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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第一章 孤児のエミリアナ

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十二幕

 その日は初夏にしては肌寒い日だった。朝からどんよりとした曇り空でいつ降り出してもおかしくない。気温も低めで、季節が逆行しているようだ。

 珍しくエミリアナは一人で行動していた。配達のお手伝いで孤児院に大急ぎで届けて欲しいと頼まれたのだ。

 エミリアナは配達先で熟練度が上がって、新しい技の【新築】を獲得した。

【増築】で中が広くなったから、【新築】では新しい部屋が増えるのかもしれない。


 新しい部屋だとドアがもう一つ出てくるのかな? でも、【新築】の度にドアがでてくるとドアだらけになっちゃうから、今の部屋が新築みたいに綺麗になるのかな?


 エミリアナはわくわくと考えながら、フィデルに相談しようと思っていた。

 エミリアナが孤児院に着いて届け物を渡すと、院長先生からお隣の教会に行くように言われた。

「領主様の使者がおいでで、エミリアナのスキルについて尋ねたいことがあるそうだ」

「え・・・、わたしが、ですか? スキルの話は神父様のほうが詳しいんじゃ?」

「エミリアナのスキルはこれまで記録にないものだから、神父様も説明が難しいのだろう。お手伝いはもういいから、早く行きなさい」

 院長先生に促されてはお断りはできない。エミリアナは一人で不安だったが、神父様がいるから大丈夫だと自分に言い聞かせて教会に向かった。

 すぐに神父様が応接室に案内してくれて、中には三十代ぐらいの男性がいた。立派な服装でお偉い方、もしかしたら貴族かもしれない。エミリアナが緊張していると、男性が驚いたように目を見開いて凝視してくる。


「君は・・・、私の知人によく似ているのだが、名前はなんというのかね?」

「わたしはエミリアナ・ベルティと言います」

「ベルティ? もしや、母親はマリセラという名では?」

「え・・・、あの・・・」

 エミリアナは不安そうに神父様を見上げて助けを求めた。母の名に頷いていいものか迷ったのだ。

 神父様が微妙な雰囲気を悟って、使者に話しかけた。

「使者殿、スキルのお話だと伺いましたが? その知人のお話も重要なのでしょうか?」

「ああ、いや、知人の件は後回しでもよい」

 使者は気をとりなすように手を振った。

 エミリアナは神父様に庇われてほっとした。神父様の隣に誘われて座ると、使者はオルギン男爵だと名乗った。領主の補佐を務める文官で、領内のスキル管理に関わっていると紹介された。


「年末に氷室から出られなくなって、エミリアナのスキルで難を逃れたであろう? 使者殿はその時の状況を知りたいそうだ」

「ああ、報告によると一時間以上は君のスキル、隠れ家内にいたらしいな。

 救出後に息苦しさを感じていたようだが、内部に空気穴はないのか?」

「ええっと、空気穴があるのかはわかりません。

 ただ冷気で体が冷えてしまったから、皆で体を動かしたほうがいいってなったのです。軽い運動でしたけど、息があがってしまったから息苦しさを感じたのだと思います」

 フィデルと打ち合わせした言い訳を口にすると、神父様も口添えしてくれる。


「これまで何度か検証しておりますが、蝋燭の灯りが揺れることはありませんでしたので、風の通りはないものと思われます。

 火が消えるまで内部に留まるのは危ないと思いましたので、燃焼時間の確認はできておりません。長時間の滞在はやめておいたほうがいいでしょう。

 今回は緊急非常事態で利用しただけで、そう危険視することはないと思われます。

 なにしろ、防音性はありませんので物音を消すのは無理です。中に人がいれば外部にはすぐに伝わりますから」

「では、中に人が閉じ込められる危険はないのか?」

「ええ、スキルは使いこなし次第ですからね。

 転移スキルも悪用されれば人を攫う手段になるでしょう。ですが、危険視はされておりませんし、隠れ家もそう心配することはなかろうかと」

「そうか。一応、領主様にその見解は報告するが、実際に確かめてみたほうがいいだろう」

 エミリアナは不安になった。中に入って詳しく調べたら、衝立で誤魔化しているのがバレるかもしれない。


「それでは、中庭でスキルを試してみましょうか。これからすぐに行いますかな?」

「いや、領主様に直に見ていただいたほうがよい。それに、この子がマリセラの娘なら、領主様にお知らせしないといけない」

「え・・・」

「領主様はエミリアナの母君とお知り合いなのですかな?」

「ああ、マリセラは領主邸で働いていた。突然、辞めてしまって消息不明だったのだ。君は彼女とそっくりだ、娘なのだろう?」

 エミリアナは息を呑んだ。嫌な予感がして、どくどくと心臓が音を立てる。


 まさか、領主様の隠し子だと思われているの?


