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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第一章 孤児のエミリアナ

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十幕

「えっと、助けを呼べばいいでしょお」

「地下室へのドアは開けてきたのか?」

 うっとテオドラが言葉に詰まっている。地下室の階段は転落防止でドアで塞がれている。閉まったままなら、ここで叫んでも上まで声は届かないだろう。

「わたしたちが戻らないのを心配して見にきてくれるんじゃない?」

「テオドラが呼びに来たばかりだ。しばらくは誰も来ないと思うよ」

 マルコスの最悪な見通しに誰もが顔色を悪くした。フィデルが氷魔法を使ったばかりの氷室は冷たさが増していて今にも凍りつきそうだ。特にテオドラは唇の色まで悪くなって寒さに震えている。


「そんなあ、開かないの?」

 テオドラがガチャガチャとドアノブを揺らして、ガンガンとドアを叩き始めた。

「テオドラ、手が真っ赤よ。傷めてしまうわ」

「うるっさい! あんたは着込んでるからいいけど、あたしは寒いのよっ」

「エミリに当たるな」

 フィデルがマフラーを外してテオドラの首にぐるぐる巻きにした。風邪が治ったばかりでエミリアナが心配するから巻いていた。外すと首筋から冷気が入ってきて寒いが、テオドラが体調を崩すと厄介だ。

「貸してやるから騒ぐな。余計な体力を使うだけだ」

「でも、体を動かしたほうがいいんじゃない? 寒いもん」

「運動するには場所が狭すぎるよ」

 マルコスが腕組みをして足踏みしているが、それで防げる寒さではない。吐く息は真っ白で、皆凍えていた。

 フィデルはぐるっと室内を見渡して、思いきり顔を歪めた。


「エミリ、緊急事態だ。仕方ない。隠れ家を使おう。こいつらは黙らせるから」

「うん、わかった」

 エミリアナは隠れ家を出現させて、【照明】を使った。ドアを開けてスイッチを入れると、明るさに閉じ込められた恐怖が和らぎそうだ。

 テオドラとマルコスがあまりの眩しさに目を瞬いている。

「え、なんでこんなに明るいんだ?」

「寒くなきゃ、なんでもいいわよお」

 隠れ家の中は寒くも暑くもなく、一定の温度を保っている。多分、過ごしやすい快適温度になっているのだろう。

 それでも、すっかり体が冷えているから温めないと風邪をひくかもしれない。テオドラなんか、酷い顔色でマフラーに埋めている。


 エミリアナとフィデルは衝立を壁際に寄せて室内を広くした。

「待っててね。今、暖房器具をだすから」

「え?」

「はあ?」

 テオドラとマルコスは目を丸くして呆けていた。

 いきなり、部屋が広がったかと思うと、中央に長方形の座卓が出現した。もこもこの布団が天板の下から広がっていて、四方に真四角で平たいクッション?らしきものが置かれている。エミリアナが布団をめくってごそごそしたと思ったら、クッションに座った。


「スイッチを入れたから、中に入って。強くしたから、熱くなりすぎたら弱めるから。あ、靴は脱いでね。土足厳禁だから」

 地肌の床に座卓が出現した場所だけ敷物がひかれていた。マルコスとテオドラがまごついていると、フィデルがすぐに靴を脱いで素直にクッションに座った。もこもこの布団に肩まで包まるように潜り込んでいる。

