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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第二章 貴族令嬢のエミリアナ

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十三幕

第二章開始、貴族令嬢になったエミリアナの話になります。

 イラリオはライネス公爵家の次男で、隣のセルダ領の一人娘、ルイシーナと昨年婚約が整った。

 ルイシーナは幼い頃から交流のある幼馴染だ。彼女に好意はあるがまだ恋情というほどではなかった。婚約者としての交流で文通を交わし、月に二度は会う約束をしていて、今日は訪問日だった。

 婿入りのイラリオが慣れ親しむために街中に出かけることもある。今日はお忍びで職人街を見て回るはずだったのに、何やら邸内が騒がしかった。


「イラリオ様、申し訳ありません。奥様の具合が悪く、少々立て込んでおりまして・・・」

 家令が申し訳なさそうに頭を下げてきた。ルイシーナは母親に付き添っているという。

 交通路の関係でセルダ領の端にある領都はライネス家から馬車で三日ほどの道のりだ。イラリオはいつも一泊させてもらってから帰るのだが、家内が忙しない時にお世話になるのは気がひけた。

「それでは、今日はホテルに泊まります。明日、改めて夫人のお見舞いに伺いますので、夫人にお大事にとお伝えください」

「はい、かしこまりました」

 深々と頭を下げる家令に見送られて、イラリオは宿泊先を探しに行くことになった。


「若様、よろしかったのですか? ご令嬢にお会いになられなくて」

「夫人が急病なら仕方ないよ。明日になれば落ちつくだろうから、シーナとは見舞いで会えるさ」

 従者とイラリオが話していると、どすんと上から音がして馬車が大きく揺れた。屋根に何かがぶつかったようで、馬のいななきと制する御者の声がする。馬車が急停止して、イラリオは座席から転げ落ちそうになった。

「若様! 大丈夫ですか」

「あ、ああ、びっくりした」

 従者に抱きとめられて、イラリオが驚いていると、外で護衛や御者が騒ぐ声がしていた。


「何だ、どうした⁉︎」

「何かが落ちてきて・・・。え、なんで?」

「一体、どこから?」

「何事でしょうか?」

 従者が訝しむが、外の騒ぎは収まりそうにない。従者がドアの取っ手に手をかけた。

「若様、外を確認して参りますので、ここでお待ちください」

「待て。僕も行く」

「いえ、危険があるかもしれません。何事かわかるまでは外に出てはいけません」

「若様、よろしいでしょうか?」

 従者がドアを開ける前に外から声がかかった。

「どうした? 何があったんだ」

「それが、セルダ家敷地内の植木から女の子が落ちてきまして」

「はっ?」

 女の子って木から落ちるものなのか? と、イラリオは目が点になった。


 木から落ちたエミリアナは幸いにも軽傷だった。かすり傷くらいだが、きちんと手当てをするべきだと折角抜けだした邸内に戻されそうになった。

 エミリアナが落ちた馬車はライネス公爵家の馬車で、セルダ侯爵令嬢の婚約者が乗っていたという。

 エミリアナは護衛に警戒されながら、公爵令息の前に跪いて訴えた。


「お願いです、領主様を説得してください!

 ・・・わたし、領主様の勘違いでお屋敷に軟禁されていたのです。このままだと、領主様は無関係な赤の他人を自分の子供だと思って養女にしてしまいます。血統を大事にする貴族様には恥になるはずです!」

「ええっと、詳しく説明してくれるかい? どういうことかな?」

 首を傾げる令息が従者と護衛に命じて、エミリアナを馬車に乗せた。他者の耳に入れるのはまずい内容だと馬車内で話をすることになった。

 エミリアナは脱出には失敗したものの、まだ運には見放されていないと目の前の令息に賭けることにした。


 


 エミリアナは領主との面会の前日にスキルの新しい技【新築】を試してみた。  

 隠れ家の内部が新しくなる技なら初期の物置きサイズに戻せるかもしれないと一縷の望みを抱いていた。

 試してみると、隠れ家のドアに変化があった。木造ではなく金属のもっと頑丈で立派なドアが現れて外見の変化に焦るが、そのドアには見覚えがあった。夢の世界の家のドアだ。


「え、部屋のドアが家のドアになったの?」

 訝しみながらドアを開けてみれば、内部は元の物置きぐらいのサイズになっていたが、二つのドアが壁に設置されていた。

 二つのドアは部屋のドアとそっくりだ。右側のドアを開けると小さな穴蔵で、左側のドアは衝立の置いてある小部屋だった。


「うわあ、【新築】で部屋が増えるんだ。しかも、技が増えたし?」

 エミリアナは【新築】の使用で【施錠】を獲得していた。技の使用でさらに技を獲得するなんて初耳だった。フィデルに相談できなくて心細いが、領主の確認をなんとか乗りきるのが先決だ。

