邪魔な物
気づいたら連載開始してから1年が経ってましたね……。
1年記念で更新しようと思ってたんですけど、普通に忘れてました。
今後とも書籍版1巻、進行中の2巻、コミカライズ、
そしてweb版共によろしくおねがいしますm(_ _)m
思わず口から出かかった言葉をギリギリの所で飲み込み、一呼吸置く。即答しなかったからか雫先輩に若干不思議がられてしまったが……一般論を話すためにもこれは必要な行為だろう。
「……レンジ?」
「HP、VITは上位装備を着用する際に求められたりします。ですのである程度は振っていた方が良いんでしょうし、日頃から不意打ちなどで殺されないためにもあっていいと思います」
「ふむ。ならそうするか。……ちなみに、本音はどうなんだ?」
「いらないです……あ」
「なら少し振れば良いか」
「……そうですね」
あっさりと声に出してしまった事から目を逸しつつ、ステ振りとスキル選択を始めたらしき雫先輩を横目に深淵の森表層での動きを考える。先ほどのボス同様、雫先輩の出来る範囲では手を出す事無く見守るだけに留めるつもりだが……正直言って今の雫先輩に出来る事などたかが知れている。初めて矢を射た時のように、一つ先の敵を狙い撃ちすれば魔物同士の戦闘に持ち込む事が出来るだろうが……まあそんな都合良くいくとは思えない。
「む……全然足りないな」
雫先輩の声が耳に入り視線を向けるが……未だに空中を睨んでいる姿が見えたので何かを求められたわけでは無いと判断して放置する。現在の雫先輩のレベルは恐らく7か8。職業レベルが4程度、称号数が4なので……総獲得SPは110程度。雫先輩が言っていた通り毒の自己作成を目指しているとしたら確かに、【採集】も【調合】も通常スキルなので全然ポイントが足りない。
「……レンジ。森は行けると思うか?」
「まず無理だと思います」
「……そうか。ちなみに、レンジが初めて倒したのはいつだ?」
「確か……あ、普通にビッググラスラビットを倒した後です」
俺が囮をしてレイナさんに倒してもらうという手段を取った事を思い出す。あの時はレベルが低く不意を打てた事、複数人いた事、敵が蜘蛛と倒しやすい存在だった事、など様々な要因のおかげで倒せたと言っても過言では無い為……雫先輩一人では倒す事は出来ないだろう。
俺のセリフを聞いて何故かやる気を出した雫先輩に幾つかアドバイスをしてから、フィールドを移動した。
「……あ、すみません俺やります【テンスアロー】」
「分かっ──凄いな」
森へと転送されてすぐに現れたフォレストウルフの群れを雫先輩に許可を取ってから殲滅する。予めフォレストウルフが出てきた時は勝手に討伐すると伝えてあるのでこれは問題ないだろうが……一撃でも雫先輩にお願いして経験値を分けるべきだったか?今回に限ってはそんな余裕も無かったのだが、次回以降はそうすべきかもしれない。取り敢えず今は雫先輩に適した敵を探すべく【気配感知】【気配探──
「んじゃ……蜘蛛か蛇って、あ」
「……どうかしたか?」
「いえ、致命的な事を思い出しまして」
深淵の森に来る事自体が久しぶりで、最近はずっと他の森の深層や迷宮の奥地、人工守護神獣と戦い続けていたが故に忘れていた称号効果。よく考えればフォレストウルフ達も逃げ出そうとしていたし……俺の感知範囲内から全力で離れようとする沢山の魔物の気配を、悲しい事に感じ取る事が出来てしまった。
「何かまずい事でもあったのか?」
「あー……そうです。俺の持つ称号に【深淵の森表層の殲滅者】っていうのがありまして……」
「深淵の森……はここの事か」
「そうです。……で、その称号の効果なのですが、相手が逃げ出すっていう効果もありまして」
「む」
MMO初心者であろう雫先輩であっても、反応からして今の状況を理解してくれたのだろう。完全に忘れていた俺が悪いのだが……この称号を考えると、【PRECEDER】は誰一人として深淵の森の案内をする事が出来ないので……。
「申し訳ないんですけど、どうしますか?」
「どう、とは?」
「雫先輩が一人でここを攻略するか、第二の街の方を目指すか。俺としては第二の街の方が良いと思います」
「……そうだな。……悪いが一人でやらせてもらっていいか?やれるだけやってから毒草集めなどもやりたい。流石に毒草集めまで付き合わせるわけにはいかないからな」
「……分かりました」
「安心しろ、言われた通りに魔物同士を敵対させる事を狙った立ち回りをするから」
正直言うと、それだけでデスペナを回避できるとは到底思えないので一緒に第二の街へと進みたかった。が、少しでも成功させれば大量の経験値やアイテムを得られるのは間違いなく……それは俺がいると出来ない事でもある。
「……」
「大丈夫だ。レンジに教えてもらったのだし、私の腕前はレンジより上だろう?」
「確かにそうですね」
「……いや、真に受けられても困るのだが」
雫先輩が【隠密】を取っているかどうかは知らないが、俺が伝えた情報、雫先輩の言動からしてしっかりと取っているのだろう。どの程度までそれが通用するのかは分からないが……俺よりは上手く出来るのは間違いないと考えるといけるような気がしてくる。
「じゃあ、頑張ってください」
「ああ。ここまで助かった」
何か超面白い話でも出来たら良かったんですけど……
タイムリーなネタがセルフ膝カックンで死にかけた話と『メールアドレス変えました!日曜空いてる?』とだけ書かれたメールが来た時から迷惑メールが大量発生した事ぐらいしか無いですね。
まあまあ面白い……よね?




