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リゲイン・ザ・パスト  作者: 玲亜 トマト
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第肆話 ようこそ世界の守護者へ

続いて肆話の投稿です。

炎月は病室の扉をスライドさせ、再び陽牙の乗った車椅子を押す。二人が病室を後にし、廊下に出る。

「どこに行くんですか?」

廊下に建て付けられているベンチから立ち上がり、一人の少女がこちらに振り向き、こちらに眼を細める。乃愛である。

「彼をある施設に案内するだけですよ」

「怪我人にする仕打ちですか?それが」

「ご安心を、レディ。施設では治療措置を行えるので。宜しければ、あなたもご一緒に来ますか?」

「ぜひ行かせてもらいます。陽牙に何かあった時は私の身が持たないので」

「やめてくれ。乃愛は巻き込みたくない」

全身に包帯を巻かれた陽牙が二人の会話に割りこむ。

「なんで!?陽牙の身体はまだ治ってもないのに、そんな身体にした張本人と一緒にどこかも分からないところに連れて行かれるなんてどう考えてもおかしいよ?なのになんで・・・」

「俺は大丈夫だから」

「では、勝手なことをしますね。犯罪者に拒否権はないので、正直に言うとこの口喧嘩をこれ以上聞く気もないので。レディ、同行願います。」

「喜んで同行させてもらいます」

「だから、乃愛を巻き込・・・」

瞬間だった。彼は車椅子を強く押し、風を切り走り出す。その間に、車椅子から片手を離し、乃愛のくるぶしを掴む。

「ちょっと話しを・・・」

陽牙の声は風に消え、炎月に全く聞こえていない。気づけば、エレベーターの前まで辿り着き、急ブレーキを炎月は行う。そのときに強い衝撃が車椅子に与えた。

「いっ」

やはり陽牙にも影響はあり、彼は痛みを感じる。

「痛みますか。ですが、もう少しの辛抱ですから」

エレベーターの降下ボタンを押す。

「いい加減にしてください!さっきからずっと人の話を聞いてくださいよ!」

陽牙が痺れを切らし、ついに怒りを表わす。

「私はバッドエンドが嫌いなんですよ」

「はい?」

「バッドエンド物は大体は主人公が死ぬ事が多い。そして、大体のことが読者や視聴者に語られるが、ヒロインやモブキャラには何も語られない。それが、嫌で仕方ないのです」

「いや、あなたの事情を聞いてるわけじゃなくて」

エレベーターが止まる音が鳴る。

「エレベーターが来ましたね。では、向かいましょうか」

陽牙は炎月に車椅子を押され、乃愛はこの状況に理解が追いつかず、ずっとぽかんとした顔をしながら手首を掴まれ、同行させられる。炎月は乃愛から手を離し、エレベーターのボタンの1を押す。

「だから話しを・・・」

「ちょっと黙っていてくださいね」

炎月は手刀で陽牙を気絶させた。


「ん・・・」

陽牙が目覚めると、目の前には事務用机に肘をつき、指を組んで顔前に置いているどこかの指揮官を思わせるようなポーズを取った、淡い黄色の長髪の人物がいた。

「おはよう、苧環陽牙さん。先ほどは説明の乏しい畜生が無礼を働いたようで」

「えっと・・・」

陽牙はその人物に驚愕と困惑をしていた。なぜなら、部屋の端に横に倒れ、目に見えるほど大きなたんこぶを生やした炎月がいたからだ。

「何から話しましょうか?あ、その状態になった経緯は彼女さんから聞いたから」

「彼女さ・・・ん?誰ですかそれ、知らないです」

「あれ、違いましたか?てっきりそういう関係だと」

「もしかして、乃愛の事を言っていますか?」

「乃愛って言うのね?あなたとはどういう関係なの?幼馴染?それとも、親友?」

「え?今それ関係あります?」

「関係ないけど~恋バナはしたいな~って」

「話しを逸らさないでください隊長」

陽牙の背後から声が聞こえる、気配すら感じとれなかった。

「あ、そうだったわね。では端的に行きましょうか、私は、雨神あめかみ みなと気軽にジャンヌと呼んでね。で、後ろにいるのが矢車やぐるま 睦月むつき

「どうも」

陽牙は背後に顔を向け、矢車と会釈を交わす。

「ようこそ、北火警察認可悪霊討伐組織 世界の守護者に」

「世界の・・・何ですって?」

「世界の守護者、それだけ覚えていれば充分よ」

「悪霊がどうとも聞こえたんですけど」

「悪霊討伐のことね、我々は悪霊を討伐するためだけに集められた組織よ、だからあなたには手伝って欲しいの。あなたは私たちが知らない技術を使って、悪霊を倒しているとそこで、寝てる奴から聞いたんだけど。それは本当?」

