6話 新しい世界へ
6話です!
入学式編の後半です。
クラス替えってけっこう中学校生活の運命を左右しますよね。友達少なかった僕はちょっと怖かったです。
僕達は今更残り5分も残されていないことに気付き、急ピッチで自分達のクラスを探していた。
1年2組 36名
1 赤川 牧人
2 伊沢 柚菜
3 江村 哲太
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1組に僕の名前は無かった。ホノカさんは最後の8組から探している。時間もないし、その方が効率的だからな。えーと、「みな」、「みな」……
31 三上 大翔
32 宮島 奈己
ちぇっ、2組にも無かった。それじゃ次は3組を……
「あっ、悠人くんの名前、あったよ!」
「えっ!?」
いきなりホノカさんが大声を出した。ホノカさんが指を差していたのは「1年6組」の生徒一覧。そこには、
30 水原 悠人
と書かれていた。確かに僕の名前だ。でも、ホノカさんは?
「僕のを見つけてくれたのは嬉しいですが、ホノカさんは自分のを見つけなくては…」
「いいよ、私も同じ組だし」
「ほえっ!?」
ホノカさんがそう言ったので驚きつつ再確認してみると、僕の名前の6個下、つまり一番最後に、
36 結城 ホノカ
と書かれていた。
「えっ、同じ……クラス……?」
「そうだね、これからもよろしくね! 悠人くん!」
ホノカさんは僕の方を向いて、ニッコリ微笑んだ。
「うおっしゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
「うわっ、どしたの?」
「ゲ、ゲホッ! ゴホッ!! ……いや、何でもないです」
まさか美少女のホノカさんとクラスがいっしょだなんて。この1年間、楽しくなりそうだな。
「あ、あとさ」
「はい?」
ホノカさんに僕が応えてからほんの一瞬の間が空き、少しだけ考えているような素振りを見せたあと、彼女はこう言った。
「その……敬語、やめてもらえるかな?」
「えっ」
僕の反応を見て、彼女はいきなり慌て出した。両手を前に突き出してブンブンと揺らしている。その顔は焦りなのか、とても赤くなっていた。
「い、いや! 別に敬語が嫌いな訳じゃなくて、あの、同じクラスになったんだから、折角だからその……」
「その?」
彼女は手を振るのをやめて、僕から顔をそらした。かと思えば、またすぐにこちらを向く。だけど動かしたのは目線だけだった。
「その、お友達になりたいな、って」
「是非!」
即答。是が非でも僕はこのチャンスを逃さなかっただろう。だがあまりの速さに彼女は若干引いていた。
「それじゃあ、よろしくね、悠人くん」
「うん!」
彼女の天使のような微笑みに一瞬召されかけたけど、チャイムの音で目が覚めた。ホノカさんが腕時計を確認する。
「……え、嘘!? もう8時10分だよ!!」
「うわっ、急がなきゃ!!」
* * *
途中でトイレに行っていたので少し遅刻になってしまった。集合場所の1年6組の扉を開けると、ほぼ同時に聞き慣れた声が飛び込んできた。
「よっ、遅かったな悠人!」
「雷! お前もここだったのか!」
「なんだ、見てないのか? 俺、1番だったんだぞ。網走だからな」
「ごめん、見てなかった」
ホノカさんが僕の名前を見つけてくれたからと言いたいところだが、雷は相手を知らない上になんだか冷やかされそうだったから、結局言わなかった。
「お前の席は確か……奥の方の一番後ろだったな」
雷は後ろの方を指差した。1つだけ空席が見えたので、そこが僕の席だろう。
「あ、悠人くん! 隣だね!」
席につくなり、ホノカさんが手を振ってくれた。
「隣!?」
思わず声を出してしまう。
「この席って6×6の36席でできているから、あっちから数えると30と36は隣の席になるんだよ」
ホノカさんは出席番号が一番最後だから、教卓から見て一番右の列の一番後ろ。雷のちょうど反対側にいる。そして僕の席が、ホノカさんの隣。右から2番目の列の一番後ろ。
……ちょっと待て、ここまで運良すぎないか!?
最高だ、うん。小学生の頃は中二病の性格のせいで友達すら少なくて、ましてや周りに女子などいなかった。けど、中学は違う。その証拠に、入学早々女子の友達ができた。
まあ僕が女子慣れしていないだけで、別にホノカさんに惚れている訳では無い。
いや待て、前言撤回だ。キッパリと言おう。僕はホノカさんに惚れている。一目惚れしている。
そうか。これが夢にまで見た"恋"――――
「おい!」
雷に平手打ちを喰らって、そこで我に帰った。
「いった! 何すんだよお前!」
「いや、お前こそ何してんだ。さっきからボーッとしてたけど、そろそろ体育館に集まらなきゃならないんだぞ!」
「えっ!?」
周りを見渡してみると、僕と雷以外誰もいない。ホノカさんもいつの間にかいなくなっていた。
「もう……最近の悠人おかしいぞ!」
「ご、ごめん」
とにかく、今は入学式だ。まずは体育館に行かねば。
* * *
入学式を終え、僕と雷は教室に戻ろうとしていた。
ったく、両親ときたら、僕が来たときに「悠人~!!」って大声出しやがって。
「お前の両親、すごかったな」
「あは、あはは……」
ほら、こんな感じで恥をかくのはこっちなんだ。ああいう晴れ舞台で必ずと言っていいほど親バカになるのは、元の世界と変わってない。僕が右利きだったとか、理科が好きだったとかはどうでもいいから、こういう厄介なところが変わって欲しかった。
「そうだ悠人、今週の金曜日に部活紹介があるだろ?」
「うん」
「その後、見に行こうぜ、サッカー部」
まるで何かを思い出したかのように、頭の中でその言葉が木霊した。
そうだよ。色々ありすぎて忘れていたけど、僕が中学で一番やりたいことは「サッカー」なんだ。そこで「魔法」と融合した「サッカー」をする、ただそれを望んで、中学校に来たんだ!
「見に行くに決まってるじゃん!」
期待に満ちあふれた声色で、僕は言葉を返した。