壱話―弐 変化の覚醒 後編
頑張って書いていこうと思います。トマト好きです。
斉藤達が急いで帰ってから数十分が経った。陽牙達はあの後同じクラスの乃愛と合流し、渡鳥荘に帰るつもりだった。だが、現実は非情で、陽牙達はある女性に校門で止められていた。女性は陽牙達の前で両手を広げ、行く手を阻んでいた。
「何してんの?」
この状況に始めに口を開いたのは誠だった。
「せっかくの入学式なのよ?みんなで写真撮りましょう?校門前で、入学おめでとうって書いてある看板あるし」
「いや、そういうことじゃなくて・・・何で学校まで来てるの?」
「保護者なんだから知ってるのは当然でしょ?それに、渡鳥荘で待ってても暇だし」
「はぁ・・・分かったよ。撮りましょうかお母様・・・」
「ようやく観念したわね。この日のために写真写り良くなるように勉強してきたんだから」
「母さんが写真写り良くなってどうするんだよ」
誠が溜め息をこぼしはするものの、満更ではない様子で管理人に腕を組まれ連行される。陽牙と乃愛はなんだいつものかと言わんばかりに呆れた表情をしている。そんな表情で二人を見ているとき、管理人が振返り、陽牙達に目を向け、声をかける。
「あなたたちも一緒に撮るのよー?速く来なさーい」
「えっ」
二人は嫌がりながらも撮らなかったときに何をされるか分からないことへの不安から、付いて行く以外の選択肢がなかった。
校門まで四人が歩みを進めた時、管理人があることに気づいたように声を出す。
「あっ」
「母さん?どうしたんだい?」
「写真全員で写るためには誰かに撮ってもらわなきゃいけないんだった」
「そのくらいそこら辺にいる人に頼めば良いじゃんか?」
「そういうわけにもいかないのよね。だって人と話すなんて疲れるじゃない?ほら、それで問題になったら嫌だし、それにほら、もしもカメラを盗まれたときのことを考えたら心配で心配で」
「これだから人見知りは・・・」
再び溜め息をこぼし、今度は頭を抱える誠。誠は管理人の手からカメラを風を切る勢いで奪い取り、校門から出てきた学生に話しかけに行く。
「すいません、写真を撮ってもらいたいんですけど」
「良いですよ」
話しかけた男性は快く受け入れてくれ、四人で校門に立てかけられている看板の前に立つ。
男はカメラを両手で持ち、目に近づけ、声を上げる。
「じゃあ、撮りますよー!」
その声に四人は声をそろえて
「はーい」と承諾した。
瞬間、シャッターを切る音が鳴り響いた。男は撮れているかをカメラの画面を確認し、うんと頷くと四人へと近寄る。
「撮れてました。確認お願いします」
「ありがとうございます」
男からカメラを受け取り、写真を確認する誠。誠が確認した途端、口を広げて驚きの表情を見せる。
「写真撮るのうまいですね!」
「そうですかね?昔から親がよく写真を撮るのが趣味で一緒に撮っていたんですけど、いつもあれがだめこれがだめと怒られてばかりだったんですけど・・・」
「だめじゃないですよ。こんなに綺麗な写真が撮れるなんて、コンサートとかに出したらなにか賞が撮れますって」
「そんなことないですよ。」
二人の話は盛り上がり、3人がいる校門前まで戻ってくるころには、数十分ほど経っていた。
「ごめんごめん、つい夜崎との話に夢中になっちゃってね」
「時間掛かりすぎだろ。いつの間にあの人の名前も聞き出したんだよ」
「なんで遅いのよ、お腹空いたんだけど」
「渡鳥荘まで何分かかると思ってるのかしら?カレーの量減らすわよ」
誠からの謝罪に陽牙達はそれぞれに愚痴をこぼす。だが、男が撮影した写真は言葉通り綺麗な写真で、全員から好評だ。誠からさっきの男の事を聞いたのはその男が撮影した写真を散々褒めた後だった。夜崎 雨々羅。先ほどの男性の名前で、白と黒の髪が交互に生えているのが印象に残る人物だ。
