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失恋バスター  作者: kikuna
23/29

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一尊の容疑は晴れ、姿を消してしまってから一年が過ぎようとしていた。


 春の日差しが眩しくて、僕は目を細める。

 ガラス越しに綾乃の姿を見つけた僕は、窓を叩き微笑む。

 口実を見つけては、綾乃は僕を呼び出していた。

 面白そうな映画や食べに行ってみたい店の話。そんなことが話したいわけじゃないのに、綾乃なりの気づかいなんだろうと思う。

 痺れを切らした僕は綾乃に突っ込みを入れる。

 泣き顔の代わりに、今でははにかんだ笑みを浮かべるようになった綾乃に、僕はふっと笑みを零す。

 付き合っている頃より自然体の僕らが、そこにはあった。

 もしかしたら、と僕の脳裏をかすめて行くものは、すぐに打ち砕かれる。

 それが現実だった。

 気を楽にした綾乃が、甘いものを頬張りながら、ハルの話を始める。

 だんだん話に熱がこもっていく。

 泣きつつ起こりつつ、最後の一口を頬張った綾乃が笑う。

 その笑顔にやられながら、僕はハルの元へ帰って行く綾乃を何度となく見送った。

 終わりの知らない孤独を、僕はこうやって抱えたままなんだろうな。

 雨上がりの歩道に、街灯のオレンジが滲む。


 な、兄貴、幸せって何だろうな?


 大きく伸びをして、僕は立ち上がる。

 最近になって、少し分ったことがある。それは途轍なくありきたりで、そのくせどこかあたたかい。いつの間にか当たり前になりつつある、こんな僕にも居場所があるってことを。


 「雅久、発見」

 僕はその声に顔を顰める。

 「何で嫌そうな顔をするのよ」

 無視をする僕の後について来る美優。

 「飲みに行く? カラオケでも良いよ」

 「帰る」

 変顔を僕の背に向ける美憂を想像しながら、僕は振り返りもせずに後ろ手を上げその場を離れて行く。

 懲りず美憂がそんな僕目がけ、カバンを当ててくる。

 渋々付き合わされる僕の隣で、美憂がうまそうに酒を飲み。管を巻く。

 そして変わらない日常へ戻って行く。


 里中から手紙が届いていた。


 里中らしい文面に、僕は顔を綻ばせる。

 手紙には、写真が添えられていた。

 里中の腕の中にはかわいらしい赤ん坊が抱かれていて、その隣で優しそうな微笑む男性の姿があった。

 「これで良かったんだよな、兄貴」

 本当にこれが良かったのか、と問う自分もいるが、いまだに消息がつかめない兄貴に向けて僕は呟く。


 ウベア島のパンフレットを手に取る。

 兄貴は逃げ出したかったのかな。良からぬ想像が頭を過るたび、この島にいることを僕は願った。

 手紙をしまおうと引き出しを開けた僕は、一瞬動きを止める。

 捨てようと思っても、捨てられない指輪が目の端に映っていた。

 僕は肩をすぼめる。

 なかなか恋愛ドラマの主人公たちのようには、僕には潔く捨てることなんてできないままだった。

 それでも、いつかすっぱり捨てなければならないことも、分かっている。

 兄貴が仕事に追われるようにしていたことが、少しわかる気がした。

 いらないことを考える必要がないからだ。

 僕は長い息を吐き出す。

  

変わらない気持ちを持て余す雅久の巻でした。

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