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失恋バスター  作者: kikuna
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綾乃とハルは、滞りなく結婚式を終え、おおよそひと月経った、秋晴れの気持ちのいい日。二人は旅立って行った。

 ――空港のロビー。

                                      

 ハルと綾乃が幸せを抱え、旅立っていった。

 「終わったな」

 呟く僕を一瞥した美憂が、大きく伸びをする。

 「お騒がせな二人だったわよね。雅久、これからどうするの?」

 飛行機の離着陸を眺めたまま、僕は黙りつづけた。

 「あのさ、言っとくけど、綾乃が言ったこと、気にしなくていいわよ。安っぽい恋愛ドラマみたいなこと、絶対ありえないっていうの。全くあの子ったら、相変わらずというか、呆れると言うか、本当に天然だよね」

 僕は大きく息を吐き出す。

 「またそんなため息をついて。失恋のショックは分かるけど、またうじうじと部屋に閉じこもらないでよ。なんなんらこれからお付き合いして差し上げましょうか? 飲みにでも行く?」

 真顔で見つめる僕を見て、美憂が不思議そうに首を傾げる。

 「歌でも良いけど? 何とか言いなさいよ」

 「……終わったから」

 「だからさっきもそれ、聞いた。まぁいろいろあったけど、雅久には悪いけど、私はこれで良かったと思う。雅久もさ、早く立ち直りなさいよ。さぁどうする? どこ行こうか? そう言えば、すっごくお洒落なバー見つけたんだ。そこ行ってから、カラオケに流れるってどう?」

 歩き出した美憂は、僕に腕を掴まれ、驚きの眼で振り返る。

 「もうそういうの、いいから」

 目を大きく見開いた美優が、フッと口元を緩ます。

 「……そっか。そうよね。当分は綾乃も連絡してこないだろうし、お互いの接点はなくなったわけだしね」

 「だからそういうことじゃなくって」

 「何よ、ムキになっちゃって、あなたらしくもない」

 「僕らしくって何だよ」

 「はいはい分かりました。雅久、私のこと、嫌っていたものね。おとなしく退散します。ではごきげんよう」

 「待ってって」

 「もうさっきから何? はっきりしない男ね。そんなんだから綾乃に」

 僕は美憂を、無造作に抱きしめる。

 「何? どうしたの? 雅久、とうとう気でも狂った?」

 「煩い。少しは黙れ」

 「雅久、言っておくけど、私そんな軽い女じゃないから。綾乃の隙間を埋めるようなことは」

 「だから、それは終わった。って言っただろ」

 「全然意味が分からない。お願い放して。人が見ているわ」

 「そんなのどうでも良い」

 「……雅久……」

 「痛っ」

 足を踏んで、離れて行こうとする美憂の腕を、僕は必死で捕まえ引き戻す。

 こんなの笑っちゃうくらい、僕らしくない。

 「放して。今日の雅久、少し変だよ。綾乃が行っちゃって悲しいのは分かる。でもこんなやり方をする人じゃないって、私信じていたのに」

 手を振り払われ、僕は焦って追いかける。

 柄でもないことをするから、こうなるのかな?

 後悔が頭をかすめて行く。

 それでも、僕は頭の中のものを振り払って、美憂を後ろから抱きしめる。

 僕は決めたんだ。弱気な自分から卒業するって。

 悔しいけど、憎まれ口を利く女も悪くない。って、僕はいつの間にか思い始めていた。

 「雅久、本当に良くないよ。私、そういうのじゃないから。お願いもうこれ以上、困らせないで」

 「ずっとずっと謝りたかった。お前、何か良い奴だよな」

 「今頃気づいたの? 分かったから雅久、放して」

 いつだってそうやって子供扱いするけど、僕にだって譲れないことがある。

 美憂を、僕の方へ振り向かせる。


 こんなこと、絶対にありえない。


 だけど……。


 「本当にもう大丈夫だから。仕事もまじめに行っているし、引きこもってもいない」

 「そうみたいね。偉い偉い。いい子だから、この手を放してちょうだい」


 どうしてかな?


 「嫌だ」

 「嫌じゃないでしょ。ほら、通って行く人がおかしく思っているわ。話があるなら、どこか別の場所で」


 こういうのは得意じゃないから。


 「これ、貰って欲しい」

 ポケットから出したものを見て、美憂が目を瞠る。

 「何、考えているの?」

 ぽかんとした顔で美憂が僕を見てくる。

 「良いからほら」

 半ば強引に僕は美憂の手を取り、指輪を左薬指に嵌める。

 みるみる美憂の瞳から、大粒の涙が零れ落ちて行く。

 「バカ雅久、付き合ってもいないのに、何しているのよ。さっきも言ったでしょ、私は綾乃の代わりにはならない」

 僕は美憂を抱きしめる。

 「ならなくていい。そのままのお前でいろ」

 「命令するなバカ雅久」

 「お前な、一世一代の僕の勇気に、難癖をつけるなよ」

 「私、いらない。無理」

 「マジ?」

 予想もしなかった美憂の言葉に、僕は呆然となる。

 「だってお前」

 「気があると思っていた? 冗談じゃない。かわいそうな男子を救済する、私は愛のナイチンゲールになっていただけよ」

 固まる僕を見て、鼻を啜りあげた美憂が胸を張って見せる。

 「だからあなたはダメなのよ。巡礼の旅に出なさい。恋の成就のお祈りして来るといいわ。じゃあね」

 だから何だと、僕は思う。

 僕らしくなくたって、それが恋の魔法ってやつだろ?