彼の名前を誠から教えてもらう頃には四人はもう、渡鳥荘に帰ってきている頃だった。
「あっ・・・」
管理人の素っ頓狂な声が管理人室に響く。
「どうしたんですか管理人さん?」
陽牙がその声に反応する。
「陽牙、スーパーに行ってきてくれないかしら?カレーのルー買い忘れたわ」
「嘘ですよね?」
「入学式で頭がいっぱいですっかり記憶から抜けていたのよ」
「分かりました。買ってきます」
「私も着いて行くよ!」
乃愛が陽牙と管理人の会話に割り込んでくる。
「いいよ、これくらい一人で大丈夫」
「今日人数制限ある高級トマトの特売日だよ」
「乃愛、一緒にスーパーに行こう」
「うん!」
乃愛の元気な声が管理人室に響く。
スーパーに行くと決まったその後の段取りは速かった。まるで、カレーのルーよりもトマトの話のおかげで準備を速めたように。
「いってきます。管理人さん」
気づいた頃には準備は済んでおり、管理人室の扉に手をかけ、目をキラキラさせている陽牙と乃愛がそこにはいた。
「行ってらっしゃーい」
管理人室から出て行く二人に手を振り、見送る。その光景を見たときに、陽牙は疑問を感じる。
「あれ?そういや誠ってどこに行ったんですか?」
「そういえば、さっき自分の部屋に帰ってから見てないわね。」
「じゃあ今もずっと部屋にいるのか、完成にまだ時間かかるって伝えておかないと」
「私が言っておくわ。二人はスーパーに速く行ってほしいし」
「そうですか?分かりました」
二人はその言葉のあと管理人室を後にする。
制服から私服に着替え、部屋を出ようとしたとき、インターホンの呼び鈴の音が部屋に鳴り響いた。その音に疑問は覚えたが、おおよその予想はついていた。あの人だろう。
「空いてますよ、今日は何の用ですか?お義父様」
その言葉を聞き、扉を開け、即座に閉じて話し始める。黒いスーツに身を包み、緑と黄色のチェックのネクタイを着けた、オッドアイの男性がそこに佇んだ。
「いやー、苦労したよ。まさか当日まで遅れる事になるなんて。あ、これソーザンの名物のトウモロコシなんだけどさ、おいしいから買ってきちゃった」
ソーザンとはこのピースアイランドの南の国である。
「で、わざわざトウモロコシを渡すために人の家に来たわけじゃないんですよね、伯父さん?」
俺が腕を組み、眉をひそめ、伯父を見つめる。
苧環 零士。陽牙の父であり、俺の父さんの兄に当たる人物だ。
「何、いつもの経過観察さ。自分でした実験だ、責任は背負わないとね」
「そうですか。依然変わりありませんよ、俺も、陽牙も。それより、そろそろ会ってあげたらどうですか?陽牙にまともに会わなくなって、もう8年でしょ?」
「陽牙にはさすがに会えないかな。だって会ったら彼絶対最初にいうよ?母さんはおまえのせいで死んだんだって」
「そう思うなら尚更速く会うべきだと思いますよ。俺の事はともかく、陽牙があの状態になって、いつ死ぬのかなんて分かったもんじゃない」
「死なないさ、何かあったらあれが助けてくれる。それにあれが出てこないと僕の計画が始まらないしね」
「本当にするんですかその計画?陽牙に頼りすぎている気がするんですけど」
「するに決まっているだろ。だって、これをしないと、奴を・・・」
言い切る前に俺の部屋の扉が勢いよく開く。扉を開けた張本人は管理人だった。
「玄関前で二人で真剣な顔をして何をはなしているのかしら。ねえ、零士さん?」
限界まで開けた扉に寄りかかり腕を組み話し始める管理人。
「計画をそろそろ始めようって話をしていただけさ」
「そう。なら今がチャンスなんじゃない?スーパーに陽牙は向かったわよ」
「これは好都合。では、彼に電話をしよう」
スーツの胸ポケットから携帯を出し、アプリで電話をかけ、耳に携帯を当てる。
