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明日遊園地に行こうぜ

作者: 舳里 鶏

お題に沿ったものを書くというのは初めての体験でした。




てなわけどうぞ

 「なあ、姉ちゃん」

 「なんだよ」

 晩御飯の餃子の肉だねを皮で包んでいると(みどり)は向かいに座って同じように皮で包んでいる響輝に話しかけられた。

 翠は自分に話しかけてきた少年の方を向きもせず、雑に結んだポニーテールを揺らしながら作業を続ける。

 「おれさ、告白をしたいんだけど」

 「随分ませたことを言うなぁ、まだ小六のガキのくせに」

 「小六はもうガキじゃねーだろ」

 「高一のあたしから見ればガキだね」

 「うるせぇ!!姉ちゃんと四つしか変わらねーじゃないか!!母ちゃん言ってたぞ!大人になれば五つ差なんて大したことないって」

 「残念だったな、あたしもお前も大人じゃない。よって、お前はあたしからみれば全然ガキだ」

 「んぎぎぎぎぎぎぎぎ」

 「おい、餃子潰すなよ」

 感情の起伏の激しい響輝と違い翠は少しけだるげな調子で話している。

 殴りたくなるのをぐっとこらえて響輝は次の皮に手を伸ばす。

 「んで、告白だっけ?」

 そんな顔を面白そうに見た後、翠は自分の作った餃子を綺麗に並ばせながら目線を一切響輝に向けずそう尋ねる。

 「そうだよ」

 「成功するにはどうすればいいか知りたいのか?なら簡単だ。足が速ければいい。小学生なんてそれだけでモテる」

 「おい、いつまでバカにしてんだよ」

 そう言いつつもあまり強く言い返してこないところみると響輝にも思うことがあるようだ。

 「つうか、それだとおれ、ダメじゃん。この前の運動会、短距離走ドベだったんだぞ」

 「こけなければ、間違いなく一位だったな」

 「うるせぇな」

 運動会でスタート直後にこけてしまい響輝は、見事最後の運動会でドベとなった。短距離走は運動会の前半でやるため、響輝は開始直後だというのに運動会終盤レベルの砂にまみれた運動着で全てのプログラムをやりきった。