 幸いなことに初期の大きさに変化したのだ。【施錠】で部屋のドアを開かなくできるし、物置きサイズなら人を閉じ込めるには無理がある。危険スキル認定は回避できるだろう。


 エミリアナは夢の知識で部屋のドアに指紋認証のロックをつけることにした。今世の常識では鍵穴や鍵の魔導具がなければ鍵がかかっているとは誰も思わないはずだ。

 ドアの中央に片手をあてて認証システムを思い浮かべて【施錠】を使用すれば、ドアの中央に黒いプレートが出現した。エミリアナは左右のドアに登録して誰にも開けられないようにした。後は【内装】で地肌模様のドアにして目立たなくするだけだ。

 ドアのレバーが【施錠】で動かなくなっているので、地肌が少し出っ張っているように見せかけることができた。

 その夜、エミリアナは安心してスキルの検証に備えて早めに休んだ。


 翌日、オルギン男爵の指示でスキルの確認を行うことになった。領主様には結果だけを報告するそうで、数人の使用人がお手伝いだ。

 最初に神父が行ったのと同じ内容を試して記録を取ると、男爵は一人の使用人に中に入るように命じた。使用人は燭台に火を灯して、中に入るとドアを閉めた。


「さて、スキルを解除してみなさい」

「え!」

 エミリアナは青ざめた。さすがに人を中に入れた状態でスキル解除は試したことがない。スキル馬鹿の神父だって、そこまではしなかった。

 エミリアナが青くなってオロオロしていると、記録係の使用人に睨まれた。

「男爵様のお望み通りにするのだ。早くしろ!」

「で、でも、もし何かあったら・・・」

「小動物で試して何事もなかったのだ。大丈夫だろう」

 男爵に再度促されてスキルを解除すると、ドアが消えた。男爵がドアのあった辺りに声をかけるが返事はない。使用人がドアのあった場所を杖で叩いたり、直接行き来したり手を伸ばして触れようとするが何も手応えはない。

 ハラハラするエミリアナは男爵に命じられて、スキルを発動させた。ドアが現れてノックすると返事があって、使用人が顔をだす。


「何か、変化はあったか?」

「いえ、何もありませんでした」

「声をかけたが聞こえなかったのか?」

「はい、何も聞こえませんでした」

「ふむ、今度は一分ほど経過してからドアが開くか試してみよ」

 また使用人が中に入ったままでスキルを解除するが、一分後に何もない空間からドアが出現して使用人が無事に外に出てきた。

 燭台の火はついたままで中で何事も変わりはなかったと報告されて、男爵は再び使用人を中に入れたままスキルの解除を命じる。そして、エミリアナは少し離れた場所に移動してそこでスキルを発動するように言われた。

 いつもは目の前に現れるドアが出てこなかった。ドアは先ほど解除した場所にでた。


 あれ? とエミリアナが首を傾げていると、小鳥が入った鳥籠が用意された。

 鳥籠と火のついた燭台を中に入れてスキルを解除し、今度はもっと遠く離れた場所に移動した。中庭から裏庭への移動で、スキルを発動してもドアは目の前には現れなかった。男爵が中庭へ使用人を見に行かせると、解除した場所にドアが出現していたという。


「ほお、中に生物が入ったままだとドアは固定されるのか。スキル解除で見えなくなるし、存在も確認できなくなるが、中から開けるのは可能か。

 ・・・収納スキルより使い勝手がよくないな。やはり、収納になりかけたもの、下位互換スキルなのか?」

 男爵が顎に手をあてて呟いた。

 中を確認した使用人が小鳥にも燭台にも異変はないと告げた。男爵も中に入って確認すると言いだして、エミリアナも使用人たちもぎょっとなった。


「男爵様、さすがにそれは危険では?」

「お前たちも小鳥も無事だったのだ。問題はなかろう」

「で、でも・・・」

「中を見てみるだけだ。記録はきちんと取っておけ」

 男爵が中に入って壁や床を叩いたり触ったりしている。ドアを閉めて中から声をかけて外へ聞こえるか、また外から中へも聞こえるかを試していた。

 男爵が中に入ったまま、スキルを解除して裏庭へ移動してから発動させろと言われて、エミリアナは青くなった。男爵に何かあったらと止める使用人たちも振り切って命じられてしまった。

