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伯爵令嬢がやってはいけないこと

作者: 椎名正

 私はこれから婚約破棄を宣言される。

 だけど、そんなことはさせない。


 私は第三王子の婚約者。伯爵の娘で、魔法学園を首席で卒業した頭脳の持ち主だ。

 つまり、婚約破棄することは、私の頭脳を手放すことであり、この王国の多大な損失になる行為だ。

 愚かな王子は、そのことをわかってない。

 王家の婚姻に恋愛感情などいらないのだ。


 私は伯爵令嬢の立場を利用して王子のことを徹底的に調べた。

 弱味があれば、それを材料にして婚約破棄を撤回させるつもりだった。

 だが、王子は清廉潔白で何のやましいことはしていなかった。

 それならと、私は王国の不正の証拠を集めた。

 王国の成り立ちなど、大抵は不正まみれだ。その証拠を突きつけるだけで、王家の威信など簡単に揺らぐのだ。


 そして、この魔法学園の卒業パーティーで、予想通り王子は、私に婚約破棄宣言をした。

 私のメイドがそばに控えている。

 そのメイドが持っている書類はこの王国を揺るがすだけの過去の国の不正の証拠が揃っている。

 婚約破棄されたからと言って、私は感情的にはなったりしない。静かに王子を脅迫するだけだ。

 私は静かにメイドに合図するだけ。

 そうすればメイドが王子に証拠をつきつける。

 メイドに合図をするだけ。

 合図を・・・

 ・・・

 「お嬢様。やらないのですか?」

 伯爵令嬢は常に冷静でなければならない。

 だけど、

 「できるわけないじゃない!」

 私は怒鳴っていた。

 伯爵令嬢は人前で大声を上げてはいけない。

 「どうしてです?」

 そんなことすれば大勢に迷惑がかかる。

 「私にはそんな度胸がないこと知っていたくせに」

 メイドは静かにきっぱりと私に言った。

 「違います。お嬢様がやらないのは、度胸がないのではありません。お嬢様がやさしい人だからです」

 伯爵令嬢は取り乱してはいけない。

 「私がやさしいはずが無いでしょう!他人にやさしくできるのは余裕がある奴よ。私は自分のことだけで精一杯なのよ!」

 私の醜態を、卒業パーティーのみんなは見ないようにしていてくれている。

 でも、そんなみんなの優しさを、私は台無しにする。

 「みんな知っていたくせに!私が馬鹿なことをするって知っていたくせに!おまえも!おまえも!おまえだって!」

 伯爵令嬢は人を指さしてはいけない。

 ましては王子を指さすなんて不敬の極みだ。

 「私は伯爵令嬢なんてうまくやれない!こんな決まりごとがいっぱいあって、他人とのコミュニケーションがたくさんあって。私には何一つうまくやれない!あなた達みたいに、器用に伯爵令嬢なんてできない。でも、伯爵令嬢の道を外れて道を切り開くだけの才覚だって、私には無い。だったら、せめて一番ましな場所にいさせよ!私から王子の婚約者の立場を奪わないでよ!」

 みんなは、私が気が済むまで怒鳴らせてくれる。

 伯爵令嬢は感情を表に出してはいけない。

 でも、私は涙を止めることはできない。

 「みんな、うまくやっているわけじゃないんだ」

 王子は私に語りかける。

 「僕も王子を初めてやる。失敗がないことなんて無理だ。みんなだって、初めての人生で完璧な役割なんて果たせない。それでも、自分ができることをやっていく」

 この人はとても大人だ。

 「僕は君を追い詰めてしまった。僕の婚約者であることの重圧に潰されそうになることに気がつかなかった。すまない」

 違う。私は・・・

 「ここで君が我慢すれば、次に同じ立場になった人が、同じように苦しむことになる。だから、この婚約破棄を受けてくれ」

 この人は本当に大人だ。どう言えば、私が従うかよくわかっている。

 私は、私の目線に合わせてしゃがみこんでいる王子に、答える。

 「婚約破棄、お受けします」

 こうして、私の八歳の誕生日の日、私は失恋した。


           おわり


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