ソロの限界
下位災獣の見た目が羽の生えたライオンを大きくしたような存在であるが故に、劣化災獣である鷹が一口で食べられるといった事は流石に無かったが……もがいていた劣化災獣に首を振り回して止めを刺した下位災獣を見るに、劣化災獣には想定外の事だったのだろう。
「……さすがに──」
「ガアァァァアア!!!」
言葉を続けるよりも早く、想定していた最悪の事態が下位災獣の羽ばたきによって生じた風の刃によって証明される。
「能力を取り込んだッ……」
「……あの人今フラグたてようとしてなかった?」
「そんな事より私達どうすればいいのよ。近づけないし」
「おうえん?」
「……ラド!もう一回!ロスト達は引きつけて!!」
どうやら状態異常も解除されてしまったようなのでラドに再び上空を旋回するように指示を出しつつ、ロスト達にはラドから下位災獣の注意を逸らさせるべく攻撃を加えるように指示を出す。その間俺はやれる事もそこまで多く無いが……なるべく行動を阻害できるような所へと矢を射る事で下位災獣の行動を限定させることに成功していた。
矢によって多大なダメージが与えられてきたからだろうが、下位災獣は矢を無視する事が無いので簡単に行動を限定する事が出来る。それで何か大きく変わるかと言われれば……、
「んにゃっ!!」
──クロの影が下位災獣の足を掴み、地面へと引き摺り下ろす。そしてその体を地中からクラが拘束し、ロストが上から羽などを噛みちぎらんとする。
「ガァァァァア゛゛!!!」
流石にそれで止めを刺す事は出来なく、下位災獣が周囲に氷の槍や風の刃などを撒き散らしながら抜け出すが……少なくないダメージは与えられただろう。
「ジャアァァァアア!!!」
空へと舞い上がった下位災獣へと、ロストが大量の土の槍を展開する。それを下位災獣は氷の槍を使って真正面から迎え撃ちつつ、風の刃を槍同士の合間を縫うようにロストへと飛ばした。
「ァァァアアア゛!!!」
「ッ、【送還】『ロスト』【召喚】『コリィ』」
運悪く風の刃がロストの右足に直撃し、吹き飛ばす。それによってバランスを崩して倒れ込んだロストを見て好機だと思ったのか、下位災獣が再び地面へと突撃をしてきたので慌ててロストを【送還】してコリィを【召喚】した。一応はこれ以降もレイナさん達と行動する予定なのでロストが死んでしまっても問題ないかも知れないが……万が一に備えてロストは殺したくない。
「クラッ、生き残る事優先で良いから下位災獣を引きつける事に専念して!」
割と難しい注文をしたが……クロ、俺という後衛にラド、コリィという補助、そしてグドラが今のパーティなので、タンクの役割を果たせるのはクラしかいないのだ。既にグドラの眷属の大半は死に絶え、役にはたたない。クラに壁になってもらわないとこのパーティはすぐに崩壊しかねない。俺一人であれば……移動しながらの戦闘が出来るが、グドラがいる以上それも叶わない──まあ、俺一人だと勝つ事は不可能だろうが。
「見通しが甘かったか……」
「んおっ?なんだこ……あ、レンジさんか」
「……なんか此処らへんでやばい音が鳴っ……」
続々と周囲にプレイヤーが集まりだしたのを認識しながらも、グドラを仕舞うといった行動を取る事も出来ず、周囲から見られていると自覚するに留まり……気恥ずかしさを覚える。時々グドラの領域へと突っ込んでこようとするプレイヤーもいるのだが、必ず周囲のプレイヤーによって止められていた。下位災獣の周囲であれば毒沼は広がっていないとはいえ……俺の周囲はグドラの領域が広がっているのだ。戦闘中という事もあり、俺へと声をかけてくる様な人は──
「おーいレンジ!!手伝うことあるか!?」
下位災獣から視線を逸らす事無く声がした方を見ると、ナオやエナさんなどの1パーティが勢揃いしていた。イベントの時以来──1週間ぶりに会う人達だが、現状を考えると正直助かる。特に前衛であるミウさん、ハクさんがいるのは大きいだろう。
「……【送還】『グドラ』『コリィ』『ラド』『クラ』」
多少の葛藤はあった物の、他プレイヤーと連携を取る際に妨害をしてしまいそうな従魔を【送還】する。
「レンジ、敵はどんな……」
「おっし、行くぜ──」
「ガァァァアアァ゛!!!」
「……あんな感じ」
毒沼が消えるとすぐに此方へと来てくれたナオ達の質問に答えるまでもなく、下位災獣へと特攻したプレイヤーが身を持って伝えてくれた。地面から飛び出す氷の柱に宙を舞う氷の槍に風の刃。
「ラスアタの争奪戦だな……任せろ。なるべくレンジになるようにする。良いなお前等?」
「「はい」」
「良いわよ」
「良いぞ」
「分かった」
頼もしいナオ達のパーティとの共闘が……
「ァァァア゛!!!」
下位災獣の雄叫び、それによって召喚された眷属達を合図に始まった。
最後の召喚ですが、10分毎に行われる【召喚】とは違い、周囲にいる眷属を呼び出すやつです