 だいぶ遠回りしてしまった僕の恋。だから分かることもある。

 「おまえさ、いい加減、素直になれよ」

 あっさり僕の腕をすり抜けた美憂が振り返り、イーをしてくる。

 順序は違うけど、僕らならきっと大丈夫。

 歩いてきた道、見慣れた景色に美憂がいる。そして暖かい日が差し込む。そんな場面が想像できる。いつでも一緒に歩いて行ける、お互いの無様さも、笑い飛ばせる。どんな長い距離でも、痛んだ足庇いあいながら、歩いて行ける。きっと美憂、君となら。

絶対、諦めてなんかやらない。

「待たせて悪かった。謝る。この通りだ。もう大丈夫だから」

 「だから、私は好きじゃないって」

 出会った頃の僕は、こんな展開が待ち構えていることを、想像もできずにいた。

 「これって」

 ヘタレの僕は捨てることが出来ず、売って、この指輪を買った。きっと美憂はそれを見破ることも分かっていた。だけど、美憂ならきっと笑い飛ばしてくれる。君はそんな女だから。

 頭を掻く僕を見て、美憂が噴き出す。

 僕の人生、いつも後悔してばかりで何一つ、良いことがなかった。

 初めて好きになった女性は親友が好きで、それでも諦め切れず、物わかりの良いふりをしては傷つき、人気がない公園で、一人、黄昏ていた日々。そんな僕が今、ここでちゃんと立っていられるのは、そんな僕を見捨てずにいてくれた人がいたから。気づかないふりをしても、拒んでも、ずかずかと土足で僕の心に遠慮なく入ってくる愛。

 僕は沢山の僕でできている。そのそばにはいつでも美憂がいて、笑ったり怒ったりしていたことを知っている。そうなんだ。飾ることのない自分でいられるのは、美憂の隣にいる時だけ。もうとっくに気が付いていた。意地なんて張るものじゃない。そのバカらしさを教えてくれたのも美憂、君だった。だから僕は精いっぱいの愛を、美憂、君へ捧ぐ。 

 「美憂、愛しています。僕と結婚してください」

 僕は美憂に手を差し伸べる。

 「だから言っているじゃない。私は」

 僕は美憂の口を塞ぐ。

 「バカ雅久。私にキスするなんて、100億万年早いっていうの」

 「愛している」

 「私はあなたのことなんて」

 「寂しい思いせさせて、ごめん」

 「バカ雅久。そんなこと言うな。あんたのことなんか」

 「美優」

 「好きじゃない。好きなんかじゃない」

 「分かった。分かったから」

 僕は美優を強く抱きしめる。

 すべてが愛おしい。

 「好きじゃないって」

 美優の悪たれが、嗚咽に代わる。

 何を言われても仕方がない、僕はどうしようもなく情けない男だから。でも、これだけは誓って言う。

 「美憂、愛している」

 「雅久の嘘つき。私はずっと雅久のこと、大嫌いだったんだから」

 「嫌いで良いよ美優。好きになってくれるまで、僕は全力で愛するから。こう見えても待つのは得意なんだ僕。だからずっと一緒に居よう」

 「もうずっと待っていたんだから。ずっと怖かったんだから。雅久のことなんて、好きなんかじゃないって……」

 「月明かりの真ん中でお茶を飲もう。時間を忘れて、馬鹿げた話で盛り上がって。ケンカした日は、口を利くのも嫌だろうけど、それもいつか、思い出の一つになる。そんな二人の家庭を作って行こう。変だよな。美憂とならそんなことが想像できちゃうんだもんな」

 「ちょっと、今どんな小説読んでいるのよ?」

 「ばれた」

 「もう」

 美憂が僕の胸に顔を沈めてくる。

 愚かな僕はいつだって大事なものを見逃してばかりで、手放してしまってから後悔の連続だった。

 綾乃、もし君が泣きながら電話を掛けてきたのなら、お人よしの僕はきっと会いに行ってしまうだろう。でも、それは良き友としてだ。その隣には美優も一緒が良い。一人で解決するにはしんどい。


 僕はそっと美優に唇を重ねる。

 「私で本当に良いの?」

 「美優がいい。こんな僕でも幸せにしてくれるのは美優、君だけだ」

 金色な自分でなくても、この公園で溜息を吐いては空見上げたあの日々も、

 「パパ、ママ」

 得意げに手を振るわが子に、僕らは手を振り返す。

 すべてはこの日に繋ぐためのものだった気がする。

 「さぁそろそろ行くわよ」

 「嫌だ。もうちょっと遊ぶ」

 「ジージーとバーバーが待っているから」

 「あと一回」

 憎々し気な笑みを浮かべた美憂が、僕の顔を見る。

 「あらあの子、本当にあなたの子かしら?」

 こんなやり取りが、幸せを感じられるようになるとは、あの頃の僕は思いもしなかった。

 「間違いないだろ。あの往生際の悪さは」

 「言われてみれば、あらそうね」

 僕らは顔を見合わせて、笑い合う。

 大切な物さえ、見失わなければ、何度だってやり直せる。

 美憂、それを教えてくれたのも君だったね。

 オレンジの灯が灯る公園を、僕らは手をつなぎ後にする。

 新しい未来に向かって歩き出そう。この手を放さずに。


(おしまい)








なんだかんだ、そのままの自分でいられる相手が一番と、心からそう思った雅久でした。

この話はこれでおしまいです。

拙い物語に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

また、呟きたくなったら書き出そうと思います。

その時はまたお付き合いいただければ、幸いです。

ではm(__)m

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