ピンクの夕陽
「あれから六年か...」
私は、二十二回目の誕生日を静かに実家で迎えた。
そして、母と久しぶりにあの時の話をした。
母の話は、私の心を乱した。
やがて、私の心は...グルグルと回る渦の中に飛び込んでしまった。
「ちょっと、出かけてくる」
「気をつけてね」
母はまだ、私が一人で出かけるのが少し心配な様だった。どこに行くのかは分かっているのだろう。
「大丈夫だよ」
(もう、本当に大丈夫だよ)
そう言うと、母は少し安心した様子で、私を送り出した。
私には、大切な場所がある。
今の感情を整理するには―――。
しばらく歩けば、そこは綺麗な砂浜とキラキラ光る海。
この海に夕日を見に来るのが、私達三人の日課だった。
夕日がもうすぐ沈む頃、目の前に広がる景色は鮮やかなオレンジ色に染められた空。
この空はいつだって、優しく私を包み込んでくれる様だった。
夕日の目の前に座り、一直線に見つめる。すると夕日の光が海に反射し、夕日までの道筋が波の上に現れる。
私の特等席はいつだってここだった。
やがて光は、海の中へと消えていく。
辺りの砂浜は、夕日を見に来た人たちで賑わっていた。しかし、ほとんどの人はその夕日が見えなくなると同時に帰っていく。
「これからなのに」
私は一人で呟いた。
しばらくすると、私の好きな夕陽が現れる。
徐々に空がピンク色に染まる。
まるで沈んだ夕日がまた出てきてくれたかのように。
私は昔からこの景色が好きだった。
座ってその空を眺めていると、剣道の竹刀を持った部活帰りの学生が自転車で横を通り過ぎて行った。
その一瞬で、ほんの数秒だけで、私の中の懐かしい記憶が鮮明に頭に蘇る。
私たちの大切な花色の春。
出会いは今から十六年前。
手を繋ぐ私と健太の前に、一人の少年が現れた。
小学生になる数ヶ月前、私達三人は海の近くの小さな町で出会った。