電話のかかった主は直ぐに出たのか、言葉を発し始める。
「あーもしもし、計画を始める。直ぐに彼の元へ向かってくれ」
その言葉を言った途端、伯父は瞬時に電話を切る。
「なんで切ったんだ?まだ答えを聞いてないだろその速さだと」
俺が疑問を伯父さんに問うたとき彼は余裕の笑みを見せ、語り始める。
「答えは聞かなくてもYESさ。だって、僕が作った作戦に拒否権を見せるほど彼らは反抗的ではないからね。だからこそこんな作戦が思いつけるのさ、その名も黒パーカー男作戦」
「具体的には?」
「黒いパーカーを着た男を陽牙に切りかからせることで死の危険を感じさせ、あの力を呼び返すのさ」
「うまくいくと良いけどな」
「健闘を共に祈ろう」
俺たちの話を聞き、管理人は顎を持ち、首を傾けて、目を細める。
「そういえば、乃愛と一緒に行ったわよ。スーパーに」
「え?」
管理人の言葉に、義父はまるで自分の耳を疑うかのように青ざめた。
「ありがとう。高級トマトの特売を教えてくれて」
俺は乃愛にスーパーまでの道を歩でいる途中、感謝をしていた。
「いいよ全然。気にしないで」
乃愛は俺の言葉に小さく手を振る。
平和な日常。こんな日々が続くと俺はこのときそう感じた。俺は悪魔と妖精と人間のハーフだ。だから普通の生活は送れないと思っていた。だが、現実はこんなにも幸せな時間に溢れていた。起きれないときは誠が起こしてくれて、管理人がご飯を作ってくれて、乃愛と一緒にこうして外に出る。
「平和だなー」
「平和だね~」
俺と乃愛は空を見上げてそんな言葉を漏らした。
「じゃあ、君たちの感じる平和を消してあげよう」
俺たちが空を見るのをやめ、声の方に目を向ける。歩いて行くはずの方向には一人の白のパーカーを着ている人が立っていた。かろうじて人型にみえるそいつは、フードを深く被っていて、口元だけしか見えず、声も中性的で男か女かの判別ができない。
「あなた誰ですか?」
困惑しながらも、俺は白パーカーから後ずさる。
「実際にしてあげる方がわかりやすいかな?」
俺の言葉に間もなく返す白パーカー。
「いい加減にして、そんなことできるわけ・・・」
乃愛が言葉を言い終わる前に彼女の声が聞こえなくなった。疑問に思った俺は乃愛の方へと顔を向ける。そこには、鋭利で銀色の触手のような物が乃愛の胸を貫通していた。
その触手は白パーカーの足下の影から伸びていた。俺は驚いた。その触手がここまで伸びている事に全く気づけなかったのだから。
「カハッ・・・」
乃愛が口から血を吐き出す。その光景に白パーカーは嘲笑する。
「ほら、簡単に消せるだろう」
白パーカーは触手のような物を乃愛から離す。俺はこの光景に青ざめた。先ほどまで感じていた平和な感覚は一気に冷め、目の前の光景に絶句する。力なく倒れる乃愛、こちらを見続ける白パーカー、自然と焦りと緊張が走る。次第に息が荒くなる、震えるだけで限界の足。乃愛を連れて逃げようと考えたが、それではただ俺も後ろから触手のような物に刺されるだけだと断念する。
「さあ、僕の依り代になってよ、苧環 陽牙」
白パーカーがこちらに手を差し伸べる。
「依り代?そんな物になるつもりはない、何言ってるんだお前」
俺はすかさず拒絶する。
「おや?この状況で拒絶されてしまうとは、やはり、ただの人間じゃない君は、人間のように脅しても通用しないか、困ったなあ」
白パーカーは顎に手を置き顔を傾ける。
どうする、どうしたらいい。俺はただこの状況を打開できることだけを考え続けていた。
そんなときだった、突如、頭の中に一つの単語が響いてくる。この言葉に何も信用性はなかった、だが、この言葉を言えば逆転できる、不思議と安心感があった。
「変化」
その言葉を漏らした瞬間だった。俺の体は、黒い炎の渦に飲み込まれた。
