5話 入学! 新町中学校
5話です!
悠人、ついに中学生になります……!
この世界の「僕」に転生してから1週間が経った。
春休みはあっという間だった。思ったよりこの世界も居心地がよく、世界線も『魔法があるか否か』以外はあまり変わっていなかったので、すぐに慣れてしまったのだろう。
そして明日、僕は市立新町中学校に入学する。そしてすぐにサッカー部に入部して、『魔法』に満ちあふれたサッカーをする! 想像しただけでワクワクしてきた。よし、今日はもう寝て、明日早起きしよう。
ベッドに寝転がって、目覚まし時計のアラームを6時に設定し、高ぶる気持ちを抑えながら僕は眠りについた。
* * *
カーテンの隙間からこぼれる朝日の光が、僕の目を優しく照らしてくれる。ゆっくりとまぶたを開いて、時計を確認した。
「!?」
まだ細々としていた目が一瞬にして丸くなった。時計には「7:45」と表示されていた。
「アラームがOFFになっていただと……」
急いで身支度を終えた僕は、ダイニングへ向かった。
「あら、遅かったわね。もうご飯出来てるわよ」
テーブルにはチーズトーストとサラダ、ホットミルクが置かれていた。僕はチーズトーストだけ取って口にくわえた。少し冷めてしまっているが、そんなことを気にしている暇ではない。
「ほへひゃ、ひっへひはっふ!!」
「いってらっしゃい。後で私達も入学式見に行くわね」
お母さんの言葉は途中から聞こえていなかった。
* * *
制服って、意外と涼しいんだな。4月に学ランと長ズボンだから、てっきり暑苦しいのかと思っていたけど。こんなに走っててもあまり蒸れない。制服すごいな。
僕の家からの通学路は、新町市営公園沿いの歩道を通る。ふと立ち止まって公園を見ると、植えられている桜が花を咲かせていた。
「……そうか、僕、中学生になったんだな」
桜とは、別れ、出会い、そして新しい世界への第一歩を象徴している。忘れかけていた当たり前の事実を、桜並木とともに再確認した。
「おっと、急がなきゃ」
僕は再び走り出した。
口にくわえていたチーズトーストはとっくに食べきっていた。もうすぐ僕が入学する「新町中学校」に着く。あとはここの角を左に曲がって……
ドシンッ!!
「うわっ!」
「キャッ!」
僕はぶつかった反動で尻餅をついた。目の前には、新町中学校の制服を着た女子の姿があった。その女子も、僕と同じく尻餅をついていた。
「ご、ごめんなさい!」
急いで立ち上がって、その女子へ謝った。するとその女子はゆっくり立ち上がって聞いてきた。
「……あの、君、もしかして新町中学校の新入生?」
「は、はい」
「良かった! 私も新入生なんだけど、迷子になっちゃって」
その女子は、僕に道を聞いてきた。いや待てよ、よく見るとこの人……
毛穴の一つもない、モデルのようなキレイな顔。色気を感じさせるまつげの長い垂れ目。姫カットの茶髪セミロングヘアーが、どこかのお嬢様感をさりげなく醸し出している。そして胸。胸がデカイ。これDあるよ、D。絶対ある。
この人、かなり美人なのでは……?
「あ、あっちの角を曲がったらすぐですよ」
「えっ、それじゃ私、逆走してた? ありがとう! 道を教えてくれて」
「せっかくですし、一緒に、い……行きませんか?」
そう言って、僕は思わず目をそらしてしまう。鼻の下が長いのが自分でもわかってしまった。
「うん、いいよ。ほら、早くしないと遅刻しちゃうよ?」
その美少女は、僕の手を握って走り出した。
「えっ」
初日から漫画みたいな展開……もしこの世界に来ていなかったら、こんなことも無かったかもしれない。
神様、本当にありがとうございます!!
* * *
「着いた……」
校門前でゼェゼェと急いで酸素を取り込む。彼女も息を切らしていて、目が合うとそれがとてもおかしく見えてお互いに笑いあった。
「今は8時5分。集合時間は8時10分だから、ギリギリ間に合ったね……」
その少女は、左腕に着けた高級そうな腕時計を見て言った。そうだ、この人と同級生になるんだから、ここで名前とか知っておいた方が。
「あ、あの、僕、水原悠人っていいます。同じクラスになったらよろしくお願いします!」
「悠人くん……いいね、かっこいい名前! 私は結城ホノカ。こちらこそよろしくね!」
『結城ホノカ』。よし、名前覚えたぞ!
「それじゃ、クラスを確認して、集合場所に行こ」
「は、はい!」
新学期早々の神展開!! これは中学校生活勝ち組になるかもしれない……!!
そう胸に期待をふくらませた僕は、新町中の校門を堂々とくぐってみせた。そう、美少女と一緒に。