「あの・・・、確かにわたしのお母さんの名前はマリセラです。でも、領主様に知らせることはないと思います。母は体調が悪くて辞めたと聞いてますし」

「いや、領主様は気にかけていたから、君に会ってみたいはずだ。スキルの確認もしなければならないし、領都まで一緒に来てもらおう。

 今すぐ手続きを済ませるから君も用意しなさい」

 決定事項として告げられて、エミリアナはどうしようと頭の中が真っ白になった。オロオロしていると、神父様が口を挟んでくる。

「使者殿。今すぐにとは、性急なお話ではないですか。エミリアナも驚いておりますよ。せめて、明日になさっては・・・」

「いや、他領からの帰途に寄ったのだ。領主様宛の親書や重要書類などを預かっている。早めに戻らないと領主様がお困りになるから、すぐに出発する」

「え、あの、神父様・・・」

 エミリアナが助けを求めるように視線を向けるが、神父様は顔をしかめて首を横に振った。

「エミリアナ、仕方がない。使者殿の言うとおりにするのだ。スキルを確認したら孤児院まで送ってくださるだろう」

 エミリアナに拒否権なんかなかった。使者が孤児院で手続きする間に着替えを用意して旅の準備をするように命じられた。


 エミリアナが部屋で一番まともな服に着替えていると、テオドラが顔をだした。

「エミリアナ、どうしたのお? なんか、院長先生のとこにお貴族様が来ててあんたを連れて行くとか言ってるけどお?」

 テオドラはお客様にお茶をだす役目を任せられて、院長たちの会話を小耳に挟んだのだ。

「・・・テオドラ、わたし、領主様にスキルを見せることになったの。隠れ家内に人を閉じ込められる危険性を確認するって・・・」

「え? それってマズイんじゃないの⁉︎ ・・・まさか、氷室で隠れ家にあたしたちが入ったせい?」

 テオドラが焦った声をだした。

 自分のドジのせいでエミリアナに迷惑がかかったのだと青くなった。

「領主様に見せたら、誤魔化してるのがバレちゃうんじゃあ・・・」

「うん、でも、断るなんてできないし・・・」

 少女二人で青い顔を見合わせていても仕方がない。使者を待たせると院長から叱責されそうだ。二人は旅立ちの準備をすることにした。

 テオドラが買い物用の布バックを持ってきて、エミリアナに押し付けた。


「これに着替えを詰めて。厨房のおじいさんが携帯食にクッキーをくれたわよお」

 小袋を渡されてエミリアナは布バックの一番上にしまう。

「エミリアナ、あんたのスキルは穴蔵だって皆に思われてるわあ。レアスキルでもハズレはあるもの。

 ハズレスキルだって強調すれば、危険だとは思われないし、領主様に囲われることにもならないんじゃないのお?」

 テオドラが真剣な顔で忠告してくるが、エミリアナの顔色はすぐれない。


「スキルだけじゃないの。わたしのお母さんが領主邸で働いてて、領主様は気にかけてたって言われた。

 使者の人はわたしを領主様に会わせたいみたいなの」

「え、エミリアナのお母さんって・・・」

 テオドラが口篭った。エミリアナの母の噂は聞いたことがある。

「ううん、わたしのお父さんは領主様じゃないよ。バネッサさんが産み月が合わないって言ってたし、お母さんの手紙もあるもん」

「お母さんの手紙?」

「うん、バネッサさんがお母さんから預かってたの。わたしの両親のことが書いてあったから」

 テオドラに説明すると、ほおっと息を吐かれた。


「なあんだ。手紙を見せれば領主様も誤解だってわかってくださるわよお」

「うん、手紙は持っていくつもり。お母さんの話がでたら、見せようと思ってる」

 エミリアナは荷物をまとめると、隠れ家から小箱を取りだした。中から手紙をだして布バックにしまうと、テオドラが興味津々に眺めてくる。

「へえ〜、この箱がお父さんの形見なの。これも持って行くのお?」

「ううん。この箱は職員に見つからないほうがいいから。

 またバネッサさんに預かってもらうようにフィデルに伝えてくれる?」

「え、あたしがあ?」

「うん、フィデルは今日は遅くなるかもって言ってたから」

 エミリアナが頷くと、テオドラは頼られて満更でもない顔になった。

「ああら、仕方ないわねえ。ふふん、頼まれてあげるわよお」

 テオドラはベッドの上掛けをめくって中に小箱を隠した。エミリアナと連れ立って院長室に行くと、もう使者は出立するようで、エミリアナは急かされた。

 院長とテオドラが見送る中、オルギン男爵に連れられてエミリアナは馬車に乗り込んで行った。


 


