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最終話

 午後三時、鳴瀬は警察署から出てきた。空は厚い雲に覆われ、雨が降っていた。


 お腹が減っていた。喉も渇いていている。


 鳴瀬は近くのカフェに入った。


「注文は決まりましたか?」


「珈琲……あと、このサンドイッチ」


 鳴瀬は注文した品を受け取ると、窓側の席に座る。行き交う人々を見ていた。


 スマホのロック画面には、新作のゲームが一個、ダウンロードされていた。そして、ニュース。


「廃墟に、禁止されている花を発見。動画投稿にて」


 鳴瀬はもう一度、琴に電話をかける。


「現在、この番号は使われておりません」


 自分達のカップルチャンネルを検索した。


 どこにもなかった。


 SNSも、全て消えていた。


 写真のアプリを開く。鳴瀬と琴が映っている画像は、一枚もなかった。


 数百枚もあった写真が、二十枚しか残っていなかった。


 全て、風景の写真だけになっていた。


 震える手で、温かい珈琲を飲みながら、スマートフォンを操作した。


 右手で、スマホをカメラモードにする。鼻をすする。震える左手で、珈琲カップを持った。


 写真を撮った。コーヒーカップを持つ手。その写真を、自分のSNSに上げた。何度も更新をした。一時間待った。


 写真は、消えなかった。


 店を出る。小雨は続いていた。自分のアパートに帰ろうとした。


 細い裏路地で、後ろから声をかけられた。


「すみません。鳴瀬さんですか」


 振り返ると、赤いジャンパーを着た、ヘルメットを被った若者がいた。


「重吾さんからの、郵便物です」


「あっ……」


 赤いジャンパーの若者が、大きめの黒いバッグから、封筒を出した。


「すみません、暗証番号の確認を、お願いします」


 若者が持っているタブレットに、四桁の暗証番号を入力していく。


「ありがとうございました」


 封筒をもらう。若者は去って行った。その場で、封筒を開けた。中にあった写真を取り出す。


 その写真は、使い捨てカメラで撮った写真だった。


「あっ」


 鳴瀬と琴が、自撮りをした写真。空は一面、白い雲に覆われている。その隙間から太陽と、十本以上の光線が、放たれていた。


「違う、違う、そうじゃないんだ」


 写真を破った。スマホを取り出した。フェイスTIMEにして、センターに問い合わせた。


「違う、聞いてくれ。そういう事じゃないんだ。昔の国旗じゃない。本当だ!」


「すみません。どなたですか? 名前とID番号を教えてください。その後、顔認証を行います」


 鳴瀬は後ろを振り返った。駆けだした。名前と番号を言った。


「認証中です」


「くそ!」


「こういう判断は、すべてAIが判断しているんです。私どもでは、どうにもなりません」


 機械的な声に苛立つ。スマホが落ちた。映し出された画面には、ビルの谷間、水滴が次々と、レンズにまとわりつく。


「違う、違うんだ。国家主席万歳! 国家主席万歳!」


 それを最後に、鳴瀬の声は聞こえなくなった。


以上で終わりです。ありがとうございました。

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