8話 入部試験
8話です。
ようやくこの小説の醍醐味とも言える『魔法×サッカー』の本格的な試合場面が見れます。
なんだこの人。てっきり『サッカー部の場所を教えてくれるモブキャラ』だとしか思っていなかったのに、まさかサッカー部のキャプテンだなんて……
でも、さすがキャプテンって感じだ。ボールを持っているときの貫禄がすごい。冷めた目をしているのではない。目付きが鋭いって言うんだこれ。
「……と、その前に」
「えっ?」
日高先輩は、遠くを見て手を振った。
「おーい、そこの君も入部希望かーい!?」
振り返ると、そこには建物の陰からこちらを見ている女子───細村奈々さんがいた。ショートカルムの前髪、後ろはポニーテールでひとまとめにしている。奈々さんは、僕達が自分を見ているのに気付くと、「私?」と言っているかのように自分で自分を指差した。
「そうそう! 入部希望ならこっち来てー!!」
日高先輩に呼ばれ、奈々さんがこちらにやって来た。
「わ、私も、入部希望なんですけど……」
奈々さんは、少し恥ずかしそうに呟いた。昼休みに僕達の話をこっそり盗み聞きしていたのは、このせいだったのか。
「そうか、じゃあ君達三人でチームね」
「???」
僕を含め三人は首を傾げた。
「あ、今からやろうとしていることの話。僕達は僕達で三人のチームを作るから、3対3のミニゲームをしようかと思っているんだ」
ミニゲーム……たしかちょっとした練習試合、って意味か。2、3年生相手はさすがにキツそうだけど、これから『魔法サッカー』ができると思うと、俄然ワクワクしてきた。
「それじゃ、少ししてからグラウンドに集合ね」
「は、はい!」
そう言って、日高先輩はグラウンドに向かっていった。
「……なあ悠人」
「ん?」
雷が僕の肩に手を乗せて話してきた。少し焦った顔をしていて、頬を汗が伝っている。
「これって、まさか『勝てなかったら入部できない』ってヤツじゃないよな?」
……えっ? そんなこと、一ミリも考えてなかった。だけど、ありえる。これは一種の入部試験なのかも。だとすると、負けたら入部できないかもしれない……?
「ま、まさか、そんなことあるわけ……」
僕は焦りを隠そうと雷の顔を再び見た。
「……ごめん、ありえる」
「な、ありえるだろ?」
雷は眉間にシワを寄せて僕を睨み付けたあと、奈々さんの方を見た。
「……そういえば君、奈々さんだっけ?」
「は、はい! そうでひゅ!」
奈々さんは雷と比べて、かいている汗の量が尋常じゃなかった。しかも緊張で声が裏返っている。
「わ、私、ご、ごごごゴールキーパーになりたくて、そ、その……よろしくおねがいします!」
奈々さんは噛み噛みでしゃべり、最後にいそいそとお辞儀をした。
「僕は悠人。こちらこそよろしく」
「雷です。よろしく。じゃあ、グラウンド行こうか」
「ひゃいっ!!」
お互いに自己紹介を終え、三人はグラウンドへ向かった。
* * *
グラウンドには、日高先輩を含め三人のサッカー部員が待ち構えていた。
「やあ、準備はできた?」
「……はい」
僕の返事を受けとると、日高先輩はボールを僕に渡した。
「それじゃ、ルール説明ね。この試合は、三対三のミニゲーム形式。人が少ないから、場所はここ、グラウンドのハンドボールコートを借りて行う。制限時間は10分で、君達はとにかく負けなければいい」
賛同するかのように、日高先輩の横に並んでいる二人がうんうんと相槌を打った。
「でも、こっちだって手加減はしないからね。全力で行かせてもらうよ!」
日高先輩は笑顔で僕達を見てきた。その目はまるで、正々堂々と戦おう、と語りかけているようだった。
「では、君達のキックオフからスタートで。いつでもどうぞ」
そう言って、日高先輩達はそれぞれの持ち場についた。帽子を被っている人が、ゴールキーパー。日高先輩ともう一人はフィールドプレーヤーだ。対して僕達のチームは、僕と雷がフィールドプレーヤーで、奈々さんがゴールキーパー。
「それじゃ、キックオフします!」
僕はそう言って、雷にボールを渡した。その後すぐに僕は相手エリアへ攻め込む。
「雷、パス!」
相手のいないところに移動して、パスを要求する。
「オッケー!」
雷がパスを出した。僕はそれを柔らかくトラップし、ドリブルを始める、と言いたいところだが。
「そう簡単に攻めさせるわけにはいかない!」
目の前に、日高先輩が現れた。雷はまだここまで来ていない。ここは、フェイントで直接抜き去るしかない!
「メイア・ル……」
「『フラッシュアウト』!!」
一瞬のことだった。日高先輩が何かを唱えた途端に、急に視界が真っ白になった。
視界が晴れたときには、もう日高先輩がボールを奪っていた。
「なっ!?」
「一点、取らせてもらうよ」
そう言って、日高先輩はボールを高く蹴りあげた。これは……ハーフラインより遠い! ロングシュート……!?
次の瞬間、日高先輩は高く跳んでいた。バック宙の上位互換のように空中で回転したあと、逆さまの状態でシュート体勢に入る。
これは……オーバーヘッドキック!? いや、違う! シュート魔法だ!!
「昇りゆく太陽の光のように、ただ一直線に……!!
必殺! 『ライジングショット』!!」
新町中サッカー部入部試験
水原チーム 0-0 日高チーム