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失恋バスター  作者: kikuna
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捨てきれない思いに苛まれながら、月日は二年を費やしていた。


 何時ものように僕は綾乃に呼び出され、息を切らし自転車を漕いでいた。

 ガラス越しの綾乃を見つけ、僕は軽く合図を送る。

 嬉しそうに綾乃が手を振り返す。

 変わらない日常。

 だけど出会った頃の僕らとは、少し違ってきているのも確かだった。

 「どうした?」

 曖昧な笑顔を作る綾乃に、僕は鼻で笑う。

 こういう時の綾乃は、わりと深刻に思い詰めている。

 足を組み、斜に構えるのが癖になってしまった僕に、綾乃はごめんと一言いうと、そのまま俯く。

 「ハルとまた、揉めたのか?」

 珍しく雑談を交えてこない綾乃に、僕は顔を覗き込み、もう一度聞き直す。

 二年の歳月が、そういう振る舞いをできるようにしていた。

 ハルは一級建築士として、活躍の場を広げていた。

 僕も郵便配達員を辞め、会計士として忙しい毎日を送っている。

 「雅久君からも言って欲しい」

 主語抜けは、綾乃の悪い癖だ。

 苦笑いでアイスコーヒーを、僕は頼む。

 ジワジワと滲む涙を、必死でこらえる綾乃。

 これは綾乃曰く、成長らしい。

 「だって聖さんたらね」

 ほら、すぐに崩壊する。

 だから放って置けなくなる。

 「ハルがどうかした?」

 「浮気よ、浮気」

 「浮気?」

 素っ頓狂な声で聞き返す僕に、大真面目な顔をして、綾乃が頷く。

 「相手は誰?」

 「チワワ」

 「チワワ?」

 「飼うなら、ヨークシャテリアが良いねって話し合ったのに、店に入った途端、この子と目が合ったって、私を連れて行ってって、頼まれたって言って譲らないの」

 携帯画面を見せられた僕は、呆れて綾乃の額を指で弾く。

 「そんなことで、いちいち呼び出すな」

 「だって、聖さんはいつも忙しい、の一点張りで、私を構ってくれないし、雅久君は絶対に来てくれるんだもの」

 「ったく」

 無邪気に笑う綾乃を、僕はどうしても嫌いになれなかった。 

 「ね、雅久はそれでいいの?」

 煩く言ってくる美憂の声をどこかで聞きながら、僕は帰って行く綾乃に手を振る。

 そんなにつらいなら、会うの、止めればいいのに。

 公園のベンチで黄昏ている僕を発見した美憂の第一声は、いつもこれ。

 僕の好きな公園は、美憂が通っているジムに面したところにある。

 まるで図ったように美憂が通りかかり、そんな僕を見つけては文句を言うのだ。

 それが起爆剤になって、僕は家路をたどるのだけど。

 泣くことも少なった綾乃を、見ているのは正直、苦しい。

 ひとひらの花びらが僕の足元へ舞い散ってきた。

 名前も知らない、薄ピンクのその花びらを拾い、僕は小さく笑う。

 いつもと違う僕の反応に、美憂が首を傾げる。


張りぼての自分に嫌気がさす雅久の巻でした。

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