘された気がして面白くなかった。

「あら、甘い判断だと思っているのかしら? わたくしはお父様のように強引な真似はしないつもりよ」

「うん、僕はシーナの味方だって言ったでしょ。何があろうとも君を支えて守るつもりだから安心して。

 君の思うようにすればいい。侯爵のやり方を踏襲する必要はないよ。

 僕は侯爵と対立しても構わないからね」

「そ、それは頼もしいわね」

 イラリオの青い瞳が優しく和む。ルイシーナはなんだか落ちつかない気分になって、そっと視線を逸らした。

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