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ふたり:ガンダ・ルーフリエン侯爵

「これはこれは、ルーフリエン候、お久しぶりにございます」

 相談室? 苦情処理室? の扉を開けて、勇者一行の大魔導士を務めるガンダがくたびれた様子で入ってきた。


 ガンダは御年すでに70歳。フロイス伯爵家に冷や飯食いの三男として生まれた。先々代の王の時、魔法学校でまるで木槿むくげの花が開くように数多の魔法に目覚め、天才の名をほしいままにした。魔法使いの新星と期待されたが、卒業を待たずにワープという新しい魔法を編み出し、その魔法で学校も家も“ばっくれて”しまった。


 ワープを自在に操り、ある時は魔物の強襲で滅びかけた村に兵と物資を運び (前触れもなく突然運んだだけ、しかも行きだけ)、またある時はテルマエ (大浴場)の女性浴室に忽然と現れ、「お、これは失礼、目的地の設定を間違えましたかの」とかなんとか。前もって掃除係に扮してワープの陣を貼っておくという周到ぶりだった。


 人生やりたいことは大体やりつくしたところで、“必ず来る”と罠を張って待っていた今代の若い王に偽の後宮で捕獲された。


「大叔父様、いい加減になさってください!」姪孫であるフロイス伯爵令嬢フローリア、今代王妃に叱られ、やむなく若い3人のメンバーの最後のひとりとして勇者パーティーに参加している。一体どんな弱みを握られているのやら……



「おお、ユリウス殿ではないか、久しいの」

「はい、候にはご健勝のご様子、おめでたく」

「いやー、もうワシぼろぼろよ? 若いもんにはついていけねぇ。あいつら1日40キロも歩くのよ、わかる? 40キロ。途中で魔物戦もあるんじゃぞ、1時間4キロ、戦闘挟んで1日20キロくらいで十分じゃろ? ワシもうついていけね」

 ルーフリエン侯は、右手で白い顎髭をひと撫でし、三角帽子の下に哀れっぽい表情を作ってユリウスを上目遣いで見た。


「何をおっしゃいます、候にはヒールもリジェネもあるではありませんか、何でしたらフライでお楽について行かれても」


「はぁ、それはそうなんだがのぉ、もう疲れたよ、若いもん3人に交じって爺とか、いやもうマジ大変」

「候、後宮の罠にはまって王妃陛下に降参なさったのはつい1年前のことでは? 若い者を好んでおられるとばかり」

「はぁー。聖女固ったい、カチカチよ? 

 マリアちゃん体中ボリボリ搔きながら機嫌悪いし、睨むし」


「それはもう、神殿推奨の“絶対に勇者になびかない聖女”ですから。勇者に落とされる聖女とか、神殿の評判落とすだけですからね。 剣王には蚊に刺されないまじない付きのジャケットをご用意しますので」

「え? ジャケット? え、あの、やめて? あのビキニアーマーがいいんじゃろ」

「はあ、そう言われましても。もう予算も通りましたし」


 大神官補佐ユリウスは、剣王フォンタナ女伯にセクハラを仕掛けて無事なのは、世界広しといえどもこの大魔導士ぐらいだろうなぁ、とため息をひとつ。よくぞ双剣の錆とならずに1年も持ちこたえたものである。



「ワシ、もうじき死ぬじゃろ?」

「は?」

「だって、今年70になったしの。カパス火山の火竜を封じたのが30の時、もう40年も前か、おまえさんは知らんだろうな」

「いえいえ、神学校の歴史できっちりテストに出ましたとも」


「ナミエラ山脈の遺跡で雨乞いの聖壇から降雨の魔法陣を再現したのが42の時」

「おかげさまで王国は今年も豊作で」

「あの魔法陣どうなったかのぉ、王国にとられたがのぉ」


「人聞きの悪いことをまた。功績を称えられ、侯爵位をお受けになったではありませんか」

「いや、それ何になる? そりゃパーティーに呼ばれるよ? 行かねぇけど。服ないし」

「服でしたらいつなりとも神殿の針子部屋が御用を伺います。

 豊かな領地もお持ちではないですか」

「ワシ管理できないし。こんな旅の空じゃもん」

「王家から管財人が出ておりましょうに。財は増えるばかりにございましょう」

「使う暇ないしのう」


「ワシの役回り知っておるか? こう、魔物の大群に追いつめられて勇者パーティーが危機に陥るじゃろ?」

「はあ」

「で。ワシが最後尾な訳よ。それで、細い谷の出口とか、橋のこっち側で仁王立ちだな。勇者と聖女と剣王に、馬鹿者、さっさと前へ進まんか、とーかなんとか見栄張って、大体追いつけない訳よ、まあ、老人じゃしのぉ」

「いえいえ、まだまだお若いではありませんか」

「70を若いとは貴殿も言うのぉ。 で、惜しい人を亡くしたとかなんとか」


 候は夢想癖がおありでしたでしょうか、とユリウスはまじめに捉えている。

「はあ、その程度でお亡くなりになるのは無理では? メテオとか大爆炎とかお持ちでしたよね。なんでしたら、フライで上空からヘルストリーム、これで一掃なさってはいかがでしょうか」

「よう知っておるのぉ、若いのにのぉ」

「いえいえ、まだまだにございます。ただ、幼いころ、候はわたくしの憧れでございました」

「そうか」


 大魔導士は、どことなく機嫌を直した様子で、すこしばかりルンタルンという雰囲気を漂わせながらワープで勇者キャンプに帰っていったのだった。後に白銀の渦を残して。


 何だったのだろう? 年寄自慢?


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