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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第一章 孤児のエミリアナ

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九幕

 秋になって冬支度が始まると、エミリアナのスキルが大活躍した。収納量を誤魔化しているので、荷車との併用だが、フィデルが氷の融通ではい・・・、もとい、掌握している年長の男子が荷車係だから不満はでない。

 ちなみにフィデルはスキル活用で人身掌握に成功し、男子たちから密かに『氷の魔王』と呼ばれていた。着々と配下を増やしている。

 魔王に対抗できるのは勇者だけで、エミリアナは猛獣の調教師から勇者にジョブチェンジした。子供たちから密かに勇者呼びされているのに気づいていないのはエミリアナとフィデルだけである。


 エミリアナはスキルの熟練度が上がって新しい技を獲得した。【調度品設置】だ。

 フィデルと確かめてみると家具や室内装飾が出せるようになった。ただし、外に持ち出すことはできない。隠れ家内だけで扱える道具類だった。

 エミリアナは夢の部屋と同じ家具を出せて感動した。押し入れ兼クローゼットの引き戸も再現できたが、開くことはできなかった。おそらく、【増築】でスペースを増やせるのではないかとフィデルが推測したが、試すのは成人後で卒院してからに決めた。エミリアナの母マリセラの忠告に従うことにしたのだ。

 色々と試してみて長時間隠れ家内に滞在したが、呼吸の心配はなかった。見た目は穴蔵だが、密閉空間ではないようだった。

 隠れ家で長時間過ごしても大丈夫らしいことは誰にも秘密だとフィデルに念押しされた。

【調度品設置】の確認を終えて、一度出した道具をしまう選択もできたから、何もない状態に戻すことができた。

 相変わらず見た目はむきだしの地肌で初期状態とあまり変わらない。エミリアナのスキルは少しだけ収納量が増えた穴蔵だと皆には思われていた。




 秋も深まって木枯らしが吹く頃にスキルの認定式を終えた子供も加わって荷運びの楽さに喜ばれた。

「穴蔵のおかげで運ぶのが楽だね〜」

「エミリアナのスキルが穴蔵でよかったよ」

「ええっと、穴蔵ではないのだけど・・・」

 エミリアナは褒められているのだか、貶されているのだか、実に複雑な気分だ。

 相変わらずの穴蔵呼びだが、まあ、年下の言うことだからと大目に見てあげている。


 十歳になったシモンが治癒スキルだと判明して、職員たちは大喜びしていた。レアスキル持ちがでた孤児院は特別支給がでるからだ。

 シモンは養子縁組の申し出が殺到して、連日養い親候補と面接を繰り返していた。領主様に支える文官や武官には領地を持たない男爵や子爵の爵位持ちがいるから、貴族家に取り込んで将来は領主様お抱えの治癒師になるように見込まれていた。


「無理だよ、僕が貴族だなんて。うちは庶民の中でも下のほうだったんだよ」

 食堂でシモンが虚な顔で泣き言を並べていた。候補者は数人に絞られたが、全員お貴族様だ。他の選択肢はない。

「鬱陶しいわねえ、美味しいご飯が不味くなるじゃないのお。貴族に成り上がれるのに何がそんなに不満なのよ、あんたはあ」

 テオドラがじろりと睨んできた。


 領主直轄孤児院は教育やマナーがきちんと躾けられているから養子縁組の人気は高い。ただ、養子縁組が成立すると、寄付金の名目でそれなりの金額を支払わねばならない。孤児院も運営費がかかると言われれば、支払わないと外聞が悪かった。身分が上がるほど、体裁のために寄付金も多くなる仕組みだ。

 人身売買の誹りから免れるため、寄付金から孤児の支度を整えることになっている。養子先に見合った衣服や下着に靴や小物などがトランク一つ分だ。レターセットと筆記用具も用意されて孤児院に一度は報告を兼ねた手紙を出すように決められていた。

 孤児院を出る時の他所行きの衣装が家格よりも劣るものだと寄付金をケチったと思われて、町の噂で「あの家は本当は資金繰りが厳しいのでは?」などと流されたりするから、養い親も寄付金を渋るわけにはいかなかった。

 養い親との相性もあるので、孤児の意思を尊重してお断りしてもよいことになっているが、実際はお断りするほど院での居心地は悪くなる。領主様の機嫌を損ねて職員の給与に響くからだ。

 養子縁組の申し込みもいいことばかりではなかった。


「お貴族様になったら、今よりももっと勉強しなくちゃいけないんだよ? 