 短距離走の練習に付き合った翠としては、何とか報われることを祈っていたが、そう上手くはいかなかったのだ。

 「んじゃあ、おしゃれにでも気を使うか?とりあえずその裏地に英語が書いてあるズボンは捨ててこい」

 「はあ!?なんでだよ、このズボン一番カッコいいだろ」

 「………………お前の裁縫道具、ドラゴンが描かれてたりしない?」

 「よく分ったな!見る?カッコいいんだぜ」

 「…………また、今度な」

 あいまいな笑顔で誤魔化す翠。

 「ろくな案が出てこねーな」

 「これ以上ないぐらい、適切な案しか出してないぞ」

 「まあいい。それよりも聞け、おれの完璧な作戦を!!」

 そういうと響輝は、最後の皮を手に取る。

 「告白をするのに一番必要なもの、それはなんだと思う?」

 「魅力」

 「そう、勇気だ!」

 「会話しろよ。お前の告白絶対失敗する。コーラにメントスを入れたら爆発するくらい当たり前な結果があたしのサイドエフェクトに浮かんでる」

 「中途半端な知識が混ざりすぎてて、もう何言ってんだか分からねーよ」

 混ざりまくったあげく絶妙に違う言い回しになっている翠に言い返すと、自身の餃子を包み終え、響輝は続ける。

 「で、おれは、考えたわけよ、勇気を手に入れるにはどうすればいいか」

 「…………一応聞いてやるよ」

 「お化け屋敷だ!!」

 「は?」

 不思議そうな翠の前に冷蔵庫に貼ってあった遊園地のチラシを持ってくる。

 そこには薄気味悪い病院のお化け屋敷の写真が載っていた。

 どうやら新しくオープンしたらしい。

 「この脱出時間一時間かかるこのお化け屋敷を突破出来たら、おれには告白するだけの勇気を手に入れたってことになるだろ?」

 「お前、グレイモンをスカルグレイモンに進化させそうだな」

 「うるせぇよ!そこまで間違ったことはしてないだろ!」

 翠は、絶妙に論点がずれている響輝に言い聞かせようとするが、残念どうやら決意は固そうだ。

 ため息を吐いて翠は最後の餃子を完成させるとむんと伸びをする。

 「まあ、お前の言いたいことは分かったよ。頑張って」

 「だから明日遊園地に行こうぜ!」

 「は?」




 ◇◇◇◇◇






 その週の休日。

 「いや、何であたしまで遊園地にこなきゃいけねーんだよ」

 「仕方ねーだろ、おれ一人で遊園地なんて絶対父ちゃんが許さねえし」

 「そりゃあ、小学生だしな。そうじゃなくて同じクラスの男子とくればよかったじゃん」

 「姉ちゃん、おれの今回の目的知ってる?」

 「告白する勇気を手に入れるために、お化け屋敷を突破するんだろ?」

 「そう。つまり、必然的にクラスの男子に好きな人がいる事がバレるんだ」

 「そうだな」

 「姉ちゃん、分かるか!?小学生男子にとってその情報がどれだけ重いか!!絶対にばれてはいけない、トップサーキュレーションなんだぞ!!」

 「トップシークレットな。どっからサーキュレーション出たんだよ」

 「クラスの女子が、最近のトリックアートの曲だって言ってた」

 「ティックトックな。後、それ初出はアニソンだから。迂闊に口にするなよ。バルカン半島なんて目じゃないくらいの爆発するからな」

 「??とにかく!!絶対クラスの男子にはバレたくないんだよ!!だから、絶対ダメなの」

 翠は自身の小学生時代を思い起こす。確かに自分の好きな人というのは今後の学校生活を大きく左右するぐらいの情報だった。情報の価値というものをあの忌まわしき日々で全国の小学生あるいは中学生たちは学ぶのだ。

