9話 ライジングショット
9話です!
……特に言うことない。
「『ライジングショット』!!」
日高先輩が右足を振る。『インステップ』――――これはサッカー用語、俗に言う『足の甲』がボールを捉えた。
その瞬間、一瞬のまばゆい光がボールから放たれる! 日高先輩は右足を振り抜く! 光をまといながら一直線にゴールへ飛んでいくその姿は、まるで白い流星だ。
だけど、ボールは直進! 真正面! 延長線上には奈々さんの姿。これなら……!
「く……っ!!」
予想通り、奈々さんはボールをキャッチした。
「よし、これなら……」
「まだだよ」
僕が安堵しかけたその時、着地した日高先輩が笑みを浮かべた。「まだだよ」って、どういうことだ……?
「うっ……止められない……!!」
その声を聞いて自陣のゴールを見ると、勢いを殺されていないボールの姿があった。奈々さんの腕の中で、激しく暴れている。
「きゃっ!!」
ついにボールは奈々さんを弾き飛ばし、ゴールへ吸い込まれていった。
「マジかよ……」
「よし、まず一点」
日高先輩は左の口角を上げ、後ろを向いてもとの位置に戻った。
さっきのは何だったんだ? 僕の目では確かに、ボールがゴールキーパーを弾き飛ばしたのを見た。でもそんなことが……
いや、ありえるのか。ここは魔法サッカーの世界。シュート魔法を放てば、大体のゴールキーパーは素手では止めることはできない。
とにかく、たった今弾き飛ばされた奈々さんは無事なのか……?
急いでゴールの方へ駆け寄ると、奈々さんはすでに立ち上がってボールを拾っていた。なんだか気まずそうにこちらを見てくる。
「ごめんなさい、私のせいで……」
「大丈夫だよ。この点数は僕達が取り返すから。次頑張ろ、次」
「はい……」
奈々さんは頷いたが、依然として顔は暗かった。それを見た僕は、体の奥にひっそりと沸き上がる不安を噛み殺しながら、ボールを受け取ってセンターサークルに向かった。
「今度こそは!」
センターポイントにボールを置いた僕は、すぐにキックオフで試合を再開し、再び攻め始めた。
僕はドリブルを始めようとするが、すぐに日高先輩のディフェンスが入る。だが、今度は雷が後ろからカバーしに来てくれていた。よし、これならいける!
「『フラッシュアウト』!!」
再びディフェンス魔法を使われ、まばゆい光とともにボールを奪われてしまった。
しかし。
「『ボルテージタックル』!」
「うおっ!?」
ボールを奪った日高先輩の隙を狙って、後方から雷がディフェンス魔法でボールを奪い返す。日高先輩が怯んでいる隙に、雷は前にいる僕にパスを出した。
「そのままゴール前まで攻めろっ!!」
「分かった!」
僕は前を向いてゴールへ向かって駆け出す。
「くそっ……だがディフェンスは僕だけじゃないぞ!」
「へへっ、分かってるじゃないか、昇」
この試合の中では初めて聞いた声。そしてどこからか現れた砂塵が、僕の目の前を覆った。
周りが見えない。くそっ、このままではどこがゴールなのか分からなくなる。なんとかして抜け出さねば!
その時。
「こっちからは丸見えなんだぜ!」
「っ!!」
突然砂塵の中から人が現れ、僕のボールを奪い去ってしまった。
「これぞ、『サンドハイディング』! この2年の砂川修司の得意なディフェンス魔法なんだぜ」
日高チームのもう一人のフィールドプレーヤー、砂川先輩。若干天然リーゼントのかかった髪に似合わない低めの身長が、かえってこちらからの認識を鈍らせていた。
「昇!」
砂川先輩が高くボールをあげる。まずい、また昇先輩の"あの魔法"が……!
昇先輩が高く飛び上がり、逆さまの状態で高くあがったボールに右足をあわせる。
「『ライジングショット』っ!!」
光をまとったボールが、ゴールめがけて一直線!
「うわぁっ!」
奈々さんを弾き飛ばして、再びゴールへ入ってしまった。
「……二点目」
「くっ……」
この人達、強すぎる。点どころか、こちらは全くシュートを打ってすらいない。完全に実力の差が出てしまっている。
* * *
センターサークルにボールを置く。もうこれで3度目だ。このディフェンスを突破するには、前にいる日高先輩だけでなく、後ろの砂川先輩も抜かなければならない。
僕はドリブルを始めるが、案の定ここで日高先輩がディフェンスに入る。ここでボールを奪われてしまったら、『ライジングショット』を打たれてしまう。
雷に渡すのもいいが、雷がいる位置も日高先輩の『フラッシュアウト』の範囲内。かといって離れるとパスができない。ここはどうすれば……?
「『フラッシュアウト』!!」
……!! この人達、ディフェンスをする時に必ず魔法を使っている……?
いや、絶対そっちの方がいいからだと思うんだけど、少し魔法に頼っている気がする。ならここは……!
日高先輩の身体から、まばゆい光が放たれた。
「えっ!?」
隙をついてボールを奪おうとした日高先輩が思わず声を上げた。驚いているのも無理はない。
僕は、まばゆい光に包まれながらも、目を閉じていなかった。それも魔法を使ってとかじゃなく、無理矢理!
「うおおおおっ!!」
僕は日高先輩を強引に抜き去る。
「ご、強引とかお前……ハハ……」
抜かれた日高先輩が僕を見て苦笑いしていた。
まずは一人突破! 目がチカチカするけど、今の興奮に比べちゃあどうってことはない。次は砂川先輩。さすがにこれはどうしようもないから、後ろから来た雷にパスをする。
「『サンドハイディング』だぜ!!」
雷がボールをトラップしたのと同時に、一度僕を襲った砂塵が雷を取り囲んだ。こちらからでも雷の姿が目視できなくなる。そこに砂川先輩が入っていった。ヤバい!
僕は追おうとしたが、ここで目が眩んで倒れるように膝をついた。さっきの強引突破の反動だ。くそっ、何でこんなときに……!
だが。
「うおりゃぁぁぁぁっ!」
砂塵から、一筋の電撃が飛び出してきた。あれは……雷! お前も隙をついて強引に突破したのか……!
僕は霞んだ目で精一杯彼を見て叫んだ。
「雷! そのままシュートだぁっ!!」
新町中サッカー部入部試験
水原チーム 0-2 日高チーム