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リゲイン・ザ・パスト  作者: 玲亜 トマト
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第弐話 自分がすること 前編

頑張って書いていこうと思います。トマト好きです。


俺が気がついたとき、最初に目に入ったのは見覚えのある天井だった。木目が目のように見える木の板の天井。渡鳥荘の天井だ、更には、この板目が見えるのは管理人室にあるソファーに寝転がる時以外には見ないのだ。つまり、俺は渡鳥荘まで運ばれたようだ。

「起きたか。カレーのルーは俺が買っといたから」

机を挟んで反対のソファーに座っている男が声をかけてくる。渡鳥荘で俺以外の男が誰かなど直ぐに分かった。

「誠、説明してくれ、何が起きたんだ」

「説明も何も、起きたことが真実だよ」

「・・・ごめん俺が悪かったよ、その真実を説明してください」

起き上がり、頭を抱えながら、足を地面に置く。ずっと、頭痛がする。まるで、酸欠でも起きているかのように。その姿を一通り見た後に誠は言葉を続ける。

「陽牙、落ち着いて聞いてくれ、お前はとっくの昔に死んでるんだ」

「おかしいだろ、それに、死んだのは乃愛だ」

「そいつは生きてるよ、何ならお前の後ろに立っている」

その言葉が終わる頃に、俺の首元には腕があった。後ろから抱擁されたのだ。

「え?乃愛?なんで、だってあのとき・・・」

乃愛の腕を両腕で掴み上に持ち上げ、後ろに振返る。そこには、灰色のパーカーに着替えている乃愛の姿があった。俺は訳が分からなかった。俺は持ち上げた手を離した。

「ごめん」

俺は乃愛の服の裾を持ち、たくし上げる。そこにはピンクの水玉模様のスポーツブラが見えたが先ほどの攻撃による胸の穴はなかった。それどころか、縫ったような後もなければ、傷跡すらない。どうなっているんだ俺の頭には疑問が尽きなった。

「エッチ!」

乃愛が顔を赤らめ、俺のたくし上げた腕を右手で振り払い、左手で俺の頬にビンタを叩きつける。俺はその時初めて、自分がデリカシーの欠片もないことをした事に気づき、必死に弁明する。

「違う!断じてそういうわけじゃ!」

「じゃあどういうつもりだったの!?最悪・・・あの変態にも見られた・・・」

乃愛が誠を見下し睨みつける。誠に目を向けると机に置いてあるコーヒーの入ったコップを平然と啜っていた。

「俺は変態じゃないし、同年代に興奮するような奴じゃないし、8年も一緒に過ごしてる奴の下着なんて、今更見てもだろ」

「やっぱり変態じゃない!ベッドの下の雑誌、年上の人多そうだしね!」

「それは関係ないだろ!」

二人のいつもの喧嘩が始まった。これはさすがにまずい、そう感じた俺は二人の間に割って入る。

「まあまあ二人とも落ちついて・・・」

「陽牙が言わないで!」

「お前が言うな!」

俺の静止は逆効果だったようで、余計に喧嘩はヒートアップしてしまった。俺は困り果て、頭の中が真っ白になった。そのときだった。

「ゴロゴロォ」

外から雷の鳴るような音が聞こえた。それと同時に、管理人室の扉が開き、外から管理人が籠を持って、現れた。その籠には衣類が入っていた。

「急に雨降ってきたのよ~誰か、部屋の中に入れるの手伝って~」

管理人の言葉に一人が手を上げる。乃愛だった。

「私手伝う!」

「助かるわ~。じゃあ、今持ってきた分お風呂場に置いといてもらえる?」

「任せて!」

乃愛はいつもの元気な声で管理人に返し、玄関に置かれた籠を風呂場へと持っていく。

「陽牙、俺の部屋で話そう。俺たち、今は邪魔そうだ」

誠の提案に俺は了承した。

雨に濡れながらも誠の部屋へと足を運ぶ。誠は部屋に着くなり、勉強机の椅子に座り、ベッドを指差す。

「とりあえず座れよ、積もる話をするんだ。立ちっぱなしも疲れるだろうしな」

「分かったよ」

俺は誠の言葉に従い、ベッドに座り込んだ。

「聞きたいことは山ほどあるけど、まず始めに、俺が死んでるってどういうことなんだ?」

さっきあったことよりもまずは誠が言ったこのことだった。

「お前の心臓はとっくに止ってる。お前、人間と妖精と悪魔のハーフだろ?それだけ多くの血が混ざれば、短命になる。後は分かるだろ?寿命だよお前は本来、七歳の時に死んだんだ、寿命で」

