24
捨てきれない思いに苛まれながら、月日は二年を費やしていた。
何時ものように僕は綾乃に呼び出され、息を切らし自転車を漕いでいた。
ガラス越しの綾乃を見つけ、僕は軽く合図を送る。
嬉しそうに綾乃が手を振り返す。
変わらない日常。
だけど出会った頃の僕らとは、少し違ってきているのも確かだった。
「どうした?」
曖昧な笑顔を作る綾乃に、僕は鼻で笑う。
こういう時の綾乃は、わりと深刻に思い詰めている。
足を組み、斜に構えるのが癖になってしまった僕に、綾乃はごめんと一言いうと、そのまま俯く。
「ハルとまた、揉めたのか?」
珍しく雑談を交えてこない綾乃に、僕は顔を覗き込み、もう一度聞き直す。
二年の歳月が、そういう振る舞いをできるようにしていた。
ハルは一級建築士として、活躍の場を広げていた。
僕も郵便配達員を辞め、会計士として忙しい毎日を送っている。
「雅久君からも言って欲しい」
主語抜けは、綾乃の悪い癖だ。
苦笑いでアイスコーヒーを、僕は頼む。
ジワジワと滲む涙を、必死でこらえる綾乃。
これは綾乃曰く、成長らしい。
「だって聖さんたらね」
ほら、すぐに崩壊する。
だから放って置けなくなる。
「ハルがどうかした?」
「浮気よ、浮気」
「浮気?」
素っ頓狂な声で聞き返す僕に、大真面目な顔をして、綾乃が頷く。
「相手は誰?」
「チワワ」
「チワワ?」
「飼うなら、ヨークシャテリアが良いねって話し合ったのに、店に入った途端、この子と目が合ったって、私を連れて行ってって、頼まれたって言って譲らないの」
携帯画面を見せられた僕は、呆れて綾乃の額を指で弾く。
「そんなことで、いちいち呼び出すな」
「だって、聖さんはいつも忙しい、の一点張りで、私を構ってくれないし、雅久君は絶対に来てくれるんだもの」
「ったく」
無邪気に笑う綾乃を、僕はどうしても嫌いになれなかった。
「ね、雅久はそれでいいの?」
煩く言ってくる美憂の声をどこかで聞きながら、僕は帰って行く綾乃に手を振る。
そんなにつらいなら、会うの、止めればいいのに。
公園のベンチで黄昏ている僕を発見した美憂の第一声は、いつもこれ。
僕の好きな公園は、美憂が通っているジムに面したところにある。
まるで図ったように美憂が通りかかり、そんな僕を見つけては文句を言うのだ。
それが起爆剤になって、僕は家路をたどるのだけど。
泣くことも少なった綾乃を、見ているのは正直、苦しい。
ひとひらの花びらが僕の足元へ舞い散ってきた。
名前も知らない、薄ピンクのその花びらを拾い、僕は小さく笑う。
いつもと違う僕の反応に、美憂が首を傾げる。
張りぼての自分に嫌気がさす雅久の巻でした。




