クロノスタシス
深夜2時。寂しくなった僕はコンビニまで足を運ぶ。街灯だけが僕の存在を承認してくれて、その存在をほっといてくれる。時々歩くこの深夜の道が僕は大好きだ。
深夜2時。僕は自動ドアの前にいた。時間を忘れてしまうくらいに明るい店内には部屋着姿の彼女がいた。膝を曲げてお酒のコーナーをうろちょろしている。
なぜ僕はここで立ち止まっているのだろう。ドアは開いたり閉じたりを繰り返している。そろそろ店の迷惑になる頃だろう。僕は路地裏に入っていく野良猫のような足取りで蛾が集る店内に入っていった。
深夜2時。なんと声をかければ良いのか分からず、咄嗟に「いい酒見つかった?」とまるで待ち合わせしていたかのような文言を彼女にかけた。
びっくりした彼女は足をよろけさせ僕の肩に手を置いた。何年ぶりだろうか。この手の感触。服の上からでもわかる。忘れたくなるほど繋いだ手。何度も笑った、睨んだ、口を合わせたその顔。もう見れないかと思っていた。
深夜2時。なぜか2人は帰路とは真逆の深夜道を歩いている。ここは2人だけの公園だ。誰も来ない。誰も来させない。公園を取り囲む柵やら垣根には僕たちだけのバリアを何重にも貼った。
缶チューハイを開ける音がする。と同時にさっきまでの威勢のいいバリアは溶けてなくなった。野良猫が数匹、浮浪者が1人。この空間の一員となった。
深夜2時。何事もなかったかのように僕は帰路を歩く。さっきまで持っていた冷たい缶はとっくの昔に、夏の水道水みたいな温度になっていた。街灯は僕を家まで運ぶ道標みたいだ。ホントはまだ帰りたくない。まだ夜は明けない。東から見える赤い光は幻に違いない。
目の前を通ったバイクの音は…。
深夜2時。聞き慣れたドアの音と共に僕は靴を脱いだ。取り忘れた洗濯物や炭酸の抜けた酒達が僕を出迎えてくれた。時計を見る。
短針は6を指していた。
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