 エミリアナが使用人に連れられて裏庭でスキルを発動させると、目の前には何もない。しばらく待っていると、男爵が現れてやはり中庭にドアが出現したと言われた。


「君が裏庭へ着くまでにドアの開閉を行ったのだが、スキルを解除の状態で中からドアを開けて外へ出るのは可能だった。しかし、中に入ってドアを閉じると、ドアが見えなくなったそうだ。

 どうやら、スキルを解除したままだとドアが消えるようだな。

 別空間に通じているドアの存在がなくなるから、『隠れ家』なのだろう」

「そ、そうですか・・・」

 エミリアナはひくついた顔で頷くのが精一杯だ。

 使用人で確かめた後とはいえ、貴族が自ら行動するとか、無謀だと思うのだが。エミリアナは胃に穴が開く思いをして、そっとお腹をさすっていた。

 男爵は使用人に書かせた記録に目を通してから頷いた。


「よし、領主様に報告に行くから君もついてきなさい」

「・・・はい」

 エミリアナが重い足取りで男爵の後についていくと、領主様であるセルダ侯爵は執務室にいた。男爵に報告を受けてから、エミリアナに視線を向ける。

 領主は金髪に鳶色の瞳の壮年の男性で、眉間に深いシワを寄せていた。

 エミリアナが慌てて頭を下げると、領主から声をかけられた。


「エミリアナと言ったか。マリセラ・ベルティの娘だな。歳はいくつだ?」

「はい、十二歳です」

「生まれ月はいつだ?」

「春の半ばです」

「・・・ほお、そうか」

 領主はしばし目を閉じて考え込んでから、目を開けた。顔に笑みを浮かべるが、目に温度がなくて怖い。

「お前は私の娘だ。今まで知らずに放っておいて悪かったな。引き取って育ててやるから、安心するがよい」

「え、領主様。誤解です。わたしのお父さんは隣国の文官だった人です」

「なぜ、そう言い切れる?」

 侯爵が不機嫌になって問い詰めてくる。エミリアナはポケットに入れておいた手紙を取りだした。 


「お母さんからの手紙に書いてありました。わたしはお父さんとお母さんの子供です。領主様、ご確認ください」

 男爵が侯爵から目配せを受けて手紙を受け取った。裏表と手で触れて危険はないと判断してから侯爵へ渡す。

 手紙を読んだ侯爵がすっと目を細めた。

「確かに彼女の字だな。だが、この手紙で父親が判明したわけではない」

 侯爵は灰皿に手紙を置くと、指から小さな火を放った。小さくても手紙が燃えあがるには十分だった。


「あ、お母さんの手紙がっ!」

「危ないからやめなさい」

 エミリアナが手紙に飛びつこうとするが、男爵に止められた。すぐに手紙は燃え尽きて灰になってしまった。

「そ、そんな・・・。お母さんの手紙が・・・」

「マリセラの夫が亡くなってすぐにお前を孕ったから彼女は勘違いしたのだろう。マリセラは早産の影響で亡くなったのだ。お前は私の娘だ、わかったな?」

「ち、違います。わたしのスキルは誰も聞いたことがないものです。きっと、隣国の出の両親の家系だからです」

 エミリアナが涙目で睨むが、侯爵はうるさげにしかめた顔を向けるだけだ。


「私の血を引いているから、レアスキルを得たのだろう。だが、レアスキルでも収納の下位互換では何の役にも立たんがな。

 私の娘として遇してやるだけでもありがたく思え」

「わたしは領主様の子供ではありません!」

「うるさい、喚くな。オルギン、これを大人しくさせておけ」

「はい、かしこまりました。さあ、君は私と来るんだ」

 エミリアナは男爵に腕を掴まれて連行される。


「男爵様、わたしは違います。領主様の誤解を解かないと・・・」

「孤児が侯爵家に引き取られるのだ。これ以上ない幸運だぞ。君は感謝するがいい」

「わたしはお父さんとお母さんの子供です!」

 エミリアナが泣き喚いても大人の力には敵わない。エミリアナは客室に押し込められた。

 鍵をかけられて食事は侍女が運んでくるが、部屋から出してはもらえない。頭を冷やすまで反省していろと軟禁されてしまったのだ。


 一日目は泣いて訴えても誰も取り合ってくれなかった。

 二日目は脱力して無気力になっていた。

 三日目で邸内が慌しくなった。来客に備えていたところに夫人が体調を崩したとさらに邸内が騒がしくなっていた。

 エミリアナはこの隙にと逃げだしたのである。

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