クヌギVS
レイピアでは無く、剣……を片手に持ったクヌギさんに声をかける。
「あの、すみませ──」
「見たこと無い魔物故なるべく傷つける事無……なんだこの天候は」
「……レンジさん?その方もしかしな……」
「レン──ッ、来るぞ!」
「シャァァアァァァ……」
「ぐるるるるる」
木が自由に動き出すと共に現れた下位災獣に……白蛇。下位災獣は体の至る所に傷があるとはいえ、しっかりとした足取りで歩いてきたのでHPはまだまだ残っていそうだった。白蛇という新たな敵が現れた今、真正面から戦うのは厳しいだろう。その白蛇に関してだが大きさは大蛇と言っても問題無い程で、子供程度ならば丸呑みにされそうなレベル。下位災獣であるライオンとは違って周囲に槍などを展開していたりはしないので……下位災獣の下の『???』か、眷属のどちらかとなるのだろう。
==========
???:1体 0.1/100%
中位災獣:2体
下位災獣:4体
劣化災獣:10体
眷属:1494体
==========
「……ん?」
「なんだあれは……」
下位災獣であるライオンと劣化災獣である白蛇が睨み合う。若干ズレてはいるが大体真ん中辺りに位置する俺含む四名は動くに動けない状況になっていた。
「……一時撤退しませんか?」
「やれるだけやってみたいのだが……」
「悪いが私は一人でも戦い続けるぞ。肉体への損傷が増えれば肉のドロップ数も減るが……仕方ない」
「俺も一時撤退に賛成です」
下位災獣と劣化災獣が協力して攻めてこないのは有り難いが、現状はほぼほぼ最悪に近しい。MP回復薬のクールタイムが終わるまでは俺も戦力になれるかは怪しいし……何よりも相手の能力が分からない。取り敢えずは一時的に退き、また機会を伺うのが良いだろう。
「……レンジさん、ありがとうございます」
「レンジがそう言うなら……仕方ないか」
「……まあ無理強いをする気は無いからな。一撃での首刈り……狙うか」
「……クヌギさん?」
先ほどまでは手に持っていた剣の様な……いや、包丁の様な大きな武器を両手でしっかりと持ち、白蛇へと強烈な視線を向けるクヌギさんに、つい声をかけてしまった。
「シャアアァァァアア!!!」
その俺の声がきっかけとなったのか、クヌギさんへと一直線に移動を開始した白蛇と、真っ向から迎え撃たんとするクヌギさんがぶつかる……直前に、下位災獣による魔法攻撃が解き放たれた。
水の槍を連射し続けるという単純な攻撃ではあるが、接敵しようとしていたクヌギさんと白蛇にはたまった物では無かったらしく、お互いに少なくない傷を負いながらも回避をする。
「ライオン貴様ァ!貴様は白蛇の次に食材にするから大人しく待機してろ!!」
「……なんというか、凄まじいですね……」
自分が攻撃されたことよりも、白蛇に傷がついた事に怒っていそうなクヌギさんの怒声を聞き、レイナさんが撤退するのも忘れたかの様に声を漏らす。雫先輩も観戦する様な雰囲気を出し始めており、移動する気は無さそうだった。下位災獣と白蛇、クヌギさんで三つ巴状態になっている今、俺達がクヌギさんの援護をすればクヌギさんの死亡率は確実に下がるのだろうが……。
「どうします?」
「どうしましょうか?」
「下手に攻撃をしたらクヌギ?とやらに怒られそうな気がするのは私だけか?」
「「あー……」」
災獣がいるにも関わらず、クヌギさんの雰囲気が場を支配していた為に雫先輩の言葉には説得力があった。……が、俺が既に至る所に傷をつけている下位災獣に関しては怒られる事は無いだろう。挑むかどうかは別として、白蛇はクヌギさ──
「ん?」
「どうかしました?」
「クヌギさんが俺等に何を望んだのかなって思いまして」
「外す事無く両目を失明させて欲しい!!首刈りに補正が入る!!!」
「「「……」」」
俺の声が聞こえていたのか、此方へと顔を向ける事無く大声をあげたクヌギさんに、思わず顔を見合わせる。
「じゃあ、レイナさんと雫さ──」
「いや、私は駄目だな」
「え?」
「毒を回したら怒られる気がする」
「……じゃあ、俺右目やります。使用スキルは【クイック】【ペネトレイト】で」
「わかりました」
パッシブスキルである【追撃】がこの際邪魔ではあるが、仕方がない。レイナさんと息を合わせて……、
「「【クイック】【ペネトレイト】」」
白蛇の両目を失明させた。後はクヌギさんがどう動くか──
「【解体】」
「「えっ」」
レイナさんと声が被る。雫先輩はどういう意味か分かっていなかったが……、
間違いない、ブラッドスキルだ。
【解体】は普通にスキルとして存在しますが、クヌギの【解体】はそれとは別物です。
生物特攻とか防御貫通とか物騒な能力で……空腹ゲージとMPを消費します。




