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1話 運命はサッカーボールと共に

リニューアル作です。

より新しくなった悠人達の物語をどうぞ!!

「トラックにはねられた」。


 今の僕の状況をたった10字で簡単にまとめられてしまうのがもったいなく思える。




 空が青い。こういう瞬間って、本当に時間が遅く感じる。そのゆっくりとした一瞬の間に、人生の走馬灯が頭の中を駆け巡っていく。


 まず僕が見たのは、7歳ほどの少年が魔法の杖みたいなものを振り回している、という映像だった。


 確か小学1年生の頃、初めて見たファンタジーアニメで僕は『魔法(まほう)』に興味を持ったんだっけな。魔法を使えば、悪の存在を倒すことができる。正義を貫くことが出来る。はっきりと想像はできないが、充実した人生を送ることができる。


 「悪」とか「正義」とか「充実」とか、そんな言葉は覚えたてだったのでなんとなくしか掴めていなかったが、僕は確かに夢見た。お手製の段ボールのマジカルロッドを振り回して花瓶を割ったんだっけ。


 だけど年を重ねるにつれ、夢ではなく現実を見るようになった。魔法なんてこの世に存在しない。いくらロッドを振っても何も起こらない。魔法は漫画やアニメだけの世界なんだと思っていた。


 映像が切り替わった。今度は少し成長した少年が、サッカーボールを一生懸命追いかけている。


 そう、「魔法なんて存在しない」という考えを覆したのが、『サッカー』だった。


 小学4年生の頃、友達に誘われてサッカー部に入った。そこで僕が見たのは、パス、トラップ、フェイント、ディフェンス、そしてシュートなどの様々な『魔法』。自分達の勝利を目指すため、たった40分の間に繰り広げられる熾烈な魔法合戦。もちろんただの見立てなのは分かっている。だけど、現実逃避に似たような感覚が、僕の妄想を加速させたのだ。


 そういや僕がサッカーを好きになったのって、この頃からだったっけな。




 映像が途切れる。頭の中が真っ暗になった。もしかして、ここで終わり? なんとも短すぎる走馬灯だ。




 空に投げ出された僕の目に、サッカーボールが飛び込んでくる。薄れていく意識の中で、僕はそのボールをギュッと抱きしめた。そして、静かに目を閉じる。




 ありがとう。


 僕の夢を、叶えてくれて。






   *  *  *






 サッカーは、魔法に似たものを持っていると思う。


 きっと僕にしか分からない感覚。僕が魔法に憧れを持っているだけなのかもしれないけど、おそらく、サッカーをしているときに感じるこの痺れるような感覚は「本物」なんだ。




 新町(あらまち)市営公園のサッカーグラウンドを走り回る、来月に中学入学を控えた8人の子供達。その中に、僕、水原(みなはら)悠人(ゆうと)もいた。


 味方がサッカーボールを持っている。僕の使命は、このボールを敵のゴールに入れることだ。

 まずはこの『魔法』を使うことにしよう。


「『パス』!!」


 これは自分が相手に監視されていないときに唱えることで、仲間からボールがまわってくる魔法。たった2文字でこの効果とは、なんとも便利な魔法だろうか?


「悠人!」


 ほら、友達がパスを出してくれた。


 そして、今度は『トラップ』という魔法を発動する。この魔法は、身体の一部で飛んでくるサッカーボールを柔らかく受け止めることができる。


 僕はすぐに相手のゴールへ向かって走り出す。


「させるかっ!」


 相手チームの山極(やまぎわ)(れい)がボールを奪いにきた。サッカーの試合ってのは、いわゆるシンボルエンカウント方式のRPGみたいなものだ。さて、どんな魔法を使おうか……?


「もらった!」


 おっと、仲間を呼ばれたようだ。そいつは右から『スライディングタックル』を発動してきた。この状況を打破する魔法は、これしかない!


「『メイア・ルア』!」


 僕は前にいる敵の左に抜けるようにボールを蹴った。そして僕は、二人の間を縫って右に抜け、先ほど出したボールをトラップした。これぞ、上手くいけば二人をごぼう抜きできる僕の得意なフェイント魔法、『裏街道(メイア・ルア)』だ。


「へへっ、どうだ僕のフェイント魔法は!」


「お前、また魔法とか言ってるのかよ……」


 去り際に零にそんなことを言われた。僕がやってきた事は、周りから見れば明らかな中二病の妄想癖。だが気にすることではない。


 ここを抜けるともうゴールは目の前だ。ここで、この試合の勝敗を左右する最強の攻撃魔法を発動する! それはもちろん『シュート』だ!


「おりゃぁぁぁっ!!」


 狙うのは右上!


 左足で放った強烈なシュートが、ゴールめがけて飛んでいく!!




 *  *  *




「ちぇっ、なんで僕が……」


 いや、この役目に見合うのが僕しかいないのは分かる。なんせ僕が外したんだから。だけど、どこに飛んだか分からないボールを一人で探しにいかせるなんて、敵も味方もまったく鬼畜といったもんだ。


『お前、また魔法とか言ってるのかよ……』


 冷静になって、さっきの去り際の一言が思い起こされる。なんだよあいつ、サッカーは魔法なんだぞ? この感覚を共有できるのは僕しかいない、ってか? そう思うと腹が立ってくる。


 いかんいかん、今はボールを探さねば。えーと、どこだ……?


「あ、あんなところにあった」


 茂みの向こうで、公園の外の歩道に転がっているボールがちらっと見えた。僕は公園を出て取りに向かう。


 そこに強風が吹いて、ボールは車道に転がっていく。


「あ、ちょっと……」


 僕は車道に出て、転がっていくボールを掴んだ。よし、と思ったその時。


 ひどく重厚なクラクションの音が耳をつんざいた。


「!?」


 音があった方を向くと、目の前に鉄の塊――――大型トラックが迫っていた。

1話を読んでくれてありがとうございました!

トラックにはねられた悠人はどうなってしまうのでしょうか……?

次回もお楽しみに!!

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