 「分かったよ。それで、どこから回る?一発目からそのお化け屋敷行くか?」

 「と、当然だぜ」

 震える声と共に目を泳がせながら決意を固める響輝。

 「で、でもあれだ、ちょっとだけトイレ行ってくる」

 「行ってら~。あ、パンツ買っとこうか?」

 「何で漏らす前提なんだよ!!膀胱全部絞り出してくるから大丈夫だよ」

 響輝はそういうとトイレに行った。

 自分より身長の低い響輝がいなくなり、翠の視線がいつもの位置に戻る。

 楽しそうな家族や友達たちが次はどのアトラクションに乗ろうかと楽しそうに会話をしているのが目に入ってきた。

 皆思い思いのオシャレをしている。とはいえ、ここは割とアトラクションがあるため、女性はスカートを避ける。

 かくいう翠もパンツスタイルだ。

 一応いつもよりは丁寧にポニーテールを結んできた。

 因みに、響輝はというと、

 「お待たせ」

 裏地が英語のズボンを履いてきた。ご丁寧に裾をめくっているせいでそのファッションが晒されている。そして持ってきたカバンにはドラゴンが描かれていた。

 「なに?どうしたの?」

 「いやあ、カバンにもドラゴンがいるなぁと思って」

 「カッコいいだろ?」

 「そうだね」

 前にも言ったセリフをもう一度、言うと翠は響輝を連れてお化け屋敷へと向かった。




◇◇◇◇




 「なかなか雰囲気のあるお化け屋敷だな」

 「ままままあ、お化け屋敷ってそういうもんだろ」

 「んじゃあ、行くか」

 「待て待て待て」

 一緒に入ろうとする翠を慌てて止める響輝。

 「なんだよ」

 「姉ちゃんと一緒に入ったら意味ないだろ、おれ一人で入ってこそ勇気を手に入れられるんだよ」

 少しだけ震えている肩。

 ちらりと看板を確認する。

 どうやら、このお化け屋敷にはギブアップ機能があるらしい。

 もう無理だと思ったら館内にあるギブアップボタンを押すとリタイアとなるらしい。

 「分かった」

 そういうと翠はスマホで響輝の写真を撮った。

 「ちょ、何すんだよ突然」

 「お前が、お化け屋敷内で迷子になった場合、スタッフさんにすぐ見つけてもらうための準備」

 そう言って先ほど確認した看板を指さす。

 「そこに書いてあるように無理だったらすぐに知らせろよ」

 「……………捕らぬ狸の皮算用だな」

 「それをいうなら杞憂だな」

 翠は訂正するとお化け屋敷に入っていく響輝を見送った。




◇◇◇◇◇




 そこから一時間半後。

 このお化け屋敷のクリア想定時間を三十分ほど過ぎた。

 しかし、ちっとも出てくる気配がない。

 ある程度予想はしていたことだ。

 「あの、ツレが全然で来ないので、電話していいですか」

 そう言って先ほど撮った写真を入口のスタッフに見せる。

 「確かにその子全然出て来ませんね。いいですよ」

 写真のおかげですぐに思い出せたようだ。許可をもらえた翠は、自身のスマホを操作して響輝に電話を掛けた。

 『なななななに』

 ワンコールで電話に出た。

 「そろそろ、出て来いよ」

 『い、いや、だって、ままままだ』

 聞こえてくる響輝の震える声と逆に聞こえない足音。

 どうやら動けなくなっているようだ。

 翠は、少し悩む。

 「あのさ、そろそろ昼ご飯の時間なんだよ」

 『??』

 「あたし、朝めし食べ損ねたせいで、腹ペコなんだ。何だったらちょっとふらふらしてる。だから、早く出てきて昼ご飯食べに行こう」

 『……………わがっだ』

 そう返事をすると電話は切れ、その三分後にスタッフに連れられた涙を流しまくっている響輝が出てきた。

 「すげぇ、満点な登場だ…………」

 これ以上ないぐらいの理想的な姿に思わず翠からそんな感想がこぼれた。

 「ほら、お姉さんだよ」

 スタッフが安心させるために翠を指さす。

 響輝は慌てて顔の涙を拭き、駆け寄ってきた。

 「ね、姉ちゃんしょうがねーな!朝ご飯はちゃんと食べろって先生に言われなかったのか」

 「いやあ、今日は寝坊しちゃったからな」

 そう答えながら翠はテーマパーク内にあるレストランコーナーに向かって歩き出した。

 「ご飯食べたらもう一回挑戦する」

 「やめとけやめとけ、それより他のアトラクション行こうぜ。ほら、こことかどうよ」

 そう言いながら、翠はパンフレットを見せる。

 確かに響輝に今日はこれ以上、お化け屋敷に挑む気力はない。だが、挑戦する姿を見せないのは、男のプライドが許さない。

 そんな響輝の思惑を翠は一蹴すると別のことに目を向けさせた。

 「じ、じゃあ、また明日遊園地に行こうぜ!!」

 「んな、毎日いけるか、馬鹿。金があっという間になくなるだろうが」

 「だ、だ、だって、時間が………」

 「んなに焦るようなことでもないだろ?お前の通ってる小学校、私立受験する奴ら以外は、全員あの地元の中学校に通うんだから」

 「で、でもよぉ…………」

 翠の言葉に響輝はそれでも少しだけ引き下がる。

 「じゃあ、あのジェットコースターで乗れたら勇気があるでいいだろう?」

 「??あんなの何が怖いの?」

 「え?お前、マジ?」

 「え?姉ちゃん怖いの?」

 まさかの質問に翠は押し黙る。

 だが、それがいけなかった。

 小六男子がそれを聞き逃すわけがない。

 「おやおやおやおや?姉ちゃんまさかまさか?」

 「うるせぇクソガキ」

 何か言われる前にほっぺたを引っ張った。

 「痛」

 「とにかく、遊園地なんてそうそう何度もいける場所じゃねーんだよ」

 「じゃあ、来月!!」

 「一年ごとにしろ。その間に少しずつお化け屋敷への耐性を付けろ」

 「じゃあ、半年!!」

 「だったら、それまで貯金しとけよ。来年からは中学生料金なんだからな」

 こうして響輝の勇気を手に入れる戦いの初陣は虚しい敗戦となったのだ。

 だが、告白をかけた男というのはあきらめの悪いものだ。

 家に帰ってからもホラーゲームをしたり、恐怖画像を見たりして必死に鍛え続けていた。

 まあ、弊害として夜眠れなくなり、翠は寝落ち通話に付き合う羽目になった。

 




