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第六話

「えっ……」


「ほらね、何もないでしょ」


 何もない2LDK。それでも鳴瀬は、隈無く探した。トイレも、風呂も見てみたが、何も残っていなかった。


「そんな」


「何かの間違いじゃないの」


「そんなのあり得ません。だって……」


 鳴瀬はスマホを取り出した。写真のアプリをタッチする。


「こいつ、こいつの顔に見覚え……あれ?」


 画像の枚数が、明らかに減っている。スクロールする。重吾が写っている写真が、一枚もなかった。


「どれよ」


「ちょっと待ってください。重吾の写真が……」


 動画も、全て消されていた。


「本当にいたの? 君の友人」


 管理人の質問に、鳴瀬は答えられなかった。


 自分のアパーに帰ってきた。気がつけば、夕方になっていた。


 鳴瀬はアパートから出ると、そのまま、大学に向かった。再度、重吾の事をお願いしたのだが、証拠となるものがなかった。


 さっきの出来事を振り返る。重吾が消えた。存在していた証拠が、何一つ残っていない。


 カップルチャンネルで上げた、旅行の動画が、消えていた。その中に、重吾も登場していた事を、思い出した。


 メールを確認した。動画サイトから警告は来ていない。


 LINEがきた。相手は琴からだった。

 



 どう、そっちは


 なあ、重吾っていたよな?


 私は、会った事ないから……大学も違うし。二人が出会ったのは、SNSで、同じ大学だから、偶然繋がったんだよね。それで、仲良くなったんだよね


 そう……その重吾が消えた


 えっ?


 消えた。動画のページも、電話番号も、部屋も、一緒に写った写真も。大学にも在籍していない


 どうして…… 


 わからない 


 明日さ、捜索願を出したら?


 そうしてみる


 でさ、明日もJパーク行けない。当分、外に出られそうにない


 どうした?


 なんかさ誰かに見張られてる 


 それ、ヤバくないか?


 今日、寮の管理人さんから、何度も引っ越しの事を聞かれたの。何時から始めたのか、とか。どんな荷物があったか、とか。外に出かける時も、いちいち聞いてくるんだよね



 

 鳴瀬はLINEをやめた。すぐに電話をかけた。


「もしもし。大丈夫か?」


 鼻をすする音がした。


「ちょっと辛いかな」


 涙声だった。


「今から会おう」


「ダメだよ。女子寮だから、もうすぐ門限だもん。今出たら怒られちゃう」


「でも……」


「大丈夫。少し我慢したら、また元に戻るよ」


「そうか……気を付けてな」 


「明日の九時までに、新しい動画アップするから、ちゃんと見てね」


「いつ撮ったの?」


「これから撮る。おばあちゃんからもらった、古い本の紹介。それでいくね」


「わかった。おやすみ」


「おやすみ」


 電話を切ったものの、鳴瀬は心配でスマホから手が離せなかった。


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