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リゲイン・ザ・パスト  作者: 玲亜 トマト
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第弐話 自分がすること 後編

頑張って書いていこうと思います。トマト好きです。

爆発が出ない。正確には力を貯めたのにもかかわらず、爆発もそれらしき現象も、形跡すら出てこない。俺は再び勢いをつけるために左腕を後ろに向け、肘を曲げる。そして、親指の第一関節を曲げて、それ以外の指の第二関節までを曲げて、力を込める。

「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

俺は勢いが足りなかったのかと考え、声を張り上げ怪物に左手をぶつける。しかし、爆発は起きなかった。

「出ないんだけどやっぱり」

「まさか・・・」

誠は何かに気づいたのかと思い、俺は振り向き、提案を聞く。

「その力は全身から黒い炎が出せるんだ。一回出してみてくれ」

俺は誠の言葉に従い、全身に力を入れる。俺から見てもわかりやすく、炎もそれらしい物すら一つも現れない。

「やっぱり」

「どういうことだ?」

「今の天気はどうだ?」

「大雨だな」

「だな?じゃあ炎は何で消える?」

「水だな」

「そういうことだ。その炎、水で消化されて不発してる」

「え、じゃあ俺こいつどうやって倒せば良いの?」

俺は誠に振り向き、目を点にして化け物を指さし誠に問いかける。だが、誠は俺の質問を一言で無理矢理解決した。

「頑張れ」

その一言を言うと、誠は今いる位置から一歩後ずさる。

「おいなんで後ずさる?」

俺はこの行動に疑問を感じた。今まで、ずっと真面目な顔をして、仁王立ちを決めていた彼が、急に足を動かしたのだ。

「前見た方が良いぞ」

誠は更に一歩、また一歩と後ずさる。俺は誠の言葉に従うように後ろに向き直る。そこには大きな目が合った。正確には泥の中から俺が丸々入ってもおかしくない一つの大きな目でこちらを見ていた。

「あな・・・たは・・・だぁれ・・・?」

今までの呻き声とは違い、女性のような声が目から聞えてくる。

「目から声?」

俺は目で見える現実に理解が追いついていなかった。

「あなたは・・・私の・・・友達に・・・なってくれる?」

「それってどういうことなんだ?君はひとりなのかい?」

俺は、戸惑いながらもその声の質問に答えようと試みることにした。もしかしたら何か、あの人についてわかるかもしれないと淡い希望を抱いて。

「ひとり・・・ぼっち・・・寂しい・・・」

「そうなんだな。じゃあ、俺が友達になれば寂しくなくなるか?」

「ほん・・・と?・・・嬉しい・・・ありがと・・・う」

「ああ、だから、教えて欲しい。あの人・・・苧環 零士について何か知ってることはないか?なんでもいいんだ」

「れい・・・じ?・・・わたし・・・の・・・あく・・・りょうの・・・主」

「ああ、その人だ。その人が悪霊を使役してる理由を・・・」

言いかけたときに化け物は続けて声を出す。

「主だけど・・・関・・・係ない・・・友達を・・・増やすのが・・・私の目的・・・」

悪寒がした。化け物の言う友達に違和感を感じ始める。考えてみれば妙なのだ。なぜ、この場所に誰もいないのか、化け物がいるのに一つも救助部隊が駆けつけないのか。

「誠!嫌な予感がする。速く逃げよう!」

俺は誠に叫んだ。だが、誠からの返答はない。誠に目を向けるとそこには、目が虚ろであり、棒立ちのままのまるで人形のような彼の姿があった。

「誠?おい誠!」

叫んでもやはり返事がない。ただでさえ、頭が真っ白になりそうな俺に化け物は声を掛けてくる。

「あの子は・・・もう・・・私の・・・友達・・・みんなの・・・友達」

俺は真っ白になりそうな頭を必死に動かして質問する。

「友達って・・・こんな人形みたいになることがか?」

「友達を・・・悪く言わないで・・・私・・・そんな人・・・嫌い・・・」

「俺だって友達にこんなことする奴は嫌いだよ」

「じゃあ・・・嫌いな者同士・・・嫌いだから・・・みんなで・・・あなたを倒す」

「俺もお前を倒すよ。放置したらこうなってしまう人が増えそうだし」

俺は冷静になりつつある頭で考えを整理する。

(おそらく誠がこうなったのはこいつのせいだ。こいつの言う友達がこれだとしたら、誠のような人が増える。でも、さっきの白パーカーと違って爆発も起こせない。どうする?どうしたらこいつを倒せるんだ?)