「神獣のことですか?はい、その力で敵を倒してます」

雨神は指を組むのをやめ、今度は何かを思いついたかのように手を叩く。

「じゃあ、早速仕事の話しに入りましょうか、あなたにはここにいる悪霊を討伐してもらいたいのよ」

「悪霊?そんなのどこにいるんですか?」

「この建物こそが悪霊よ」

「はい?」

「この建物が悪霊なんだって」

「聞こえてますよ。え、じゃあこの建物を壊せって事ですか?」

「そういうわけにもいかないのよね。この建物まだまだ使われてるし」

「隊長僕から説明します」

矢車が雨神に提案する。

「私の説明じゃ不満って言いたいの?」

「はい、今のは僕でも理解出来ませんでした」

「ひどいわね。じゃ、彼に説明よろしく、私はこいつを連れて悪霊の本体探してくるから。」

雨神は椅子から立ち上がり、炎月の方へ歩を進めたと思えば、彼の着ているコートの襟を握り、引きずりながら陽牙の背後の扉をスライドさせて退室する。

「では改めて話しましょうか、二人で」

矢車は雨神が座っていた椅子に座り込む。

「この建物が悪霊ってどういうことですか?」

陽牙が質問する。

「このビルに悪霊が取り憑いたんです。でも、小会社がまだこのビルを利用しているので、誰もいない深夜に悪霊を建物に傷一つ付けずに討伐する。これが任務内容です」

「え、今深夜なんですか?それに、俺の能力だと、傷一つ無しは流石に無理だと思いますよ」

「無理なのですか?あなたは悪霊をこれまで何体も倒してきたんですよね?」

「僕の能力は触れた物を最終的に炭化させる能力なので、地面にも影響が出るんですよ」

「あーそういうことですか。厄介な能力ですねー」

矢車が頭を抱え、首を横に振る。陽牙の能力が建物内で使いにくいのは火を見るよりも明らかだからだ。

「ちょっとだけ飛ぶとか、なんとかなりませんか?」

「飛ぶのはまだ不出来でして・・・」

「困ったなー、人数分しか武器も持って来てませんし」

「武器があるんですか?」

「もちろんです。皆が皆あなたのように戦えるわけじゃありませんからね・・・あ、忘れてました」

「どうしたんですか?」

「包帯は外して良いですよ。傷は完治しているので」

陽牙は流されるがまま、体中に巻かれている包帯を外す。驚くことに彼の言うとおり、傷が全て元から何もなかったかのように消えていた。

「ほんとだ、傷が全部治ってる」

「すごいでしょう。致命傷でも生きていれば治すことができる能力者が世界の守護者にはいるんですよ。今ならなんと治療費も無料なんです」

「通販か何かですか?」

「冗談です」

嘲笑し、矢車は無意識に出ていた笑みに気づき再び真顔に戻る。

「では、今回は見学としましょう。誠くんに頑張ってもらいましょう」

「誠!?誠にそんな能力なんて」

「あるんですよ実は、というか彼から提案してきまして」

「誠から?確かに、俺に比べて悪霊には詳しいですけど・・・」

二人が話しをしているとき、黒い煙が扉から漏れ出ていた。陽牙は何かが焦げている臭いに気づき、咄嗟に口を塞ぎ矢車に警告する。

「何か燃えていますよ!速く外に」

「ああ、大丈夫ですよ。ちょうど良かった、見に行きますか」

「見に行くって何をですか?」

「火元をですよ」

陽牙は矢車に流されるまま、扉の外へと足を運ぶ。扉の外には、白いタイルの廊下が広がっており、明かりは点いていないがガラスの向こうの月明かりに照らされている。しかし、その光景には異物があった、泥の塊のような物が、窓際や、廊下の床に燃えながら蠢いている。

「何ですかこれ」

陽牙はこの光景に眼を細め、表情が歪む。

「悪霊ですよ。あなたも何度も見たことあるでしょ。先ほど言ったようにこの建物には悪霊が取り憑いている、だからこのビルのあらゆる場所からこのようにして湧いてくるのです」

「じゃあ、出てくるのをずっと待ってるんですか?」

「いえ、それではただ凌いでいるだけです。だから本体を討伐します。」

「本体を討伐?どうやってその本体を見つけるんですか?」

「それは・・・」

矢車が言いかけた時だった廊下の奥から誰かのドタドタと走ってくる音が聞こえた。その音は次第に接近し、やがて陽牙の前にまで近づいてくる。その正体は勢い余って陽牙に抱きついていた。