 養子先に実子がいたら、気をつかうし。っていうか、身分が上になるほど、血統を大事にしてるんだから、庶民が養子になったって本物の貴族になれるわけないよ」

「うわあ、それは大変そうだな」

「お貴族様になるって喜んでる場合じゃないな」

 シモンの憂鬱そうな言葉に周りの子供たちもうんざりした顔になっている。シモンが深々とため息をついた。


「はああっ、誰もがテオドラみたいに図太い神経の持ち主じゃないんだからさあ」

「はあっ? あんた、ケンカ売ってんの? 買ってやるから外にでなさいよっ!」

 テオドラが勢いよく立ち上がって、近くの席の子供たちが慌てて止めに入る。

「よせよ、テオドラ」

「やめなさいよ。今の時期に反省房に入れられたら風邪ひくわよ」

「静かにしろよ。巻き添え食らうのはごめんだぞ?」


 マルコスが騒がしい一団に呆れた視線を向けた。

「何やってるんだか、ご飯くらい大人しく食べてりゃいいのに」

「頭にお花畑でも栽培してるんだろ」

 辛辣な評価はフィデルだ。我関せずとばかりに食事に集中している。エミリアナが首を傾げた。

「テオドラにも養子の話がきてたよね? どうなったのかな」

「ああ、それ、調理スキルだからお断りされたらしいよ。調理は使用人の仕事でみっともないって言われたらしい」

「え・・・」

 マルコスが声を低めて、エミリアナはぽかんと口を開けてしまった。

 調理はお役立ちスキルでメジャーなものだ。それを使用人の仕事と言い切るからにはテオドラの相手はお貴族様だったのだろう。お貴族様でも授かるスキルなのに、みっともないなんて酷い話だ。


「だから、荒れてるのか。エミリ、めんどくさいから関わるなよ」

「あ、うん」

 フィデルに忠告されてエミリアナはそっと騒ぐテオドラから視線を外した。

 嫌っている相手から同情されても嬉しくないだろうし、フィデルの言う通り関わらないほうが無難だ。

「ああ、もう、うるっさいわ! ぐちぐちしてるシモンが悪いんでしょお? あたしは悪くないわよお〜」

『・・・がわるいの! あたしはわるくないもん!』

 不意に幼い声が聞こえた気がして、エミリアナは喚くテオドラを見つめた。ずっと前に今みたいに騒ぐ彼女を見た気がする。もっとずっと小さい時でーー


「エミリ、食べないのか?」

 フィデルに声をかけられて、エミリアナはハッとした。周りの子は食べ終わっていて、彼女が最後だった。止まっていた手を慌てて動かして、残りを口にする。

「慌てなくてもいいぞ。待ってるから」

 フィデルは食べ終えていたが、まだトレーは片付けていなかった。エミリアナが終わるまで付き合うつもりだ。

「あひがと」

「よく噛んで食べろよ」

 フィデルは頬張りながら喋るエミリアナに苦笑していた。エミリアナは返事ができないので、こくこくと頷く。騒がしかったテオドラ周辺も時間がないことに気づいて慌てて食事を再開していた。



 年末年始には一週間ほど市場や商店街は休みになる。治療院や商業ギルドなどもだ。

 唯一、開いているのは冒険者ギルドだけだが、有事の際に備えて連絡を取りやすいようにしているだけで依頼の受付はない。閑古鳥が鳴いている状態で、よほどの暇人以外は寄りつかなかった。

 遠方に実家がある者はこの機会に里帰りする。院でも数人の職員が休暇をとっていた。通いの者も自宅の年越し準備で大晦日から三日間はお休みだった。残った職員も当直者以外は休暇だ。


 院の年越し準備は孤児たちが総出でお手伝いに駆り出される。特にスキル持ちの十歳以上の子供たちは町中でのお手伝いがなくなった分、年越しの労働力に期待されていた。

 大晦日の年越し準備は大掃除で、建物中を綺麗に清掃して新年に備えると創世神の眷族である年神様のお渡りがあると伝えられていた。料理人が数日かけて新年を祝う料理を作ってくれて、鍋や大皿はどれもいっぱいになっていた。それぞれ氷室と貯蔵庫に保存してあった。


