作業のお供
三題噺もどき―さんびゃくさんじゅうろく。
「――――よし」
もう九月に入ったと言うのに、外は信じられないほどに暑い。
車を運転していても、窓から入ってくる日差しの痛さに思わず腕を引っ込めたくなる。
運転している以上そんなことは出来ないんだが。
「んっ―――」
今は、そんな地獄のような外ではなく。
クーラーの効いた涼しい室内で、ちょっとした作業をしていた。
作業という程、立派なものでもないな……趣味の延長のようなものだし。
―その作業が、丁度いいところを迎えたので休憩をする。
「――――ってて…」
机に向かい、猫背で座っていたため、全身が痛む。
ぐぅ―っと、背伸びをしてみると、いろんなところから骨が軋むような音がする。
過去にこの姿勢の悪さを直そうと試みはしたが、集中するとどうにもできないので、諦めている。
だから、こうして節々を痛めるのだが。
「ふぅ……」
全身から力を抜き、溜息をもらす。
そこは見計らったように、腹の虫が鳴いた。
そういえば、時間を確認していなかったが…今は何時だろうか。
感覚的には、たいして時間は経っていないような気もするんだが……。
「………おぅ」
少し離れたところに置いてあったスマホを見ると、時間はとうに真昼を過ぎていた。
画面に表示された時計の針は、真上と斜め右を差していた。
思っていたより時間が経っていたようだ。
そりゃ、腹の虫も悲鳴が漏れるだろうよ。
今日は特に予定もないから、最悪昼食は抜いてもいいんだが…一度意識してしまうとだ麺だよなぁ。
「ん~……」
どうしたもんかなぁと思いつつ、作業のお供にと置いてあった、グラスのコップに手を伸ばす。
中身は、お気に入りのコーラだ。こういう時は炭酸に限る。集中力も上がる気がするし、眠気覚ましにもなる。
…きがするだけなので、個人的感想でしかないが。
「―うわ」
ぬるくなっている……。
冷えた室内でそれなりに氷も入れておいたのに、こんなまずくなるのか……?
いやまぁ、多分ぬるいと言うよりは、氷が解けて薄くなっているんだろうけど……。
にしても、ただの甘いコーラの味がする水って感じがして、こう……な。
「……」
まぁ、それだけ集中していたということで。
時間も忘れた上に、お供の存在も忘れるほどに夢中だったということで、良いことにしておこう。
―そういえば。
「……」
これもまた、お供の一つではあるのだが。
机の橋の方に置いてあるラジオに目を向ける。
今時は、スマホでもアプリとかを入れれば聞けるみたいだが、若い頃からこのラジオを愛用している。
作業をするときは、気持ち小さめの音量にしたうえで、垂れ流し状態で置いてある。
音があると集中しずらくはあるが、完全無音だと逆に落ち着かないと言う私の妥協案だ。
「……?」
適当にチャンネルを合わせて放置していたが、何を流しているんだろう。
手元に引き寄せ、音量をあげてみる。
ん?何々……ん??…ぼうたかとび……?って聞こえたような気がするが…。
「……?」
ん……あぁ……なるほど…。
陸上大会か何かの中継だろうかこれ。こんなのしてるんだな。
野球とかはよく聞くが、陸上もあるのか…ふーん。
「……」
音量を大きくしたまま、机の上にラジオを置く。
今は丁度棒高跳びの中継らしい。
……あれって、目の前で見たことはないが、すごい迫力がありそうな競技だよなぁ。でもやっぱり見るとしたら、映像ありき感がある……音だけだと想像がしづらい。正直。
走ったり、投げたりに比べると、跳ぶと言うのはなぁ、難しい。あまり現実では見ない動きだしなぁ。
「……」
あまり詳しいことは知らないのが、少々興味は湧くよなぁ……。運動は嫌いだが、見るのは好きだ。
今日はこのまま流しておこう。
とりあえず、先に何かを腹に入れなくては……。
つい、珍しさに集中しそうになったが、腹の虫が本格的に悲鳴を上げ始めている。
―なんか食べるモノあったかなぁ。
「……ん」
とりあえずの気晴らしとして、その辺に置いてあった飴を手に取る。
これも作業のお供だ。
黄色の袋をちぎると、ふわりとレモンの香りが鼻をさす。
それをそのまま口内に放り込むと、更にレモンの匂いがする。
あまり酸味が強いものは得意ではないが、レモン飴とかグミとかは割と好んで食べる。酢とか梅干しの酸味は嫌いだ。
「んしょ……」
ラジオの音をきもちもう少し大きくして、キッチンあたりまで聞こえるようにする。
持っていきたいところではあるが、濡れて請われでもしたらことだ。
そのまま立ち上がり、キッチンへと向かう。
「……さて」
さてと。
何を食べよう。
お題:棒高跳び・コーラ・レモン