新・無理ゲーの気配
「まあ、そういう訳で始めるんだけど、アドバイスとか有る?」
「んじゃ、AGIにステ振りした方が良いよ」
「分かった。VITを上げることにする」
「は?…まあ良いんじゃない?」
「そういう事だから、攻略手伝ってね」
…?何を言っているのだろうか。
「やだ」
「やだってひどくない?」
「いや、俺も今攻略忙しいから、野良で助けてもらって」
「…仕方ない。友達に手伝ってもらう事にするわ」
「ランカーだし、迷惑かかるんじゃない?」
「今行き詰まってるって聞いてるから問題ないと思うよ」
…なら、良いのか?…いや、駄目だろ。行き詰まってるなら行き詰まってるで、それに応じたやる事が有るはずだから、断られるような気がする。
まあ、実際に駄目なら断られるはずだから、俺は関わらなくていいか。
「じゃ、俺ゲーム戻るから」
「はーい」
ゲームにログインすると、ログアウトした時と同じ場所に出てきた。相変わらず目の前には大きな扉があり、ボス部屋の存在感を強調していた。
ユウさんに貰ったHP回復薬を使用し、HPが最大になった状態でドアを開けた。
レイナさんによると、ここで出てくるのは、ゴブリンヒーラー×1、ゴブリンマジシャン×1、ホブゴブリン×2、ゴブリン×2らしい。そこまで凄い連携は取ってこないらしいので、慌てずにヒーラーを倒せば全然余裕らしい。
「よし、行くか」
扉を開け中に入ると、勝手に扉が閉まり中心部に魔法陣が出現した。ただ、数がおかしい。中心に1つ、その周囲を4つ、その又周囲を8つ。合計13個の魔法陣が発生していた。ボスエリアが地下闘技場と言うしか無いような作りだったりするのだが、それはどうでも良い。いま一番重要なのは、この異常事態だ。
実を言うと、この異常事態の正体は知っている。尚康がボスに挑む上でとても重要だと強調していたからだ。ごく稀に発生するボスの変化は、難易度が桁違いに上がり、クリアした人には必ず称号が与えられる。又、それが発生するためには、そのフィールドに初めて挑むか、パーティーの平均レベルが適正レベル以下である必要が有るらしい。
今重要なのは、難易度が上がる。ということだ。場合によっては死ぬことになってしまうが、それは嫌だ。全力を尽くすつもりだ。
『『『グギャギャギャ』』』
魔法陣の中から、中央にはゴブリンジェネラル、その周囲にゴブリンナイト、その周囲に様々なゴブリンの変異種が発生し、雄叫びを上げた。
「ゴガアアアァァァァ!!」
その後のゴブリンジェネラルの咆哮に、周囲のゴブリンは奮い立ち、俺の視界には『威圧のレジストに成功しました』と表示された。
周囲のゴブリンの内訳を見た所、ゴブリンマジシャン×2、ゴブリンシーフ×1、ゴブリンアーチャー×3、ゴブリンヒーラー×1、ゴブリン×1が発生していた。
勿論、回復をされないようにする為に、ヒーラーはダブルショット2連射で速攻で倒した。その間に、アーチャーなどが攻撃をしてくるが、勿論全て躱している。
5分程かけて、その8体を倒すと、不動を貫いていたナイト4体が動き出した。ナイト達は、時々俺の矢を弾いたりしながら俺に近づいてきた。その間、俺は1体のみを集中的に狙っていたが、中々倒し切ることが出来なかった。それからも、逃げながら撃っていたりしたのだが、手負いなものは万全なものの後ろに隠れてしまい、倒すことが出来ずにさらに五分が経過した。
「ゴガアアアァァァァ!!」
唐突なジェネラルの雄叫びと共に、魔法陣が8個発生し、ゴブリンマジシャン×1、ゴブリンシーフ×1、ゴブリンアーチャー×2、ゴブリンヒーラー×3、ゴブリン×1が発生し、ヒーラー達がすぐにナイト達の受けたダメージを回復した。
「はっ?」
ツインヘッドベア並の無理ゲーの気配。つい動きを止めてしまったタイミングで、マジシャンとアーチャーの攻撃をくらってしまった。合わせてくらったダメージは83。残りHPは17となり、動きの阻害をする矢を引き抜いた所、さらに9ダメージくらい、残りHPは8となった。
「いやいやいや。おかしいでしょ。もしかしてジェネラル倒さないと永遠に発生する感じ?」
だが、ジェネラルに攻撃しようにもダメージが入らないどころか、見えない壁に阻まれる。代わりと言っては何だが、ジェネラルは咆哮を上げてゴブリン達を召喚する以外何もしない。ただ、それがわかった所で何の解決にもならない。一番可能性が高そうなのはナイト4体を倒せば攻撃が入るようになる。というものだが、ナイトも倒せる気がしなかった。
取り敢えず、ヒーラーを最優先に、8体のゴブリンを倒し、もう一度ナイトたちへの攻撃を再開した。だが、倒しきれずにもう一度ジェネラルに8体のゴブリンを召喚されてしまった。
数度の召喚を経て分かったのは、ゴブリンは10分毎に召喚される。という事と、確定でゴブリンマジシャン×1、ゴブリンシーフ×1、ゴブリンアーチャー×1、ゴブリンヒーラー×1、ゴブリン×1が出てくると共に、ランダムで3体が出てくることだ。
ヒーラーが一体だけで済むかは完全に運ゲーだった。今まで40体倒してきて、ヒーラーは11体倒している。大分運が悪いだろう。もしかしたら、仕様でヒーラーが出やすくなっているのかもしれないが、ヒーラーが出てきて回復してしまうことには変わりない。俺は、ヒーラーの数が少ない事を願いながら戦うしか無かった。
1体だと、与えたダメージのほうが大きく、2体だとほぼ同じで、場合によっては与えたダメージのほうが大きくなり、3体だと回復される量のほうが多くなる。とにかく、ヒーラーが一体しか出ない事を望みながら戦ったが、未だにナイトを一体も倒せていないことから察してくれ…。
因みに、HPは回復していない。今のAGIがあれば問題無く躱せるし、火精霊のクエストを進められるのでは?と考えたのだ。
それから、4度の召喚を経て、気づいたことがあった。固定で召喚されている5枠の場所の変化が規則的だということだ。こちとら記憶力には自信が有る。複数体出てきたときなどは分かりづらかったが、ヒーラーなどの召喚場所を予測出来るようになったのだ。
「ここだぁぁぁぁあああ!!!よしっ!」
狙い通りに、ヒーラーが役割を果たすよりも先に倒すことが出来、奇跡的に集中狙いが出来ていたナイトを一体、倒すことが出来た。