 ◇◇◇◇




 それから数年後。

 響輝は十四歳、中学二年生となり、翠は十八歳、高校三年生となっていた。

 いつものようにお化け屋敷の前のベンチでスマホの時計を確認しながら、お化け屋敷の出口をチラチラと確認する。

 「今回もダメですかね」

 「どうでしょうね…………」

 実はあの後、三か月ごとに通っていたのだ。

 そのおかげでこのお化け屋敷のスタッフとも顔なじみとなってしまった。

 まあ、顔なじみになるほど通ったというのは詰まる所そういう事なのだが………

 そんな会話をしているとなんだか、ちょっと遠いところから叫び声が響いている。

 「ぅぅぅぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおらあ!!突破じゃあああああああ!!」

 そんな叫び声と共に響輝がお化け屋敷から現れた。

 苦節二年ついに響輝はお化け屋敷を突破したのだ。

 「見たか!!」

 「見たよ。よくやったな」

 自慢げに指を突き付ける響輝に翠はパチパチと称賛の拍手を送る。

 「んじゃあ、後は、告白するだけだな、ガンバ」

 理由はくだらないことだったが、それでも一人の人間が目標をもってやり遂げた姿は、胸にぐっとくるものがある。

 翠はパンフレットを広げる。

 「せっかくだ。今日はあたしがお祝いに奢ってやるよ。何が食べたい?」

 食事を奢ってもらえる。

 育ち盛りの響輝にとってこれ以上のご褒美はない。

 翠としてもすぐに響輝からリクエストが飛んでくると思った。

 しかし、いつまでたっても返事がない。

 「どうした?何が食べたい?」

 「()()() 翠」

 そんな提案を無視して響輝は続ける。

 














 「ずっと前から大好きだった」















 ()() 響輝は真っすぐに告白をした。










◇◇◇◇

 



 響輝は翠にとって年の離れた幼馴染だ。

 家が近く、幸い親だけでなく子ども同士も気が合ったこともあり長年交流があった。少なくとも一緒に夕飯を食べたり、餃子を一緒に作ったりするぐらいの仲だった。

 とは言え、本当の姉弟ではないから、知らないこともあった。例えば、裁縫セットがドラゴンだなんて言われなければわからないし、知らない。

 まあ、響輝のことは別に嫌いなわけではない。嫌いなわけではないが、完全に油断していたところにあの告白。翠は全く情報を処理できていなかった。

 

 



 「ただいま」

 ぼーっとした頭を抱えながら翠は帰ってきた。

 因みに響輝は言うだけ言うと『じゃ、そういう事で』といって逃げるように先に帰った。

 取り残された翠は若干今、自分が何を考えているのか分からなくなりながらも、遊園地のスタッフに優しくされ何とか帰路につけたのだ。

 「おかえり」

 そんな翠を母が出迎えた。

 母の出迎えにもう一度ただいまと返事をするとリビングのソファにドカッと腰かけた。

 「どうしたの?えらくぼぉっとしてるけど、何かあった?」

 「んー、まあ」

 生返事をする翠。

 母は、そんな翠に冷たいお茶を渡す。

 「もしかして、響輝くんに告白でもされた?」

 翠は思わず口に含んだお茶を噴き出した。

 「へあ?はあ?」

 「わあ、図星かぁ」

 母から突然刺された発言に翠は、更に目を白黒させていた。

 「やっと言ったんだね、あの子。まあ、それでも頑張った方だよね。あの子も焦ってでしょうね。何せ、翠ちゃんは今年大学受験、いつまでお隣さんにいてくれるか分からないものね」

 「いやいやいやいやいやいやいやいや、お母さんどういう事?やっと言ったって?」

 「そのまんまの意味だけど?あの子、何時からかは知らないけど、翠のことずっと大好きだったわよ?」

 「いや、そりゃあ嫌われてはないと思っていたけど、こんなことになるなんて………だいたい、あいつには小学校のころ同じクラスだった女の子が好きだって………」

 「あら?あの子がいつそんなことを言ったの?」

 「そりゃあ―――」

 翠はそこまで言ってぴたりと止まった。

 そう響輝はそんなこと一言も言っていない。

 翠が勝手に納得しただけだ。

 「いや、じゃあ、あのお化け屋敷騒ぎはなんだったんだよ、嘘だったの?」

 「んー……多分だけど、正確に言ってないけど嘘は言ってない状態だったんだと思うわ」

 「どういうこと?」

 「告白する勇気がないからお化け屋敷に挑んで勇気を手にいれる。これは、多分本当。だけど、より正確に言葉にするなら、こう『告白する勇気がなくて踏ん切りがつかないからきっかけが欲しかった』ってところね」