「短すぎるだろ・・・じゃあ何で今の俺は生きてるんだ?ドナーでも見つかったのか?」

「見つかるわけないだろ。人間と妖精と悪魔のハーフがお前以外いると思ってるのか?」

「それもそうだな。じゃあなんで・・・」

「この島にいる異種族には能力がある。それは知っているだろ?妖精なら、不幸を呼び寄せる能力、悪魔ならどんな能力なのか分からないって感じで」

「分かるよ」

「お前が呼んだ不幸がさっき使った神獣ってことさ」

俺は誠の言葉に驚愕した。神獣?なぜそんな物が俺の中に?更に謎が増える一方だった。しかし、今一番聞くべき質問はこれだと考えて口を開く。

「なんでそんな事知ってるんだ?」

「知ってるさ。聞かされたからな、お前の父、零士さんから」

「何であいつが誠に」

「神獣の見張りが俺の役目だからさ、お前がその力を正しく使うようにな、ここからはこっちの話だ、お前には零士さんを倒してもらう」

「なんで俺があいつと関わらないといけないんだ!ふざけるな!」

俺はあの人の事が嫌いだ、そんな人を倒せだって?冗談じゃない。俺の心の中は複雑になっていく一方だった。

「神獣って何なんだよ?」

俺はまずは疑問を一つ一つ潰していこうと考えた。今は疑問で頭がいっぱいになるよりもその謎を解決する事を優先すべきだと思ったからだ。

「簡単に言えば、神を倒す獣だな、それぐらい膨大なんだよその神獣の力って言うのは、だから、今、陽牙の体は、延命してるって訳だ、分かったか」

「なんとなくは、つまり、俺は神獣の力で生き延びてるって事なんだな?」

「そういうことだ」

「じゃあ・・・」

「シッ」

俺が言葉を言いかけたところで、誠に止められた。疑問をこぼそうと思ったが直ぐにその理由が分かった。うめき声だ。誰かの呻き声が聞こえてきたのだ。その声に集中しているとあることに気づいた。微弱ながら揺れているのだ。地震のように感じたがこれはタイミングが良すぎる、更に揺れはずっと続いているため、地震とは判別ができない。俺はそう考えていた。

「なんなんだこれ」

「お前にはこれを倒してもらう。これを使役しているのは、伯父さんだからんな」

「あの人が?なんでそんなことを?」

「それは分からない、でも、これを止めないと俺たちはただ殺されるだけだぞ。さっきみたいに」

俺の脳裏にさっきの光景が浮かぶ。胸を貫かれて力なく倒れる乃愛の姿が。俺はもうあんな光景は見たくない。もう二度と失いたくない。

「あの力があれば、さっきみたいに戦えるのか?この揺れを起こしてる張本人も、あの人も、倒せるのか?」

「ああ、どっちもその力があればできる。今はこれしかいえないけど、信じてほしい」

誠が椅子から立ち上がりこちらに頭を下げる。

「今は信じるか、信じないかよりも、まずはこの揺れの正体からだろ?分かるのか、そいつの位置」

「多分あいつは、呻き声を発してる。だからこの呻き声を便りに探せば見つけられるかもしれない」

俺は耳を澄ました。誠の言うとおり、呻き声が小さいながらに聞えてくる。更に、呻き声は大きくなっているように感じ取れる。

「もしかして、近づいてきてる?」

「かもな。まずいぞ、このままじゃここも危ない」

「速くなんとかしないと」

ベッドから立ち上がり、走り出し、玄関の扉に手をかける。自然と焦りがこみ上げてくる。今、自分しかなんとかできる人はいないと感じると体から汗がにじみ出る。さっきの戦いは勝てたが、その勝利が続くとも限らない。まだ、怖いのだ、戦うのが。

「行こう」

誠の言葉に押されるかのように扉を開く。

外は豪雨だった。だがここで立ち止まっても意味はないと自分に鞭打ち前に進むと決意する。

雨に打たれながら、呻き声を頼りに町を誠と走っていると最も大きなうめき声がビル街で聞こえる。体中が水に潜る感覚を味わいながらもビル街に入る俺と誠。呻き声は豪雨にもかかわらず、はっきりと聞こえる。