「マルコスもテオドラもコタツに入って温まって」

「コタツ? なんだ、それ」

「なんでもいいわよ、あったまるならあ〜」

 テオドラがフィデルを見習って、マルコスも恐る恐るコタツに潜り込んだ。天板の下から温風がでているのか、足先からじんわりと暖かさが広がっていく。


「ベッドも出してお布団を追加したほうがいいかな?」

「いや、魔力を節約したほうがいい。ここから出るのにどのくらいの時間がかかるかわからないんだ」

 エミリアナとフィデルの会話から、エミリアナの魔力で温風がでているのだと予想がついた。

「これ、あんたのスキルなのお? ええ〜、穴蔵なのに、道具まで出せるの?」

「穴蔵じゃないってば。隠れ家だもん。スキルアップで部屋サイズになって生活道具が出せるようになったの」

「それでこの座卓が出たのか。火の魔石を使ってるわけじゃないよね?」

 マルコスが興味深げに尋ねてくる。フィデルが赤い瞳を剣呑に細めた。


「エミリのスキルは他言無用だ。皆にはこれまで通りに穴蔵だと思せておけよ。誰かに漏らしたら、おれが容赦しない」

「はあっ? なあんで、フィデルが仕切るのよ、エミリアナのスキルでしょお」

「フィデルが一番年上だし、物知りだし、頼りになるから」

 エミリアナが答えると、フィデルがふっとドヤ顔になる。ぶすくれるテオドラはますます顔を歪めた。

「また、そうやって自慢して! まるでエミリアナの保護者じゃないのお。むっかつくう〜」

「自慢してないよ?」

「事実だからな」

 二人同時に呼吸ぴったりで告げられて、テオドラの顔がものすごいことになった。

「なによ、なによお! いっつも、二人だけでそうやってえ〜。ずるいじゃないのお」

「ずるいって言ってもなあ。二人が仲良しなのは皆認めてることだし」

「はあっ⁉︎ あたしは認めてないわよ!」

 マルコスがやれやれと口を挟むと、テオドラが目を吊りあげて叫んだ。


「なあんでよお、ずうううっと一緒だって言ったくせに、なんでフィデルが一番なのよ!」

「うるさい、騒ぐな」

「はあああっ? だから、なんであんたが口出しすんのよ。あたしが一番だったのに。あんたのせいで、あたしが一番じゃなくなったのよ!」

 テオドラが涙目で睨んできた。

 マルコスはぽかんとして、エミリアナは目を丸くして、フィデルは『何言ってんだ、こいつ?』と言いたげな顔だ。

「えっと、テオドラ。どうしたの、寒さで混乱してるの?」

「エミリアナの薄情者、嘘つき、約束したのに忘れたくせに!」

「エミリに絡むな。凍らせるぞ」

「フィデル、落ちついて。せっかく、温まったのにまた冷えちゃうよ」

 フィデルが剣呑な目つきになって、慌ててエミリアナがストップをかけた。


「ねえ、テオドラ。約束って何? わたしがテオドラと約束したってこと?」

「したもん! 内緒だって言ったもん!」

 テオドラが幼児化して、赤い顔をして涙目になっている。マルコスがコタツから身を乗りだしてテオドラの額に触れた。

「ちょっと熱い。熱がでてきたかもしれない」

「何よ、勝手に触んないで。皆、嫌いだもん!」

「テオドラ、ちょっと待って」

 エミリアナは【調度品設置】で部屋の奥にベッドを思い浮かべた。この技は設置場所を視認する必要があるせいか、隠れ家内でも発動可能だ。

 エミリアナはベッドから毛布も羽毛の掛け布団も引っぺがしてテオドラにかけようとした。


「テオドラ、これで温ま「うわわああん!」

 テオドラがエミリアナに抱きついて泣きだした。皆、突然のことに驚いて固まってしまう。

「え? て、ておど」

「トモダチだって言ったもん! 内緒だって言ったのに。なんで、フィデルなのよお」

 エミリアナはオロオロしたが、えぐえぐ泣くテオドラを放っておけない。とりあえず、背中を撫でて宥めていると、フィデルにテオドラごと布団で包まれた。

「エミリも寒くないように包まってろ。コレは落ちつくまで泣かせておくしかない」

 ドブスの次はコレ呼びだ。相変わらず塩対応のフィデルだが、さすがに体調を崩して情緒不安定な彼女に冷たくあたるつもりはなかった。

 しばらく、テオドラの泣きじゃくる声だけがしていた。フィデルとマルコスはコタツに深く潜り込んで温まっている。エミリアナはテオドラごと布団に包まっていた。

 真っ赤に泣き腫らした目をしてテオドラがエミリアナにしがみついたまま、独り言のようにぽつぽつと話しだした。




 テオドラが院に入って初めての夜、ふと目を覚まして一人ぼっちで暗くて怖くて寂しくて悲しくなった。ぐしぐしと泣きべそをかいていたら、隣のベッドの少女がむくりと起き上がってテオドラの顔を覗き込んできた。

「どうしたの? どこかいたいの?」 

 テオドラがぐすぐす鼻を鳴らすと、少女は彼女の隣に潜り込んできた。ぐりぐりと遠慮なく布団に入り込んで、テオドラにくっついてくる。

「いたいとこはね、さするとよくなるんだって」

「・・・いたく、ない」

「じゃあ、こわいゆめをみたの? えみりはね、たのしいゆめをみるよ。

 ゆめのなかでおとうさんとおかあさんがいて、いっしょにすんでるの。みんなでねると、あったかくてきもちいいんだよ。 

 でもね、おとうさんもおかあさんもやさしくて、すごくすきなのに、おきると、わすれちゃう、の・・・」


 少女はうつらうつらしてすぐに寝息をたてていた。テオドラも少女の温もりで暖かくなって、暗さも怖さも薄れた。気がつけば朝になっていた。

 少女は毎晩テオドラの布団に潜り込んでくっついてきた。見回りの職員に自分のベッドで寝なさいと諭されても最初だけだ。職員がいなくなると、すぐにテオドラにくっついてくる。

