3話 並行世界の家族
3話です!
家に着いた悠人。彼にとって、そこは弩級のダンジョンと化していた……。
考え事をしている間に、我が家に着いてしまった。ここは相変わらず、「築50年の一軒家」という貫禄をなんとなくだけど感じさせる。もしここが別の世界ならば、両親や妹も人が変わっているかもしれない。
ダンジョン。そう考えてみると案外しっくりくるのが不思議に思える。だけど、そんな心配している場合ではない。ここは正真正銘僕の家だ。別の世界だろうと関係ない。僕は意を決してドアを開けた。
「……ただいま」
「おかえり。今日もサッカーしてたの?」
「え、あ、はい」
いつも常体を使っているはずが、心なしか実の親に敬体を使ってしまった。
「たまには勉強もしなさいよ。もうすぐ中学生なんだから」
「は、はい、分かりました……」
僕は玄関へ入って、靴を脱いでしっかり揃えた。お母さんの反応は普段と変わっていなかったし、別段おかしい所がある訳でもなかった。とりあえずステージ1を突破したようなほっとした気分になる。
ステージ2。どうやら、お父さんは書斎にいるみたいだ。僕は書斎へ赴いて、おそるおそるお父さんに話しかけてみた。
「お、お父……さん?」
「おう、なんだ悠人」
「え、あ、あの……元気?」
しまった、話題を考えるのを忘れていた。これではますますよそよそしくなるじゃないか。
「元気だけど……一体どうしたんだ? 急にそんなこと聞いて」
「え、いや、えっと……」
「ほら、晩ご飯できたわよ。冷めないうちに食べちゃいなさい」
「あ、はいっ!!」
あっぶな!! お母さんの何気ない一言に救われた。あれだ、前のステージで倒した敵が仲間になってサポートアイテムとか使ってくれるやつだ。
心臓のバクバクが収まっていくと、急にお腹がすいた。とりあえず、お腹を満たしてから考えることにしよう。
* * *
「いただきます」
箸に手をつけようとして、異変に気付いた。置かれている箸の向きがいつもと逆だ。家族のなかで僕だけ手も足も左利きだから、普段は箸の向きも一人だけ逆なんだけど、今回はみんな同じ向きだった。おそらく、僕の意識が転移する前の「元からこっちの世界にいる僕」は、右利きだったのだろう。
だけど、これでここが「別の世界」である可能性が高くなった。これは大きな進展……あっ、この鮭のムニエル、相変わらず塩辛くて美味い。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
「え? どうしたの? 馨ちゃん」
妹の馨は、僕の2つ下(もうすぐ小5)の茶髪女子だ。童顔とストレートヘアーの組み合わせがいかにも少女ぽくて、高校生になってもロリコンに狙われるかもしれないと危機感をおぼえるほどかわいい。そんな妹がいきなり話しかけてきた。
「……今日のお兄ちゃん、なんかおかしい」
「えっ?」
「……なんか、中身別人にすり変わったような感じがする」
「えっ!?」
まさかの休憩所にラスボスが潜んでいやがった。
「そういえばそうね」
「なんかよそよそしかったな。いきなり元気ですかって聞いてきたし」
ラスボスの妹を筆頭に強敵が加勢してくる。これはかなりヤバいパターンだ。
「え? そ、そうかな…」
「なにか秘密でも隠しているんじゃないの? もしそうだったらさっさと言いなさい」
まずい、バレそう。……いや、もしバレたとして、何があるって言うんだ? ゲームオーバーなんて怖くない。ここは素直に言おう!
「実は僕、別の世界から来たんだ」
「「「…………」」」
三人とも無言でこちらを見てくる。妙なプレッシャーに押し潰されそうになりながらも、僕は話を続けた。
「その、身体は元々の世界の僕のものかもしれないんだけど、僕は元々いた世界で今日交通事故に遭って、気が付いたらこっちの世界に意識? だけ飛ばされてたみたいで…」
「ふーん、そう。それなら改めてよろしく」
「そうだな、よろしくな、あっちの世界の悠人」
「あっちの世界のお兄ちゃんは左利きなんだね」
……あれ? すんなり信じてくれた。そっか、「こっちの世界」では魔法が存在するから、異世界転生とか非現実的な話をしても気が狂っていると思われることはないのか。
とにかく、ゲームオーバーになることは無かったみたいだ。いやほんと、信じてくれてよかったよ。
「ところでお前は、どういう世界から来たんだ?」
「えーと、魔法が存在しない世界かな。だからここに来たときにビックリした」
「魔法……か。まあお前が思っている魔法とはちょっと違うけどな」
「え?」
僕は首を傾げた。そして次に放たれたお父さんの発言は、とても意外なものだった。
「この世界に存在する魔法は、なぜか『サッカーでのみ使用可能』なんだよ」
「サッカーでしか……使えない?」