 まだ理解していない翠に母は続ける。

 「告白するのは、確かに勇気がいるわ。でも、響輝くんとしては遅かれ早かれするつもりだった。でも、なかなか踏ん切りが付かなかった。だから、そうね………翠がよくゴミ箱にゴミを投げて、それが入ったら勉強を始めるってことをよくやってるじゃない?響輝くんのお化け屋敷への挑戦はそれに近い行為だったのよ」

 へんな願掛けをして次の行動を決める人間は多い。

 少しカッコよく言うなら、コイントスと同等の行為だったのだろう。

 「ところが、ここで計算外の事態が起きてしまう」

 母の説明を聞きながら、台拭きで自分が噴き出したお茶を拭いて綺麗にする。

 「響輝くんは予想以上にお化け屋敷が怖くて醜態をさらしてしまった」

 泣きながらというと少し語弊はある(一応涙は流していたが、泣き叫ぶのを必死にこらえていた)がそれでもそれと同じくらい情けない姿をさらしてしまったのは事実だ。

 「そんな姿をよりもよって大好きな翠ちゃんに見られてしまった」

 「ちょ、その大好きなってやめて恥ずかしい」

 翠の精一杯の抵抗を無視して続ける。

 「そんな状態で告白するのは避けたかったんでしょうね。だから、響輝くんはそれを払拭するためにもお化け屋敷に挑みづけるしかなくなってしまったの」

 建前を喋っていたらそれに巻き付かれてしまったのだ。それがこのお化け屋敷大騒動だったわけだ。

 「以上を踏まえたうえで帰ってきた時の翠ちゃんの反応を見る限り、どうやら、今日、響輝くんはお化け屋敷を突破して告白してきたみたいね」

 「ま、まあ、そうなんだけど…………というか、お母さんよくわかったね。その、あいつが、あたしのことをす、す、好きだって」

 不思議そうに尋ねる翠に母は言おうかどうしようか、迷った後、クスリと笑った。

 「あの子、一番最初に翠ちゃんと一緒に遊園地行った時、裏地に英語が書いてあるズボンとドラゴンが印字されたカバンを持ってきたって言ってたわよね?覚えてる?」

 忘れるわけがない。

 まさに小学生男子という服装でやってきたのだ。

 「…………まあ、翠ちゃんのセンス的にはいまいちだったでしょうね。でも、当時の響輝くんにとってそれは、一番かっこいい服、つまり一帳羅だったのよ」

 確かに翠がその服装やドラゴンの裁縫セットに言及した時、かっこいいと思っているようだった。

 「ただの度胸試しにしては、気合が入っていると思わない?」

 もう、翠は何も言い返すことが出来なかった。

 ヒントはたくさん出ていた。

 これが同級生の男子だったら流石に気が付いた。だが、年の離れた響輝、もっというなら、小学生男子だったため、完全にその可能性すら捨ててしまい、気づけなかったのだ。

 「それで、どうするの?」

 「どうするって?」

 「とぼけちゃだめよ?告白の返事どうするの?どうせ、その場では何の返事もしてないんでしょ?」

 「い、いや、ま、まあ、その、まあ、私も嫌いじゃないけど………」

 「ええ。知ってるわ。少なくとも、運動会で転んでドベになった響輝くんを笑った彼と同じクラスの女の子に大人げなくキレるぐらいには、あの子のこと大好きだものね」

 「………………………………………………見てたの?」

 「ええ」

 にっこりと笑う母。

 対照的に翠は顔を覆い隠す。覆った指の隙間から見える赤色を見て母は更に面白そうに笑う。

 あの運動会の時、翠も応援にいったのだ。

 何せ翠は、響輝の運動会の練習に付き合った身だ。

 練習の結果がどんな順位でもちゃんと見届けようと思っていた。

 結果はスタートからしばらくして転びそのまま巻き返すこともできず最下位となった。

 そのあまりに報われない結果に翠はなんと声をかけようか迷っていたところ、件の女子たちが、響輝のその順位を馬鹿にしているのを耳にしてしまった。

 小六の女子相手に何をやっているんだと、今でも思うのだがそれでもその時は我慢が出来なかった。

 「上手に逃げたわね。あのまま先生呼ばれてたら、翠ちゃんバッチリ不審者だったわよ」

 小六の女子たちが高校一年生にそんな風に詰められたら誰だって泣いてしまう。

 案の定詰めれていた女子の一人が泣き出した。騒ぎを聞きつけた先生がやってきそうになり翠はダッシュで逃げたのだ。