俺の考えがまとまる前に、化け物は再び話し始める。

「みんな・・・出ておいで・・・」

その声に反応するように誠はこちらへと歩み始めて来るかと思えば、屋上にある扉が何者かの手によって開く。その扉を開けたのは群青色のスーツに身を包んだ男性だった。

「まさか・・・このビル街にいた人たちは・・・」

俺は彼の目を見た瞬間に悟った。男性の目が虚ろなのだ。男性だけではない。男性の背後には同じく目が虚ろのスーツ姿の男性、更には女性までもが扉から次から次に出てくる。

「みんな・・・一緒にこの子を・・・倒そう・・・」

化け物の言葉に流されるかのように彼らは俺目がけて走ってくる。雨の中なので倒れる者もいたが、倒れた後も、直ぐに体勢を戻し、こちらへと再び走り出す。この光景に俺は悪い夢でも見させられている気がした。

「悪い夢なら覚めてくれ」

声に漏れるほどに俺は恐怖した。白パーカーの時と同じように、俺は動けずにいた。この力を持っても何もできないのかと自分の無力感を心中で嘆く。そんな時だった。

「友達に・・・なるの・・・そんなに・・・嫌・・・?」

化け物が俺に声を掛けてくる。俺は恐怖で答えることすらできずにただ佇むことしかできなかった。やがて、彼らは俺の場所までたどり着き、手を伸ばす。俺はそれを避けようと後ずさった。その先には道はないというのに。

「あっ・・・」

恐怖は焦りに変わった。俺はビルから転落しているのだ。どうにかしないとと、頭では分かっているが、何もする事ができなかった。俺は目を瞑った。

「ごめん・・・」

俺はその言葉だけを呟き、地面まで落ちていった。


俺が目を開けるとそこには、ポールに塞がれ、前に進めず、ただこちらに手を伸ばすだけの彼らとこちらに視線を向ける化け物がいる。俺は転落した。なのに今の俺は彼らを見下ろしているのだ。自分でも訳が分からなかった。体に異常はない、あるとすれば、背中が騒がしい。俺は背中に視線を向けるそこには羽ばたいている翼があった。

「なんで・・・」

自分でもなぜ使えているのか分からなかった。なぜか空を飛べている。おそらくだが、無意識なのだ。無意識に翼を動かした。その結果、俺は空にいるのだと思考を固める。そうでなくては、今の俺はいない、そう確信する。

「とりあえず、なんとかなったのか?」

化け物は俺に攻撃してこない。おそらく攻撃する手段がないのだ。だから、俺は考えることにした。この状況でこの化け物を倒せる手段を。それが俺の今ここにいる目的、自分のすることなのだと唾を飲む。

(あいつを倒すには、あの爆発を起こすしか方法はない。でも、今は、雨に打たれてて、爆発どころか、炎の一つもない、どうしたら・・・ん?今俺飛んでるんだよな。てことは)

俺は雲を見上げる。その雲を見るなり、手を強く握りしめる。

「降りてきて・・・速く・・・」

化け物が空中で浮き続ける俺に痺れを切らしたのか、化け物が俺に語りかけてくる。

「俺は君を倒す。その覚悟を見せるよ、今から」

俺はその言葉を言うなり翼に全ての力を込める。先ほどは飛べなかったが、今は飛べている。俺は力強く翼を羽ばたかせた。すると俺は、先ほどいた空中よりも更に高い場所にまで上昇した。俺は化け物を無視し、上昇し続けた。やがて、雲の中に入り、雲すらも超え、俺は雲の上まで辿り着いた。

