無理ゲーの気配
レイナさんはこの後ユウさん、まあ勘違い少女と一緒に三次フィールドの攻略に向けて動き始めるらしい。んで、勘違い少女と俺を一緒にしたら勘違い少女が萎縮しちゃいそうだから、一緒には行動できないとのこと。
…いや別に良いんだけど…それに、どうせ死んでも『闇精霊の興味』とやらの達成条件が満たせなくなるだけだ。十分でかいような気がするが、いずれ同じ様な事をしなくてはいけなくなる事を考えると、今やってもどうせ変わらない。
という事で、レイナさんに乗せられた感は否めないが、深淵の森のボスに挑むことにした。
挑む上で数個程誤算があったのだが、転移っていうのは、街から街の門。又は、フィールドの境目から起動済みの最寄りの街のみらしい。最初は第二の街、通称『セカンド』とプレイヤーに呼ばれているらしい街から、始まりの街に転移をしようと思ったのだが出来なかった。レイナさんに呆れられたがそこはご愛嬌だ。
万全を期して挑むためにも、貯めるつもりだったSKPは【視力上昇】と【暗視】に使った。AGIが150もある事もあり、第二の街から深淵の森への移動は10分程で終わった。
「んじゃ、行きますか」
深淵の森に入るとプレイヤーなどほぼいない。敵との接触を控えるためにも隠密を起動して奥地へと進んでいるが、6人のフルパーティーを見つけたぐらいでそれ以外は見つからなかった。そのパーティーだって、狼の群れと蛇に殺されかけていたし。
やはり、別種族と戦わせる漁夫の利戦法は、遠距離じゃないと出来ないようだ。パーティーと戦っていた狼と蛇は、俺の時とは全く違い、しっかりと共闘してプレイヤーを殺しに掛かっていた。敵対度の構図としては
プレイヤー>(超えられない壁)>別種>(超えられない壁)>同系統種
といった感じだろう。
そんな事を考えている内に、フィールドが変わっていた。フォレストベアと戦った時と同じ様なフィールドだが、規模が違う。面積が2倍程になっている。
出来る限り中心地から離れ、ツインヘッドベアが出てくるのを待つこと10秒。
「「グラアァァァアァァァァァァァ!!!!!」」
4m程の大きさの2つの頭を持った熊が現れた。
「こっわおいまじか」
画面内に、威圧のレジストに失敗しましたとか表示されているが、今はそんな事を気にしてられない。体が動かないのだ。熊は、そんな俺を見て好機とでも思ったのか全速力で接近してきた。最初の距離は60m程あったが、3m程まで近づかれ、熊が手を振り上げたタイミングで拘束状態が解けた。
「あぶっ!死ぬ!死ぬこれ!」
熊が右手を上げていたため、右へと全力で逃げたが、振り下ろされた手は地面を砕き、飛んできた石がかすり、俺は瀕死状態になった。
「HP回復薬は持ってねえんだが!?」
攻撃される=死だと思っていた俺はHP回復薬など持っていない。今俺が残っているHPは1。完全に瀕死だ。流血とかの状態異常に掛かっていないだけマシだが、少しでも攻撃がかすっただけで俺は死ぬ。
俺が出来る事はただ一つだけだ。ダブルショットを基本的に常時発動させて連射し続ける。それ以外での打開方法は無い。多分俺が一番火力を出す方法はダブルショットの永遠連射だろう。幸いなことにMP回復薬は買い込んでいる。ストレージいっぱいとまではいかないが、50個近くはある。
「こいや熊ァ!何もしないで死ぬとかまじであり得ないからな!?」
「「ガアァァァァァ!!」」
熊と一定以上の距離を離し続けるには、この円形であるボスフィールドの外周でなるべく戦い続けなくてはいけない。俺も熊も、どちらも中央に行くこと無く戦う。そうしないと、ジリジリ追い詰められるだろう。流石に、中心から端に追い詰めていくなんて戦法を熊が取れるとは思いたくない。
「ん?何やってんだ?」
俺が疑問に思ってしまうのも仕方がないだろう。まあ、その間も手を止めることは無いのだが、その全ての矢を熊はバンザイの状態で受け止めているのだ。しかも、今始まった話ではないが、全ての矢は弾かれて一本も刺さっていない。もしかしたらかすり傷をおわせれてるかもしれないが、その程度だろう。
そして、その時は来た。熊が絶叫とともに両手を振り下げたのだ。
「「グラアァァァアァァァァァァァ!!」」
「はっ!?いや、レイナさんの言ってたので想像したのと全然違うじゃねえか!!」
両手を振り下げると共に発生した10本の緑色の線。意識をそらしたら見失いそうな感じの薄さの線だが、破壊力は全然違う。熊がいた所から俺の所まで、地面を抉りながら進んできた。
「あっぶな!」
進む速度も結構早く、何故そんな技を打てるのか疑問になるような強さだった。
「絶対お前適正レベル間違ってんだろ!!」
「「ガアアアアアアアアアア!!!」」
俺が10本の線を全力の横飛びで避けている間に、熊が接近してきた。
「近い近い近い!ちょ、死ぬ!まておい熊ァ!」
目と鼻の先まで接近され、腕を全力で振ったり、顔を突っ込んできたりと、様々な方法で攻撃してくるが、全てを紙一重で躱す。本当に紙一重過ぎて、風圧やら何やらで飛ばされそうななるが、そこは根性で耐える。
「あっぶねえんだよ!」
牽制の意を込めて、使えもしない短剣を取り出し、顔めがけてぶち込む。レイナさんに言われたとおりに、一部のアイテムの取り出すまでのすべき操作を覚えておいてよかった。時間はかかったが、何とか剣を取り出すことが出来た。
「「ガアアアア!!!」」
そしてなんと、剣が刺さったのだ。
「は?」
ちょっと意味がわからない。もしかしたら、運良く目に剣が当たってくれたおかげなのかもしれないが、強化された矢すら弾く防御力を短剣のみで突き破れるとは思えない。
もしかしたら、近距離物理に弱いのかもしれないが、俺には無理だ。どうにかして近距離物理のような事をしなくてはいけない。
「「グラァァァァァアァァァァァァ!!!」」
「無理じゃね!?」
慌てて離れてから、剣が目に刺さった所為か激昂している熊を見ると、どう考えても近距離攻撃など無理に思えた。