「陽牙ッ!」

その正体は乃愛だった。

「乃愛!無事で良かった。」

「ヨガッタァァァァァァァァァァァァ。イギデデグレデェェェェェェェ」

「なんて?」

乃愛は涙を流し続けており、何を話しているのか聞き取れない状態にあった。

「良かった、生きててくれてだってさ。お前は恵まれてるな」

乃愛が走ってきた方向から足音と声が聞こえた。その声に陽牙は聞き覚えがあった。

「誠!久しぶり、無事みたいでよか・・・」

陽牙はそこで言葉を失った。誠がこちらに歩いてくることは、目で確認出来る。だが、彼は炎を纏う剣を持っていたのだ。

「どうしたんだよ。そんなありえない物でも見たような顔して」

「いや、その剣なんだよ。なんで誠がそんな物を」

「陽牙さん、あれが火元です」

困惑する陽牙に矢車が端的に説明する。

「でも、このビルには傷一つ付けちゃいけないって」

「あの炎は調整が出来て、悪霊だけを燃やしてもらっているんです。だからこのビルを燃やすことがないんです。」

「いやーこの剣にそんな能力が有るなんて。知らなかったけど、ダメ元で持ってきて良かったですよ」

誠が矢車に感謝し、頭を下げる。

「え、これ渡鳥荘にあったの?」

「あるよ?倉庫に大事そうに保管してたから持ってきた」

「大事ってことじゃないのそれ?」

「見つけたから仕方ない」

「陽牙!ここの悪霊はこの変態に任せて私たちは逃げよう」

二人の会話に涙を抑えた乃愛が割って入る。

「陽牙には戦う能力があるんだ。悪いが逃げさせるわけにはいかない。わかったかカルシウム女」

「誰がカルシウム女よ!」

「骨集めが趣味の女となんかいてられるか。さっさと一人で尻尾巻いて逃げな」

「あんたもその剣さえなきゃ私と立場は同じじゃない!その剣陽牙に渡せば、問題ないでしょ?あんたが先に尻尾巻いて逃げなさいよ!」

「二人とも、喧嘩はやめろって」

二人を陽牙が宥めるが、それでも二人は止まらずに次第に悪化していく。

「陽牙がそう言うなら、私は陽牙に守ってもらうから」

「図々しいにもほどがあるだろ。矢車さん!この女外に出してください!」

「あ!またのけ者になんてなりたくないわよ!矢車さんから聞いたからね、二人が悪霊をこれまでに何体も倒してるって事」

「困りましたね。どうしたら丸く収まりますかね」

矢車が処理に困り、頭を抱え始めた時だった。今度は月に照らされていない場所から誰かが歩いてくる音と何かを引きずる音が聞こえてくる。

「本体見つけてきたわよー」

「雨神さん!」

矢車が雨神に手を振る。やはり、引きずっているのは炎月である。矢車に雨神は手を振り返す。

「何でそこにいる二人は喧嘩してるの?さっきまで、喧嘩なんて全然してなかったじゃない」

二人はその言葉に反応するかのように、先ほどまでの威勢はなかったかのように黙り込む。

「あら、急に止った。変な子達」

「さっきまでの二人ってどうだったんですか?」

陽牙は興味本位で雨神に聞いてみる。

「二人して陽牙は大丈夫なんですか?とか本当に傷は完治できるんですよね?とか質問攻めするばかりで喧嘩の一つもしてなかったわよ」

「へぇーそうだったんですね。そんなに心配してくれたんだね」

乃愛は顔を赤らめ、誠は表情が固まっている。しかし乃愛は、満面の笑みで陽牙に向かって答える。

「そうだよ!すごく心配したんだから」

陽牙はそのまっすぐな回答に照れくさくなり、後ろに向き変える。

「ところで、その本体ってどこにいるんですか?」

矢車が三人を横目に雨神に問いかける。

「今から会いに行くからついてきてね~」

雨神はその言葉を言うと再び影の中へと消えていく。

「ついて行きます」

矢車が雨神の歩を進めた方向へと足早に進む。そんな彼に陽牙は質問する。

「矢車さん。俺力使えないんですけど、ついて行っても大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。今回はバイトの初日のような物ですから。それに、誠君が君と長月さんを守ってくれるでしょうから」

「わかりました。ほら、二人とも行くぞ」

二人の腕を掴み、陽牙は矢車の後を足早に追うのだった。


続きますのでどうかリゲイン・ザ・パストを今後ともお願いします。

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