辿り着いた雲の上は、雨一粒すらなく、日が沈み、夜に差し掛かろうとしている。俺はここで、今度は全身に力を込めた。先ほどは痕跡すら見えなかったが、全身から黒い炎が吹き上がる。

「よし!これであいつを倒せる」

俺は翼の動きを止める。止めることは容易だった、無意識に力が入っているのなら、意識して力を抜けば、翼を止められると思い、試してみたら、見事に成功した。

俺は、全身を炎で包みながら顔を先にして地上へと急降下する。目標はもちろんあの化け物だ。だが、雲の上のため、正直一か八かの賭けだ。

「動いているなよ!」

俺はその叫びと共に雲を突き抜けた。雨に打たれるも、勢いによって黒い炎はより強くなる。肝心の化け物は先ほどの位置を移動せずにいた。

「来たぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

叫び俺は、化け物に衝突した。化け物には弾力があり、衝突し、体内に潜り込んだが、弾かれ、勢いが失速し、地面に着かずに体内に留まる形となった。だが、黒い炎を浴びて炭化はしていく化け物。

「ああああ・・・ああああ・・・・」

体内からでも、化け物が悶えているのが聞こえてくる。当然だ、体内を焼かれているのだから、俺はその体内で左腕を後ろに向け、肘を曲げる。そして、親指の第一関節を曲げて、それ以外の指の第二関節までを曲げて、力を込める。貯めた力を前に突き出した瞬間、爆発が発生した。その爆発は周囲を巻き込み、化け物の体の泥全てが弾け飛んだ。

「どうし・・・て・・・私は・・・ただ友達が・・・欲しかった・・・だけなのに」

化け物の目が炭化を始めるも、悲しみの混じる声で語る。

「支配は友達なんかじゃないよ。友達は自分の気持ちと相手の気持ちがわかり合えている関係のことをいうんだよ」

俺は化け物の嘆きに答える。

「そっか・・・それが・・・友達・・・なんだ・・・ね・・・教えてくれて・・・ありが・・・」

言い切る前に空中で目の炭化は終わり、声が聞こえなくなった。

「かわいそうな奴も悪霊にはいるんだな」

腐敗する泥がクッションの役割を果たし、地面に寝そべることができた俺は、炭化した目を見て、静かに呟くのだった。


雨も止み、気づけば俺の姿もいつもの姿に戻ったため、俺は誠達がいるであろうビルの屋上まで、階段を走り抜ける。

「誠!無事か!」

勢い余って扉を強く押し開ける。そこには先ほど目が虚ろだった多くの男女が倒れ込んでいた。

「俺は・・・一体何を・・・」

誠はその中から頭を摩りながらも立ち上がり周りを確認する。

「そうだ、さっきの化け物の音を聞いていたら、いつのまにか意識がなくなったんだ」

「良かった。戻ってくれて」

俺は心底安心していた。なぜなら、化け物が消滅しても、洗脳が続いていたらと不安に思っていたからである。やがて、続々と周りで倒れている男女も起き上がり始める。

「倒したのか?あの化け物を」

誠の質問に俺は笑顔で強くうなずいた。

「倒したのか。それなら良かった。じゃあさっさと帰ろう」

俺は誠に促されたが、男女の方向に歩みを進める。

「この人たちは無事なのかな・・・」

「無事だろ。俺と同じ状態なんだったら」

「そうなのかな・・・」

「忘れるなよ。俺たちはあくまで、人助けをするためにここにいるわけじゃないんだから」

俺は少し考えてから誠とビル街を後にすることを選んだ。よく考えてみれば、今の状況を年の離れている社会人に一からどうやって説明すれば良いのかわからなくなったためである。

俺と誠はビル街から走り抜け、周りの景色が住宅街に変わった頃には息も切れ、やがて歩いて帰ることに、いつのまにか変わっていたのだった。


見てくださってありがとうございます。次回に続きます。

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