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失恋バスター  作者: kikuna
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なかなか綾乃への思いを吹っ切れずにいる雅久の元へ、里中から手紙が届く。

それは現実を突きつけるものだった。

そして、綾乃からの呼び出し。

何時もよりおしゃべりな綾乃に、雅久は悲しい決断をする時が来たことを悟るのだった。

 僕は時々思う。

 出会う順番、いや、もしあの日、ハルを連れて行かなかったら、事態はもっと違ったものだったのだろうか……。

 綾乃にも、里中からの手紙が届いたらしい。


 「すっごいよねみどりさん。見て見て、かわいい」

 赤ん坊の写真をもっと見たいって、おねだりをして送ってもらったらしい。

 携帯画面を僕に見せ、綾乃が微笑む。

 顔を近づけられ、ふんわりと綾乃の髪から甘い匂いがして、僕は苦笑いをする。

 決して縮まることがない距離。

 「綾乃ちゃん、本当の要件は何?」

 「要件って、だからみどりさんが」

 「違うよね」

 やたらおしゃべりになるのは、僕に聞いて欲しいことがある時の、綾乃の癖。

 綾乃なりの気づかいだった。

 「またハルのこと?」

 友達に戻ろうと言ったのは、僕。

 綾乃はそれを忠実に、実現させようとしているだけ。ただそれだけの関係。

 綾乃が言いにくそうに、僕を見る。

 いつになく、綾乃は躊躇いを見せた。

 「良いから言ってみなさい。お兄さんがズバッと解決してやろうじゃありませんか」

 「雅久君、変わったね」

 「そうか? 僕としては何一つ、変われていないと思っているんだけどな」

 「そうかな。なんか、逞しくなった気がする」

 「そっか? だったら綾乃ちゃん、僕のこと惚れ直してくれる?」

 綾乃は笑って誤魔化す。

 分っている。何があっても綾乃はハルと離れない。

 「で、マジで何? 2時には社へ戻らないといけないんだわ」

 「あ、そうだよね。雅久君だって、忙しいよね」

 「一応、新人だしな」

 「うん。そのスーツ、良く似合っている」

 「兄貴からの贈り物だけどな。結構気に入っているんだこれ」

 兄貴は自分のスーツを新調するたび、僕のも作ってくれていた。それは一種のおまじないみたいなものだったそうだが……。

 「だから早く言えって」

 綾乃が深刻な顔をして、僕を見る。


 ん?


 「……雅久君、私、もう会えなくなるかも」

 それは、行ったり来たりの僕の気持ちに、ついに終止符を打たれる、瞬間だった。

 「どういうこと?」


 二人の間を、ゆっくりと時が過ぎて行く。


 「ジャーン」

 綾乃が嬉しそうに、左薬指を掲げて見せる。

 ここに着いてから、ずっと気が付いていた。

 やっぱり綾乃、君は毒だ。

 悪びれることもなく微笑む綾乃に、僕はおめでとうと言うしかない。

 「やっとハルが、プロポーズをしてくれました」

 なかなか言葉が出てこなかった。

 「そっか。それは良かったな」

 薄っすらと涙を浮かべた綾乃に見詰められ、僕は逃げ出したくなる。

 僕は綾乃が思っているほど往生際が良い男でも、強い人間でもない。今だって、泣かされると分かっている、ハルの元へ綾乃を行かせたくない。それなのに、何一つ言えないままその背中をそっと押してあげることだけしか、僕にはしてやれない。嵐の夜。一つになった寂しさは、一生、僕の中から消えないだろう。

 「全部、雅久君のおかげ」

 指輪を大切そうにしながら、綾乃が言う。

 「僕は何も」

 絞り出した僕の言葉に、綾乃が首を振る。

 「雅久君、今までありがとう。ハルがその気になってくれたのも、実は雅久君がいたからなの」

 泣きそうだった。

 首を傾げる僕を見て、綾乃がまっすぐ見つめてくる。

 「ハル、焦ったんだって」

 どうやら頻繁に二人で会っているのを知り、ハルらしくもない、後をつけたらしい。

 ハルに見せない顔をする綾乃を見て、危機感を覚えたハルは本気を出した。

 「綾乃もついに、聖綾乃になるのか。でも会えなくなるって?」

 自分で言っときながら、今まで通りというわけにはいかないってくらいなこと十分承知している。

 だけど、聞かずにはいられなかった。


 ……会えなくなる。


 そんな日々を、僕には想像できずにいた。

 笑みを作った頬が、引き攣る。

 「ハルったら、仕事の拠点を、カナダにしたいって」

 「また急にどうして?」

 綾乃の顔が少し曇ったような気がして、僕は首を傾げる。

 「ハル、まだあの人のこと、引きずっているのかな?」

 思いがけない綾乃の言葉に、僕は目を見開く。

 「ハル、彼女とカナダで、二人で暮らしていたみたいなの。だけど離れていた時間が長すぎて、上手くいかないことが多くなっていったって話していたけど……」

 「だって二人、結婚するんだろ? それは気にしなくてもいいと思うけど」

 「ハルもね、もう全然、気持ちはないって言ってくれたけど、純粋にあちらの気候や風合いが気に入ったからって」

 目を伏せる綾乃を見て、僕は拳を固める。

 「どこまで信じていいのか、分からないってこと?」

 頷く綾乃を見て、僕は深いため息を吐く。

 綾乃の頭をガシガシと撫でる。

 こんなことをしてやれるのも、今日までだろう。

 泣き笑いする綾乃に、僕は胸を張る。

 「僕に任せておけ。白黒つけてやる」


 放って置けばいい。

 もう一人の僕が呟く。

 綾乃が強く言えない原因。それは僕が良く知っている。

 これは僕とハルの問題。

 僕は綾乃の制止を振り切り、ハルの元へと足早に向かう。

変わらないと思っていた。けどそれは違っていた。

確実に時間は流れ、少しずつ大人になって行った雅久たちにも、新しい風が吹き始めていた。

すべてのものに決着をつけることを決める雅久の巻でした。

この回の話が自分では割と好き。本気で好きになった人を、忘れるなんて簡単に出来っこない。未練がましくったって、好きなもんは好きでいい。だけどそればかりに心を奪われてしまうのは悲しい。だから涙をぐいと呑んで、一歩踏み出して行くのさ。

頑張れ失恋君子。君の未来は開かれている。と願いを込めつつ次話へ続く。

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