 大掃除中にエミリアナはフィデルと貯蔵庫の整理整頓に回された。風邪をひいて治ったばかりのフィデルがまだ少し咳き込んでいて、埃のたつ掃除には不向きと判断されたのだ。

 貯蔵庫の天井近くには明かり取りの小窓があるが、今日は曇り空で中は薄暗い。エミリアナとフィデルは一つずつランプを手元に置いていた。

 ワインの瓶を数えたエミリアナが首を傾げた。納品書と数が合わないのだ。


「フィデル、そっちにワインが混ざってない?」

「いいや、合ってるけど?」

 ブドウジュースの瓶を数えていたフィデルが顔を上げた。エミリアナの手元の納品書を覗き込んでくる。

「一本足りないの」

「確かにそうだな。でも、こっちのリストだと合ってる」

 フィデルが手にしているのは職員から渡された貯蔵庫のリストで訂正されていた。

「多分、納品後に消費されて減ったんだろ」

「ええ〜、新年のお祝い用なのに?」

 エミリアナが不審げな顔になる。

 ワインやブドウジュースなどの嗜好品が院でだされるのはお祝い事がある時だけだ。新年の夕食は一年の始まりを祝していつもより豪華な食事だった。ワインやブドウジュースはそのための物なのに、消費して問題ない相手となると院長くらいしか思い浮かばない。


「院長センセーは書棚の下の戸棚に酒類を隠してるんだ。今回のもそこに収納されたんだろ」

「フィデル、詳しいね・・・。何かやらかした?」

 エミリアナがジト目になった。

 反抗的なフィデルはよく院長室に呼ばれてお説教を受けている。スキルを得てからは減ったが、以前はほぼ毎週だった。一番多く院長室に入ったことがある孤児だろう。いや、もしかしたら、職員よりも多いかもしれない。

 フィデルがふっと口角をあげた。

「あのセンセーのやることなんて、見なくても容易に想像がつくさ。それよりも、早く終わらせて上に戻ろう。冷えてきただろ」

「うん、そうだね」

 エミリアナは大急ぎで頷いた。貯蔵庫には暖房がない。厚着してコートを着ていても動かないと足の先から冷えてくる。

 リストの三分の二くらいは終えた頃にドアが開いてマルコスが顔を覗かせた。


「まだ終わってなかったね。厨房の掃除が終わってないから、昼食は朝の残りだって。

 もらってきたから一緒に食べよう」

「マルコスもまだなの?」

「うん、下は大変そうだから手伝ってこいって言われた」

 マルコスが籠を差しだした。中には朝の残りの大きなパンにチーズやハムを挟んだり、りんごジャムを塗ったものが入っていた。

 料理人が休みでもパンに困ることはない。孤児の中には飲食店の見習いが決まって厨房のお手伝い係になる者が毎年いるから、パンを焼くくらいは孤児だけでもできる。

 エミリアナがりんごジャムを好きなのは二人とも知っていたから、紳士らしく譲ってくれた。フィデルとマルコスはジャンケンで勝者がハムだ。


「う、負けた。せっかく、持ってきたのに・・・」

「じゃあ、その礼に半分にして交換してやるよ」

 落ち込むマルコスにフィデルが勝者の余裕を見せつける。

 最初から半分こにすればいいんじゃない? と、エミリアナは疑問に思ったが、思春期にさしかかる男同士で『仲良く半分こしようね〜』はナシだ。男心のわからないエミリアナは不思議がっているが、二人とも食べるのが早い。エミリアナも一生懸命もぐもぐして食べ終えた。


 マルコスも手伝ってくれて残りはすぐに終わった。後は氷室の確認だ。

 氷室は低温を保つために小窓のない小部屋で真っ暗だった。四方の壁に収納棚が設置されていてランプを置く台もある。中央の台座に氷の魔石を置いて部屋全体を冷やしていた。フィデルが氷柱を出せるようになってからは台座の魔石が除かれて氷柱が設置されていた。

