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10 -第ニ部-  作者: ヒツジ
5/20

どこまで知りたい?

ルリの影を掴みかけて逃げられた夜が終わり、中央での日々は雑用に追われるまま過ぎていく。気づけば1週間の出向は終わりを迎えていた。


「いや〜。本当に助かったよ。来てくれてありがとう」

「いえ、お役に立てて良かったです」


感謝を伝えるトルクに答えるソラは、いつもの元気がなかった。

あの夜以降、どれだけ本部を駆けずり回ってもマイトの姿を見つけることはできなかった。意図的に避けられているらしい。タイムリミットを迎え、いよいよルリへの道は閉ざされてしまった。


「雑用ばっかで走り回されて大変だったかもしれないけど、よければまた中央に来てよ」

「いえ、地元にいたら知らなかった事が色々知れて勉強になりました」

「そこは素直に大変でしたって言っていいんだよ」


優しく気遣ってくれるトルクに気持ちを返そうとしたところで、シキが扉をバンっと開いて会話に割って入ってきた。


「おや、シキさん。お久しぶりです」


シキともあの夜以来会っていなかった。


「ああ。久しぶりだね、トルク。ちょっと忙しくしててね。今から駅に行くからついでにソラを送っていくよ」

「それは助かります。じゃあ、ソラくん。元気でね」

「え、あ、はい、お世話になりました」


慌ただしく別れの挨拶が済まされ、ソラはシキに連れられ車に乗せられた。



「あの〜シキさん」

「アンタ、まだ幼馴染のことは諦めてないかい?」


車を運転しているシキに問われる。


「……はい。ルリ様にも言われたんです。お前の長所は諦めないところだって」

「そうかい。なら諦めるわけにはいかないね」


前を見ながらシキがニヤッと笑った。


「アンタのことは調べさせてもらった。ここに来る前にある事件に巻き込まれてるね」

「はい」


中央に来るキッカケになった事件を思い出す。真実を知るかどうかの決断も保留になったままだ。


「あの事件に関わってたヤツらと、マイトが関わってるヤツらは同じだ。だからあの事件の真相を知れば、そのルリ様とやらのこともわかるかもしれない」

「そうなんですか!」


なぜシキがそんなことを知っているのかという疑問や、真実を知る決意があるのかという戸惑いよりも、ルリへの道がまた開けたことにソラの心は踊った。


「アヤに帰ったら隊長に聞いてごらん。そのあとどうするかはアンタ次第だ」

「はい!」


シキはなぜだか楽しそうだ。


「そういえば、シキさんは隊長のこともご存知なんですか?」

「そりゃ、アイツがアンタくらいの小僧の頃から知ってるよ」


シキは更に楽しそうに笑った。




「ただいま戻りました!」


アヤに戻ったソラは、シキのおかげで取り戻した元気いっぱいに事務所の扉を開けた。

隊員達は「お疲れ〜」「なんか元気が有り余ってるな」「お土産は?」と口々に迎えてくれた。

きちんと買ってきた七色キャンディをリンドに渡して、ソラはトキの席へ向かう。


「隊長、戻りました!」

「うん。おかえり。なんだかやる気満々だね」


相変わらずののんびりした口調が迎えてくれる。


「はい。とても充実した1週間でした。報告したいことがありますので、あとでお時間いただけますか?」


何のことかを察したトキが頷く。


「うん。わかった。じゃあみんなが帰った後に聞こうか」




隊員達が全員帰ったあと、トキに中央であったことを伝える。トキは少し考えながらソラに聞いた。


「つまり幼馴染のことが知りたいから、この間の真実を聞きたいと。それは覚悟が決まったと考えていいのかな」

「それが、自分でもまだよくわからないんですよね。ただ、覚悟より何よりルリ様のことを知る方法がそれしかないなら迷いはないです」

「それはまた、極端というか何というか……まあ、ソラ君の意外な一面が見れて楽しいよ」

「楽しまないでくださいよ。俺は真剣なんですから」


ごめんごめんとトキが笑う。その笑顔は車で見たシキを思い出させた。


「そうだね。じゃあ、こうしよう。まだ全ては君には話さない。幼馴染に会うのに必要な情報だけ教えよう。そこからどうしていくかはソラ君次第だ」


またシキと重なる。自分は試されてるのだろかとソラは一瞬不安になったが、今更立ち止まる気はなかった。


「はい。お願いします」

「じゃあ、まずは君が会った少年について。彼はある組織の人間だ」

「ある組織?」

「そうだね……人助けをする民間の組織とでも言えばいいのかな。孤児院を営んだり、悪事を働くヤツらを捕まえたり」

「それは軍や貴族の仕事ではないのですか」


至極当たり前のことだとソラが口を挟む。


「そうだね。本来はそうだ。でも組織というのは身のうちに抱えた虫には弱かったりするんだよ」

「………軍や貴族の中にいる犯罪者を相手にしているということですか?」

「または教会の中にいる犯罪者もね。それだけではないけれど、対権力の活動が色濃い組織ではあるね。軍や貴族がほったらかしにしてる事件を解決したりもしてる」

「しかし、たとえ犯人を捕まえてもその後どうすることもできないでしょう。まさか私刑を行っているとか?」

「そんな過激な組織じゃないよ。軍の協力者がいるんだ。君も会っただろう」


少年の事件の時に会ったミリッサや、中央で会ったマイトを思い出す。


「信頼できる軍の人間に犯罪者を引き渡す。軍の人間からしても自分たちが動くより警戒されずに犯罪者を捕まえられる。ウィンウィンの関係だね」

「しかし、なぜそんなことを?その組織にはなんの利益もないでしょう?」

「人助けなんて損得ではないけど、あの組織にはそれ以上の理由がある。それはまだ君には話せない部分かな」


それ以上は覚悟を決めてきなさい。言外にそう含まれてソラは追及をやめた。


「じゃあルリ様に会うには、その組織と接触する必要があるということですね。どうすればいいんだろう」


ソラはうーんと考え込む。


「そうだね〜。よし。彼らが食いつきそうな事件でも起こしてみようかな」

「へ?」


トキが楽しそうにウインクする。ソラは嫌な予感でいっぱいだった。

「ソラ君は本当に幼馴染の子のことが大切なんだねぇ」

「はい!とても尊敬してるし大好きなんです!」

「子供の頃や若い頃にできた友人は宝だよ。大切にしなさい」

「はい!」

『隊長にもそんな人がいるのかな?』

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