遠距離物理の待遇
「死にましたね」
「そうですね」
「取り敢えず、武器をしまって移動しましょう」
「はい」
死に戻りをしている人が珍しいのか、弓を持っている人が珍しいのかは知らないが、結構の人が俺等を見ている為、レイナさんに促されるがままに武器をしまい、ついていった。
「どこに行ってるんですか?」
「ギルドです。そこで、達成条件を満たしているクエストの達成と、矢を買い足します」
確かに、矢は幾らあっても良い。まずは、借りた分の矢は返しておくべきだろう。
「そういえば、私はなんで死んだんですか?」
「斜め後ろからの狼の一噛みです」
あれは正直、蜘蛛を至近距離でみたときよりもグロかった。一応、全年齢対象だから血は出てこないが、それで一切問題ないわけがない。
「そうですか。近づかれてるのにも気づきませんでした」
「俺もレイナさんのHPバーが砕け散るまでは気づきませんでした」
「そうですか…。で、ここがギルドです。列に並んでいる人達は雰囲気を味わいたい人達だと思うのですが、並びますか?」
「いえ、大丈夫です」
正直、雰囲気を味わってみたいところはあるが、態々それだけの為に長蛇の列に並ぼうとは思わない。
俺の返答を聞いて、並ぶこと無く中に入っていったレイナさんに続いて中に入った。そこは、アニメによくあるギルドのようなものが完璧に再現されていた。そして、列の最前部にはカウンターがあり、NPCと思われる美人さんが受付をしていた。
「え、これ並ばないでクエストとか受けられるんですか?」
「ギルド内であれば、メニューの項目に追加されている『クエスト』、『売買』から目的ははたせます」
「へぇー」
「取り敢えず、『あれ』どうにかしたいのですが」
レイナさんが指差したのは、弓を持った女の子だ。弓を持っているせいかは知らないが、周囲から冷やかされており、女の子は固まっていた。
正直、本音を言わせてもらえば関わりたくないのだが、レイナさん的には介入する気のようだ。
「何故介入しようとしてるんですか?俺達には関係ないでしょう?」
「確かに関係ないかもしれないですが、私がこのゲームを始めた理由が、弓が不遇という認識を無くす為なんです。βテスターの友達に弓が不遇と聞いたのでこのゲームを始めました」
確かに、その理由で始めたのだったら、介入しない理由がない。それどころか、介入しなかったらこのゲームをやる理由が無くなるだろう。俺としては、弓が不遇だろうがある程度楽しめれば良いのだが、一応レイナさんの手助けはしておこう。リアルを知られてる以上、悪い印象はあまり与えたくない。ゲスいと思うかもしれないが、皆そんなものだろう。
「協力します。どうします?」
「メニューから称号を表示して下さい。出来れば見た目が強そうなやつで。少しぐらいは威圧になるはずです」
「はい」
言われるがままに、メニューから称号を表示することにした。どうやら、称号はプレイヤーネームの下に一つだけ表示出来るようだ。ゲームを楽しみたいだけだから、あまり目立ちたくは無いのだが仕方ない。取り敢えず、見た目的に強そうな【始まりの街南部の覇者(草原)】を表示することにした。
俺がメニューを弄っている間にレイナさんも設定したようで【遠距離物理スキルの先駆者】と、プレイヤーネームの下に表示されていた。
「いきます」
「…はい」
取り敢えず、俺は何も喋る気は無い。必要に迫られたら喋るが、このゲームの知識がろくに無い俺が喋ったって何も起きないだろう。
「弓だからと冷やかす必要は無いと思いますが?」
女の子の前にたって、レイナさんはいきなりぶち込んだ。もしかしなくても会話下手なのだろうか?もう少し、話の導入や挨拶等あっても良いような気はするが…。
「あ?別に冷やかしてる訳じゃねえよ?ただ単に、『キャラメイクからやり直したほうが良いよ〜』って教えてやってるだけだ。…てか、お前も遠距離物理か。どうやってスキルレベルを最大にしたのかは知らんが、お前もキャラメイクからやり直したほうが良いぞ」
文面だけを見れば親切心で言っている様に思えるが、実際の所はそんな事ない。男は話している途中、ずっと笑っているし、その見下したような目は変わることがない。
「余計なお世話ですので大丈夫です。これでも、レベルランキングは1位なので」
レイナさんの発言を聞き、ランキングを見たが、実際そうだった。1位と2位と3位がレベル9、4位以降数人がレベル8だった。これだと、俺も一位という事だろうか?まあ、あんだけ連続でグラスラビットを倒していたのだから、ある程度は納得した。
俺としては、レイナさんの会話に交じる気は無いので、女の子を少し避難させることにした。
「ねえ」
「は、はひ」
「ちょっと来て」
言ってから手を引いて連れて行こうとしたが、触ることが出来ない。そういえば、セクハラ対策は厳重なんだったか。
まあ、別に触れなくても問題ない。てか、元々触る必要がない。先程は固まっていて動けそうには無かったが、今なら動けそうである。
「来て」
「す、すみませんお金はそんなに持ってないんです!」
「は?」
「何やってるんですかレンジさん」
何を勘違いしたのかは知らないが、面倒くさい。しかも、会話の途中な筈のレイナさんの言葉が地味に俺の心を削った。