 今、台座にある氷柱はフィデルが前に確認した時よりも溶けて小さくなっていた。数日前まで例年よりも暖かい日が続いたせいかもしれない。


「氷柱の補充をしたほうがいいな」

 フィデルが呟くと、左右の対角上の台にランプを置いて部屋を明るくしたマルコスが寄ってきた。

「病みあがりだろ、無理はしないほうがいいよ」

「氷の魔石が設置されてないところを見るに、空になって使えないんだろう。氷が全部溶けてしまう前に補充しておいたほうがいい」

 フィデルは手をにぎにぎして、久しぶりの魔法を扱う準備動作だ。

 魔石は空になると魔力を補充すれば再び使えるようになる。ただし、回数を重ねる度に劣化して効果も弱くなっていく。表面にヒビが入ったり割れたりしたら寿命で使用不可だ。

 魔石に魔力を注ぐのは成人以上と法で決められていた。魔力の制御に慣れないうちは予想以上に吸いとられてしまったり、許容量オーバーで魔石を破損することがあるからだ。それに成長途中の未成年が魔力を枯渇させると成長不良になる危険性もあった。


 エミリアナが不満そうに唇を尖らせた。

「氷の魔石はフィデルが体調不良な時用に保管してあったのに、使いきって放っておいてるの?

 先生たちって酷くない?」

「あのセンセー方に先見の明なんてないさ」

「あまり勤勉じゃない先生たちだし」

 嘲るフィデルにマルコスも苦い顔になっていた。エミリアナも顔をしかめる。

「ええ〜、フィデルはまだ病み上がりなのに・・・」

「大丈夫だ、氷柱をだすくらいはできる。下がっていろ」


 マルコスとエミリアナは邪魔にならないように戸口の前で待機だ。フィデルが小さくなった氷柱に両手を向けて氷魔法を放った。

 一気に冷気が押し寄せて、エミリアナはブルっと震えた。キンと澄んだ音がして、みるみるうちに氷柱が大きくなったが、台座からはみ出ても止まらなかった。


「フィデル! そこまでだ!」

 マルコスが飛びつくようにフィデルの肩を掴んで制止した。

 フィデルが両手を下げて大きく肩で息をする。若干、顔色が悪くなっていた。

「くっ、ちょっと、力が入りすぎた」

「まだ、体調が完全に戻ってないんじゃない? 無理するなよ」

 力の制御ができなかったらしく、フィデルが悔しそうに唇を噛み締めた。エミリアナがランプを回収していると、バンと大きくドアが開け放たれた。


「ちょおっとお、まだ終わらないのお?」

 テオドラが足を踏み入れた途端に寒そうに首をすくめた。厚着しているエミリアナたちに比べて、上着は着ていないから冷気が身に染みるのだろう。

「ほらあ、寒いからさっさと戻り、きゃあ」

 テオドラが足を滑らせてドアにぶつかった。バタンと大きな音がして、ドアが閉じてしまった。

「いった〜」

「テオドラ、大丈夫?」

「気をつけなよ」

 エミリアナが尻もちをついたテオドラにランプをかざして、マルコスが彼女が落としたランプを拾いあげた。火が消えてランプの傘にヒビが入ったが壊れてはいないようだ。


「気をつけろよ。備品を壊すと叱られるぞ」

「床がツルツルしてるのが悪いのよお」

 テオドラがぶつぶつと文句を言いながら氷室から出ようとしたが、ドアが何かにぶつかって開かなかった。

「え、うそおおお。開かないんだけど?」

 テオドラが慌ててドアノブを押すが、がつがつとぶつかる手応えがあって、掌ぶんくらいの隙間しか開かない。

「ちょっと貸してみて」

 マルコスが代わるが、やっぱり開かなかった。


「テオドラ、さっき開けた時に引っかかるものとかあった?」

「そんなの、知らな・・・」

「テオドラ?」

 テオドラの目が泳いで全員の視線が突き刺さる。テオドラはむすっと顔をしかめた。

「モップとバケツを外に置いてきただけよ。関係ないわよお」

「え、それが原因じゃないの?」

「モップが倒れてドアを塞いでるんじゃ?」

 エミリアナとマルコスにツッコまれて、ますますテオドラの視線が忙しなくなる。地下室の廊下はそんなに広くはない。十分あり得ることだった。

私が調べましたところ、『調度品は日常生活で使う道具類。家具や装飾品の総称』とのことでしたので、引き戸は壁の装飾扱いで出現可能になったという設定です。

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