「ついに出したか、さあ、拝ませてもらおうか、その姿を」
白パーカーは微笑しながらだろうか、言葉を漏らした。
黒い炎の渦がやがて止み、俺は手足に目を向けた、その手足は肘と膝までが黒色に染まっており、指も棘のように鋭くなっていた。体は先ほどまで着ていたTシャツを突き破り、背中から羽が生えていた。全体を見回したときに思ったことが口にでてしまう。
「鳥人間かよ」
俺は困惑交じりに言葉を吐く。だが、その困惑は直ぐに緊迫感に変わる。白パーカーが触手で俺を攻撃してきたのだ。だが触手の攻撃で体は貫かれなかった。それどころか、俺の体に触れた瞬間に腐り始めたのだ、その不敗は次第に炭に変わっていき、やがて、地面に落ちていく。
「触れただけでこれか、恐ろしいね」
白パーカーの攻撃がこの姿の時は効かない、俺は白パーカーの言葉で確信した。
「形勢逆転だ。お前を許さない」
「ハッ!掛かって来なよ!」
白パーカーが影から8本ほどの触手を出し、俺に当ててくる。その攻撃に対して受け身を取らず走り出す。だが、何かに躓き倒れた。
「なんで」
足に目をやるとそこには炭化する道があった。その形は足の形に似ていた。その場所に立ち止まっていたからだろう、じゃあ、触れた物全てが炭化する。そんな能力なのだろう、俺はそのとき悟る。
「そういや、羽があるんだよな、やってみるか」
背中に力を入れる、羽が微弱ながら動き出す。
(飛べない?もっと力を入れないとだめなのか・・・)
「自分の能力を確認させる隙を与えるとでも?」
白パーカーが再び触手で攻撃してくる。
「効くかよ」
俺は立ち上がり、仁王立ちで向かってくる触手に激突する。やはり、触手は触れた途端腐り始め、炭化して地面に落ちる。
「しょうがない、走ろう」
俺は白パーカーの元へと走り出す。炭化する地面など気にせず、ただ目の前にいる敵に一直線に。
「調子に乗ったか」
再び触手を当ててくるが、やはりその攻撃全ては炭化して地面に落ちる。
「お前を殴らないと気が済まないッ!」
白パーカーの目前まで走り、手を伸ばせば届くほどの距離まで追い詰める。俺は勢いをつけるために左腕を後ろに向け、肘を曲げる。そして、親指の第一関節を曲げて、それ以外の指の第二関節までを曲げて、力を込める。怒りの影響なのか熱を感じる。俺は白パーカーの腹に向けて、貯めた力全てを振り絞り左手を衝突させる。
「ガッ」
白パーカーは腹辺りから爆発を起こし、吹き飛び、少し離れた場所で横たわる。一瞬フードの隙間から目が見える。その目には逆三角形の模様が見えた。一方の俺は。
「俺がやったのか?」
先ほどの爆発が自分のやったことなのかと自分の左手を見て恐怖し、膝をつく。
「これがあの力か」
白パーカーは高笑いをしながら、そんな言葉を吐く。
「何なんだよこいつ」
俺は白パーカーを睨みつける。だが、違和感を感じる、奴の体が歪んで見えたのだ。だがその違和感は直ぐに確信に変わった。歪んでいるのではなく炭化し始めているのだ。俺のこの能力の影響で。
「待っているよ、君が僕のもとに来るまで」
白パーカーは訳の分からない言葉を残すと完全に炭化し、風に吹かれて、空へと巻き上がる。俺はその光景を見たあと、乃愛の方へと振返る。乃愛がどうなったかが今の俺の頭にはそのことでいっぱいだった。俺は立ち上がり、乃愛が倒れている方向に走り出す。気づいた時には先ほどまでの鳥人間のような姿は元に戻っていた。
「乃愛!」
胸を貫かれて、目に光を感じない乃愛に対して俺はただ、手を取り、謝ることしかできなかった。
そんな時だった。後ろから首を勢いよく叩かれ、意識が薄れる。
「乃・・・愛・・・」
俺はその言葉を残し、意識を失った。そこからの記憶は何もなかった。
見てくださってありがとうございます。次回に続きます。