 少女は布団の中に隠れてこしょこしょと内緒話をする。夢の話を教えてくれて、テオドラも楽しく空想しているうちに深い眠りに落ちる。

 なかなか院に慣れなかったテオドラが他の子供と打ち解けるようになった頃に、少女は——エミリアナは潜り込まなくなった。新入りの怪我だらけの子供に関心が移ってしまったのだ。




「一番のトモダチだったのよ。

 夢の話は内緒だって、仲良しの証だって言ったのに、エミリアナはフィデルにベッタリになって・・・。ひどいよ、約束したのに」

「でも・・・、テオドラはわたしのこと空想癖があるって、バカにしたじゃない」

 愚痴るテオドラにエミリアナはむうとむくれた。


 フィデルの怪我が治るまでは確かにつきっきりでお世話をしていた。でも、孤児院は男女で部屋が分かれている。二人部屋に二段ベッドを入れて四人から六人の定員オーバーで密集状態だ。エミリアナとテオドラは八歳上と五歳上の少女と相部屋だった。

 八歳上なのはベルナルダで年少者をお世話してくれていた。彼女はフィデルに夢の話をするようになったエミリアナがうっかりと口走っても、想像力が豊かなのねと微笑ましい目を向けていた。しかし、テオドラは男の子に囲まれることが多くなって、エミリアナの話をまともに聞くこともなく、おかしな空想をしていると嗤うようになった。


 だから、エミリアナはフィデルにだけ夢の話を教えたのだ。フィデルは興味深げに聴いてくれたから。


「だって、エミリアナがフィデルばっかり構うから・・・」

「テオドラは男の子と遊んでて、誘っても断ったじゃない」

「だって、フィデルは睨んでばっかりで怖かったし、黒髪も赤い眼も見たことなかったし。医務室に行く気にならなかったもん。男子だって誰も近寄らなかったし」

「・・・誰がお世話役になるかで揉めてた気がするよ」

 マルコスが口を挟んできた。温まったせいか、眠そうに目がとろんとしてきている。

「おれはエミリがお世話役でよかったよ。エミリだけは怖がったり、不気味に思ったりしなかったから」

「不気味なんて言ってないじゃない。ただ、ちょっと見慣れなかっただけよ」

 テオドラがむすっとして瞬きを繰り返していた。赤くなった目をした彼女もしきりに目を擦っている。


「あたしは悪くないわよ。嘘ついたエミリアナが悪いんじゃない」

 聞き覚えのあるセリフだった。『エミリアナがわるいの! あたしはわるくないもん!』と叫んだ声を思い出して、エミリアナはあっと息を呑んだ。

「・・・テオドラ、それで大泣きしたことあった。テオドラがすごく泣くから、男の子たちが謝れって打ってきて。わたし、髪を引っ張られたり、突き飛ばされたりした」

「え、なにそれ?」

「・・・あったね、そういうこと。院長先生が暴力はいけませんってお説教するようになって、逆らうと反省房行きになったんだよ」

 テオドラは知らなかったようで驚いている。マルコスは欠伸をしてから頷いた。

 エミリアナは他の男の子にいじめられるから余計にフィデルのそばにいた。怪我人の様子を見に職員が顔をだすから、フィデルのそばは安全圏だったのだ。

「エミリが離れたのは当たり前だ。お前のせいでいじめられるようになったんだからな」

 フィデルが苦々しく睨んできて、テオドラは顔を青ざめさせた。

「し、知らないわよ。そんなこと・・・」

 だんだんと大きな音がして、全員がびくっとした。誰かが隠れ家のドアを叩いていた。


「ねえ、ちょっと大丈夫? この中に皆いるの?」

 エミリアナたちの戻りが遅いのを心配して、他の子が様子を見に来てくれたのだ。推測通り、倒れたモップがつかえてドアが開かなくなっていた。

 救出されたエミリアナたちはすぐに医務室行きになった。全員診察を受けて熱をだしたテオドラは医務室で養生することになった。エミリアナたちは健康と判断されたが、眠くて怠そうにしていたせいで、呼吸不足になりかけたと思われた。

 やはり穴蔵の中に長くいると息が苦しくなると判断されて、隠れ家の名誉回復にはならなかった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

評価やブクマ、いいねなどありがたいです。誤字報告も助かりますが、次の言葉は誤字ではありません。


『クッション?らしきもの』 座布団のことです。

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