 フィデルが戻ったのは夕方だった。

 今日は氷の需要が少なかったのだが、商業ギルドで仕入れた氷の魔石の大半が事故で壊れてしまったとかで魔石の代わりに氷柱を大量に頼まれた。一度には無理で休憩を挟みながらの作業で時間がかかってしまった。

「フィデル、ちょっといいか?」

 小声のマルコスに呼ばれて連れて行かれたのは裏庭だ。

 茂みの陰にテオドラがしゃがみ込んでいて手招きされる。マルコスも周囲を気にしていて、二人でこそこそと隠れているようだ。


「二人とも何してるんだ?」

「いいから、こっちに来て。これをエミリアナから頼まれたのよお」

 テオドラがエプロンでぐるぐる巻きにした何かを渡してきた。不審に思いつつ、エプロンを剥がすとエミリアナの父の形見の小箱がでてきた。

「これは・・・」

「またバネッサさんに預けて欲しいそうよ。エミリアナは領主様に直接スキルの確認をしてもらうからしばらく出かけてるのよお」

「はっ? なんで領主様に?」

「氷室に閉じ込められた時に隠れ家を使ったでしょお?」

「一時間以上は中にいたから人を閉じ込められるんじゃないかって思われたみたいだよ」

 テオドラとマルコスに説明されてフィデルは険しい顔になった。領主邸で確認となると、神父より詳しく調べられるはずだ。誤魔化しがバレてしまうかもしれない。


「スキルはこれまで散々穴蔵呼びしてたから、ハズレだって強調すればそう心配することはないと思うわあ。神父様も危険はないって口添えしてくださったみたいだし。

 でもねえ、エミリアナのお母さんのほうが問題になるかもしれないのお」

 テオドラが深刻な顔になってマルコスが首を傾げた。

「どうして、エミリアナのお母さんが?」

「使者の方がね、エミリアナのお母さんを知っていて領主様と会わせたかったみたいなのお。

 エミリアナは領主様がお父さんじゃないって言ってたけど・・・」

「え、エミリアナって領主様の隠し子だったの?」

 マルコスがぎょっとなって、フィデルが首を横に振った。


「いや、違う。エミリアナの両親は隣国の没落貴族だったようだ。父親が亡くなって、母親は領主邸に住み込みのメイドになったと聞いてる」

「うん、手紙があるって言ってたわあ。それを領主様に見せれば誤解は解けるって。

 でも、なあんか、あの使者の人の目つきが気になったのよねえ」

「どういう意味だ?」

 フィデルが低い声をだして、無意識に冷気を発していた。マルコスがひっと首をすくめて、テオドラが面倒くさそうな目になる。


「落ちつきなさいよお。別に変な意味ではないから。嫉妬深い男は嫌われるわよ?

 使者の方はお貴族様で、ああいうお偉いさんって孤児なんか使用人以下の扱いなのよねえ。

 でも、あの方は懐かしそうにエミリアナを見てたから、マシな対応だと思うわあ。まあ、領主様の隠し子と思っているせいかもしれないけど。

 隠し子疑惑が解けても、待遇が変わらなければいいなって思ったのよ。エミリアナをこの町まで戻さないで、領都の孤児院に入れるとかしないといいのだけど・・・」

「転院手続きをしない限り、大丈夫じゃないかな? 正当な理由がないと移動できないはずだよね」

 マルコスがシモンが移動した際を思いだして告げた。孤児は人身売買の被害に遭いやすいから、手続きは法で定められているはずだ。

 だが、フィデルは苦々しげに口を開いた。


「わざわざ孤児一人のために領主がこの町まで送ってくれると思うか?

 そんな手間ひまをかけるよりも手近な孤児院に入れて、手続きは後から済ませそうだぞ」

 領都とこの町はそれぞれセルダ領の端と端に位置していて乗合馬車で五日もかかる。フィデルの言う通りになる可能性が高かった。

「ええー、そんな無責任な。でも、そうなっても僕たちにはどうしようもないよ」

 マルコスがお手上げだと天を仰ぐ。テオドラが隣の教会に視線を向けた。

「神父様にお願いして協力してもらうのは? 

 神父様はエミリアナのスキルに興味があるんでしょお。スキルの研究目的で力になってくれるんじゃないかしら?」

「・・・そうだな、神父様に話してみよう。まあ、いざとなったら、来年おれが冒険者登録したら領都まで迎えに行ってもいい」

 フィデルが決意したように力強く宣言して、テオドラもマルコスもほっと顔を見合わせた。

 三人ともこのままエミリアナと会えなくなるとは思ってもいなかった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

評価やブクマ、いいねなどありがたいです。誤字報告も助かります。


これにて第一章は完結、来週からは第二章になります。『第一章 孤児のエミリアナ』追加しました。

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