 「まあ、そこが多分響輝くんのきっかけだったんでしょうね。自分の結果を笑った女と自分の努力を見ていた女。誰のために頑張るかなんて、火を見るよりも明らかよ」

 「……………………ちょっと待って。それがきっかけだっていうことは、あいつもあの騒ぎを知ってるってこと?」

 「そりゃそうでしょ?響輝くんのことを笑ったことについて怒った謎の高校生、それについて何か知らないかと当然先生は、響輝くんに聞いたはずよ?」

 もし、ここで響輝が翠のことを喋っていれば、翠も小学校からお叱りを受けていたはずだ。

 だが、翠はそんな目に合っていない。

 「普通に翠ちゃんが癇癪を起しただけなら、当然響輝くんは喋ったでしょうね。でも、喋っていない。それは、翠ちゃんが誰のために怒ったのか全部知っていたから。だから、響輝くんは黙っていたの。だから、翠ちゃんは小学校からお咎めがなかったの」

 筋は通っている。否定する証拠がないのだ。母の予測はあたりだろう。

 「どう返事をするの?因みに未成年云々を気にしているなら大丈夫よ。私と響輝くんのお母さんもほぼ公認となるもの」

 色々ツッコみたいがこの母に何を言っても無駄だ。

 「うるせぇな。あいつの告白に対してイエスかノーで答えればいいんだろ?」

 「翠ちゃんはそれでいいの?」

 「どういう意味?男に告白された女がやることなんてそれ以外何があ――――」

 「年下の男の子が出来たこと、年上の翠ちゃんは出来ないの?」

 翠の言葉に被せるように母は翠に言い放った。笑顔であるが、その笑顔は明らかに挑発している。

 しかし、確かに無視できない。

 二年越しとは言え、響輝はちゃんとやりとげた。

 そんな思いがこもった物への返事が『あたしも』なんて、そんな年下の告白にただ乗りするような言葉で済ませるのは、翠の胸にしこりを残す。

 苦虫をかみつぶして青汁を飲んだような顔の翠。そんな翠とは対照的に母はとても面白そうに笑っている。 

 その挑発的な母の笑顔がうっとおしいがそれでも乗るしかない。

 「ああ。もし………そうね~告白する勇気がないなら、翠ちゃんも勇気を手に入れてみてはどう?例えば」

 そう言うと母は冷蔵庫に磁石で止めてあった()()を翠の前に差し出した。

 

 それを見た瞬間母の言いたいことが分かった。

 ……………どうやら、やるしかなさそうだ。


 

 

 



 ◇◇◇◇




 「はーい」

 その日の夕方、響輝はチャイムに呼ばれ玄関に出た。

 そこには、今日、自分が告白した翠がいた。

 返事を聞くのが怖く、逃げるように帰ってきてしまった手前、今更どう会話をしようかと迷っていると、翠が母からもらった遊園地のチケットを二枚だした。

 「明日遊園地に行こうぜ」

 意を決して言ったため句読点も入らないくらい一気に言ってしまった。

 そう言いながら、翠は一番最初に誘われて時のことを思い出した。

 二年前、響輝も翠を遊園地に誘った時、どこに句読点が入ってるのか分からなかった。

 翠を誘うのに緊張していたということに自身が誘う立場になってようやく理解できた。

 「はぁ!?なんで?!」

 そんなことを思い出している翠に響輝は、思わずマヌケな声で聞き返してしまった。

 まあ、当然と言えば当然だイエスにしろノーにしろ何らかの返事があると思っていたところにとんできたまさかの提案なのだ。

 そりゃあ、そんな疑問がでて当然だ。

 「うるせぇな………あたしも勇気が欲しいんだよ」

 「勇気って………どうするんだよ」

 「ジェットコースターに乗る、もちろん一人でだ」

 どこかで聞いたようなセリフだ。

 「乗れたら告白の返事をしてやる」

 「いや、その顔で言わ――――」

 「うるせぇ、ぐだぐだ言うな。いいだろ?二年も付き合ってやったんだ、明日はあたしに付き合え、()()











 顔色を誤魔化してくれる夕焼けに感謝しながら、翠は精一杯、いつものけだるげな口調でそう言い切った。















最後くらいはちゃんと名前で呼んであげようね



書いてて楽しい二人でした。



連載中の魔女っていうなは明日には投稿予定です……………予定です!!

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