ぼっち歴95年、暖炉の魔人は三度煮る
「いや、ちょっと待て。ワシは暖炉の魔人であって煮炊きの番人ではないのだぞ」
ワシは暖炉の魔人じゃ。魔人と言ってもこの放置された暖炉が百年経っただけの存在じゃ。本来なら大事に使われ付喪神になるはずなのじゃが、放っておかれたせいで、拗ねてしまってのぅ。
まあ、ワシのことなど放っておけ。ぼっち歴九十五年、今さら興味を持たれても、筋金入りの拗らせは治らんわい。
最近このワシの暖炉を買い取り、雪山の別荘に設置し直した、道楽な金持ちがいるのじゃ。
ランプの魔人なぞ必要ないくらい成功しているんじゃろうが、結局ワシの暖炉は雰囲気づくりの飾りで終わると思っていたのじゃよ。
最初に来たのはたまごの管理人じゃ。たまごのくせに、ワシの暖炉でたまごだけのおでん鍋を作ろうとしたのじゃよ。たまごは熱に弱くて、暖炉に当たり続けるのは危険なのじゃが……。
次に来たのは酔っぱらいの女共じゃ。地味だが魔人のような妖気を持つ女と、凛々しいが危ない女。
「暖炉あるじゃん。鍋しようよ」
やめよ、酔っぱらいが暖炉で鍋とか却下じゃ。絶対忘れるじゃろ、お主等。酔っぱらいには火気厳禁じゃ。
暖炉が改造されて隠し通路ある事に、ワシは今気づく。
二人はシチュー鍋に火をかけたまま消えた。人参が丸々二本入っただけのシチューはワシが泣きながら頂いた……。
最後にたまごの管理人と某国のエージェントがやって来た。爆発と雪崩が起きて山荘が壊された後じゃったよ。
ワシのおかげで暖炉は無事じゃ。エージェントはワシの暖炉に火を起こし、拾った鍋を雪で洗った。やはり鍋か。しかし、煮るのは携帯していたチョコじゃ。
たまごがマシュマロを取り出し串に刺す。じゃからお前さんは危険じゃと言うのに。
こやつらは無言でワシの暖炉の火でマシュマロを焼く。仕方なくワシはチョコ鍋が焦げ付かぬように適度な調整をする。
暖炉として誕生してから五年しか使われなかったワシは、雪山の山荘で鍋の為に三度も使われた。
嬉しくないと言ったら嘘になる。ただもっと早く来てくれれば、九十五年も寂しい思いをしなくて済んだのじゃが。
壊れた山荘はそのままじゃが、ワシは暖炉の魔人として、この雪山生活を楽しんでおる。
なんせここは千客万来じゃからのう。最近はお地蔵さまの、ジジイ仲間も出来た。
────あれからまた時が過ぎた。今はなぜか鍋スポットとして、人がやって来る。
ワシは暖炉の魔人として、鍋奉行になった。わりと楽しんでおるよ。
お読みいただき、ありがとうございました。この物語は、なろうラジオ大賞5の投稿作品となります。
鍋を満たすチョコの量とかツッコミどころ満載ですが、見逃してやって下さい。
クリスマス・イブにぼっちネタも他意はないのです。暖炉で心が暖まるよう、魔人がお待ちしております。
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