「なんでこんな豪雨なのにこんなにはっきり呻き声が聞こえるんだよ」

「おそらくこれがあいつの能力なんだ。声が関係しているんだろう」

「能力があるのか?」

「ああ、悪霊にはそれぞれ能力もあるし、種類もいる。ほら、あいつだ」

先に走っていた誠が曲がり角の先を指さす。

俺は誠に追いつてからその先に目をやる。そこには近辺のビルと同じ大きさの巨大な泥の塊がいた。その塊は体の泥を地面に垂らしながらも、前へ前へと体を引きずり進んでいる。

「何だよあれ」

先ほどの白パーカーと違い、あまりにも形の違う者に俺は言葉を失った。

「ほんとにあれが悪霊なのか?どう見てもスケールが違うだろ」

「いや、悪霊だ。あいつは一番放置してはいけないタイプだ」

「どういうことだよ?」

「悪霊にも種類があるんだ。生きてる奴にとりつく憑依型と、死者にとりつく蘇生型の二種類いるんだ。あいつは、蘇生型でも特に厄介で、あれは成長した姿なんだ」

「成長?とりついて終わりじゃないのか?」

「蘇生型はとりついてから成長し続けるんだ。あれみたいに」

俺は誠からある程度の悪霊の情報を聞きつつ悪霊に忍び寄る。その化け物は近づけば近づくほどに姿は鮮明になり、腹に違和感を覚える。

「腹に何か渦みたいなものがあるな。あれ、振動してないか?おそらくあれが呻き声の正体なんじゃないか?」

俺は予想を誠に話した。すると誠は顎に手を添え俯きだす。

「じゃあ、あの腹壊さないと呻き声は消えないのか、よし、良いこと思いついた。陽牙、とりあえず近くのビルの屋上に行くぞ」

俺は、何も伝えられずにゆっくりと進む化け物の近くのビルに入る。入ったビルに明かりはともっておらず、それどころか、人気もしないのだ。

「変だな、まだ、17時なのに」

「確かに妙だな。あの化け物がいるとはいえ、通報も何もせずに、ビルに人が一人もいないなんて」

ビルの中がもぬけの殻な事に疑問を覚えながらも俺たちは屋上に続く扉まで歩みを進め、扉を開く。そこには、さきほどの化け物の頭部が見える。俺たちは化け物頭部の近くの屋上に、備え付けられているポールの近くまで歩みを進める。

「気をつけろよ。その力には制限時間があるからな」

誠が確認をしてくる。どうやらあの神獣とやらの力には制限時間があるようだ。

「何時間くらいなんだ?」

俺は誠の言葉に確認を取る。

「大体10分だ」

「ん?もう一回聞いても良いかな?不穏な数字が聞えたから、制限時間は何分なんだ?」

「10分だ」

「あんな奴を10分で倒せと?無茶だよ?」

「倒せ」

「はい・・・」

誠が威圧を掛けてきたので、俺はそれに負け承諾を余儀なくされた。

変化チェンジ

俺の体は、黒い炎の渦に飲み込まれる。やがて、渦は止み、手足は肘までが黒色に染まり、指も棘のように鋭くなる。体は着ていたTシャツを着ており、背中には翼が生える。

「とりあえず、あの白パーカーを倒したあの一撃を与えてみるか」

「ん?白パーカー?」

俺は誠が言っていたことを気にもとめず、ポールを掴み、軸にして飛び上がる。外側のビルの地面に着地すると、掴んでいたポールは腐敗し、やがて炭化する。俺はそれを無視し、俺は勢いをつけるために左腕を後ろに向け、肘を曲げる。そして、親指の第一関節を曲げて、それ以外の指の第二関節までを曲げて、力を込める。

「痛いの行くぞ!化け物!」

俺は、目一杯力を込めた左腕を怪物にぶつけた。だが、違和感を覚えた。

「あれ?」

俺は思わず、予想していた光景が起きないことに声に出して困惑する。

「どうした、陽牙?」

「出ない」

「は?」

「さっき出たはずの爆発が出ないんだよ」

誠がまるで、あり得ないことが起こったように目を何度もまばたかせながら俺に質問する。

「どういうことだ?」

二人で顔を見合わせても、雨の音と呻き声が耳に入るばかりだった。


見てくださってありがとうございます。次回に続きます。

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