カウントダウンスタート
実体験に基づく虚実ない交ぜ小説。第2段。
半分は過去を乗り越えるために書いてますので、偏った見方をしているかもです。温かい目で見守ってください
「あ、ねえ。私しばらく裕也の家行くの控えるから」
「えっ、なんで」
付き合って3年半。長月詩音は賭けに出ることにした。
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「「「「結婚おめでとー!」」」」
「ありがとー‼︎」
定例の女子会で、初めての既婚者が出たのは詩音が28歳の時だった。なかなか会えないからLINEで報告しまーす、という幸せな連絡が来て、慌てて仕事の調整をして集まったのだ。
「私、1番に結婚するのは詩音だと思ってた」
大学の同期生、7人組。恋の話より仕事先のあれこれに話が咲くことが多かった詩音達だ。結婚する友達の話を一通り聞き出したあと、長く付き合う彼氏がいる詩音に話が向くだろう事はなんとなく想像できた。
「付き合ってどのくらいだっけ?」
「えっと、3年半くらい?」
「詩音は結婚しないの〜⁇」
うりうり、と肘で突いてくる友人を押し返しながら詩音は舌を出した。
「できるならしてるの!」
「でも、詩音の彼氏ってたしか7つくらい年上じゃなかった⁇」
「そうだよ」
「うちらの7つ上って、35でしょ⁇相手だって適齢期じゃん。もう3年も付き合ってるんだし」
方々から詰め寄られて、詩音はむっつりと黙り込んだ。友人たちの目にははっきりと「話題のネタを提供しろ」と書いてある。
―――何で私が蜜味の不幸提供しなきゃいけないのよ
女子会で話すのは、なるべく不幸な話がいい。一緒に誰かに怒って、「だいじょうぶだよ〜」なんて根拠のない慰めをして、「私なんて」と不幸話を重ねる。そうして心の中でこれより自分はまし。とランクつけるのだ。
なんて事を以前はっきり宣った友人の一人、佐藤千咲をちらりと見る。
千咲は自分に振られた話題を持論の通り「1年半付き合った彼に電話一本であっさり振られた」という不幸話しでバッサリと切って捨てた後である。呑気にサングリアなんて飲んで、詩音を助ける気は微塵もないらしい。
「私だって結婚したいけどさあ〜」
友人からの援護を諦めた詩音は、腹を括って話し出した。これが友人たちの蜜になるかはわからないが、本気でアドバイスが欲しい話ではある。
「プロポーズ自体は、付き合って4ヶ月の時にされてるの」
「エッ!?」
「はあ!?なに、どゆこと!?」
「待って、待って待って‼︎全然わからない‼︎なんで3年も結婚してないの⁇」
思った以上の食いつきである。
「だって、付き合って4ヶ月だよ?3年前って、私25だよ?ビビって断っちゃったの」
裕也と結婚したい、でもまだ早い気がする。なんて言った3年前の自分を殴りたい。
「はあー、それで未だにプロポーズなし、と」
「でもそれは彼氏も怖気付くわ。なんで1年後にもう一度プロポーズしてね、とか言っとかなかったの?」
「ほんとそれ」
自分でも何度も反省しているところをずばっとつかれ、詩音はテーブルに突っ伏した。
「どうやったら結婚できるのか教えて欲しい…」
「あたし、28の誕生日に結婚したいってプレッシャーかけたよ」
「まじか」
きらきら、と左薬指の婚約指輪を煌めかせながら言う友人に、詩音はがばっと身体を起こす。千咲も身を乗り出しているのが見えた。
「まじまじ。引いて逃げるか、覚悟決めてくれるか五分だったけどね。待ってるだけじゃ結婚できないよ。詩音も勝負かけなきゃ」
「しょうぶ…」
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そんなわけで冒頭の発言に戻るわけである。
「急にどした?」
「別に急じゃないよ、前からいってるじゃん」
わたわたとする彼――飯島裕也を一瞥して、詩音はずずっとコーヒーを啜った。
「うちの親、未婚の女の子を何度も家に泊めてどう言うつもりなんだって裕也のこと怒ってるって。これ以上裕也の評価下げたくないし」
しれっと言って裕也を見ると、眉間にしわを寄せて考えこんでいる。
実家暮らしの詩音が恋人らしいアレコレを裕也としようと思ったら、それは裕也の家かホテルを使うことになる。ケチな裕也が毎回のホテル代を嫌がるだろう事は予想がつく。
―――ほらほら、私を家に呼んでアレコレしたかったらどうしたらいいか考えて‼︎
祈るようにコーヒーカップを握って、詩音は賭けの結果を待つ。
降りるか乗るか、賽の目は投げられたわけである。
カウントダウン、スタート
千咲ちゃんの不幸話は、虚実ない交ぜ小説第一弾「恋の終わるとき」に書いています。
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