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踏切

作者: 犬束だいず



 その日は、いつもより少し疲れていた。

 転勤してからひと月ほど経った頃。ようやく職場の雰囲気にも慣れてきたが、やはり新しい場所で新たな人間関係を構築しながら仕事を覚えるというのは、それなりに負担がかかっていたらしい。

 夕方自転車で帰路につきながら、疲れたなぁとぼんやり考えていた。

 自転車で20分程の通勤路には、踏切がある。

 その日はタイミングが悪く、踏切まであと少しというところでカンカンと警告音が鳴り始めた。

 仕方なく自転車を降りて待った。ごうっと音が近づいてきて、目の前をガタンガタンと電車が通る。

 遮断棒を隔てただけ、ほんの数メートル先で、赤茶けた車輪が大きな音を立てながら、暴力的な勢いでごうごうと通り過ぎていく。 

 それを眺めていると、急に全てがめんどくさく思えてきた。

 仕事も、家族も、生活も、将来の不安も。死んだら全部、どうでもいいことではないか。

 ――――これに巻き込まれたら、絶対に死ねるんだろうなあ……。

 ふと、そんな考えが頭に浮かんだ。

 その時、

「――ああ」

 耳元で、男の低い声がした。

 パッと振り返る。

 誰もいない。背後の国道をただ車が行き交っている。

 車の走行音と電車の通過音でそれなりに騒がしい中、その声はやけにはっきりと聞こえた。

 他の通行人の声かとも思ったが、他には離れた場所で若い男がスマホを見ているだけで、こちらを気にする様子も無い。

 明らかに耳元で聞こえた。感情も抑揚も無い、ひどく無機質な声。

 きょろきょろと周囲を気にしているうちに警告音が止み、遮断棒がすうっと上がった。

 なんだったのかと気味悪さを感じながら踏切に足を踏み入れた時、線路脇に小さなお地蔵さんが見えた。

 何度も通っているはずの踏切だが、気が付かなかった。

 浮かんだ危うい考えを振り払うように頭を振って、私は踏切を渡って家路についた。

 ――後で同僚に聞いた話では、昔、あの踏切で何度か事故が起こったらしい。

 お地蔵さんがいつからあるのかは分からないが、事故が続いたせいではないのか。

 「呼ばれる」というのは、多分あるのだろう。

 

 


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