表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失恋バスター  作者: kikuna
2/29

それが兄貴の計らいだと言うのは、薄々勘付いていた雅久。

自分の殻を破りたいと、心のどこかで思っていた雅久は、騙された振りをして、兄貴に指定された場所へと向かったのだった。

待ち合わせ場所まで来ておきながら、僕はすっかり怖気付いていた。

理解不能の自分に、腹さえ立っていた僕は、あたりをキョロキョロする。

あまりにもベター過ぎませんか兄貴。

むしろなぜ宝くじ売り場の横などと、お選びになった?

兄貴は頭が良い。美青年とまで行かないが、まぁまぁ見れる顔をしている。それなりのノウハウもあるはず。なのになぜだ?

すぐに断って帰るつもりだった。

おぼつかない兄貴情報を屈指し、僕は相手の女性を探した。

髪が長く、赤いバッグ。行けば分かるって、雑すぎではありませんか兄貴殿。

兄貴が言う通りだった。

一際目立つ女性が、一人。

ふとこちらを見た彼女の目と合ってしまい、思わず僕は下を向く。

「もしかして、カズ君の弟さんですか?」

向こうから声を掛けられ、僕はホッとしつつ、目を上げる。

想像以上にきれいな人で、返事をする声が上ずる僕。

嬉しそうに笑って言い繋ぐ彼女と、僕はまともに目を合わせることが出来ずにいた。

「はい。輪錦雅久わにしきがくと言います」

「へぇ、雅久君って言うの。字はどう書くの?」

「雅に久しいって書きます」

一尊かずたかに雅久って、一つを尊んで雅ひさしく。貴方のご両親は、壮大な考えの持ち主なのね。そうかそうか。雅久君ね。私、里中みどりって言います。よろしくね」

目の前に手を差し出され、僕はとりあえず笑ってその場を凌いだ。

「じゃあ行きましょうか。ガッちゃん」


 ……ガッちゃん?


 ニコニコしながらそう呼ばれ、僕は気が遠くになりそうになる。

「どうしたの? 早く行きましょ」

 振り返る里中に、僕は意を決する。

 「あの、すいません。兄貴、仕事が立て込んでいるみたいで」

 「そうみたいね」

 あっさりと返してきた里中の顔を、僕はまじまじと見る。

 「あの、日を改めた方が」

 「良いから良いから。行きましょうか」

 良くない、でしょ? デートの代行を頼む方もアホだけど、それを良しとする方も、どうなの?

 すっかり目が三角になっている僕の腕を、里中はお構いなしに、引いて行く。

 「こんなの、やっぱ良くないと思うんです」

 「そうよね。ガッちゃんも若人の身、こんな所、彼女にでも見られたら大変」

 手をかざし、遠くを見やるその大袈裟な仕草をされ、僕は苦く笑う。

 「そういうことではなくて」

 「あっそっか。まずは彼女がいるのかってこと、聞いておくべきだったわよね」

 「だからそうではなくて」

 「いるの? いないの?」

 里中の強い口調に僕はつい、口を滑らす。


 「いませんけど。それが何か?」

 ムッとする僕を見て、里中が肩を震わせる。

 久しぶりに躰の芯が熱くなってきた僕は、ムキになっていた。

 「普通、しませんよね、デートの代行なんて」

 「ノープロブレム。気にしないで、私なら大丈夫。ほらぐずぐずしないで」

 「気にしてくださいよ」

 目を瞬かせる里中に、腹が立って仕方がなかった。

 「問題、ありありでしょ。僕から兄貴にはしっかり言っておきますから。あなたも、マジ簡単にこんなこと、許すなよ」

 僕に手を振り解かれた里中は、一瞬目を丸くしたものの、すぐに笑いに代わる。

 「ガッちゃん、ムキになって可愛い」

 僕は耳の裏まで赤くして、俯く。

 「カズ君が言う通り、まじめちゃんね。気にすることないわ。ガッちゃんが来てくれて、私としては大感謝しているのよ。さぁ早くいきましょう。予約時間に遅れるわ」

 「予約時間って?」

 先に歩き出した里中を小走りで追いかけ、僕は尋ねた。

 「予約、今日を逃すと、今度いつ取れるか分からないから。キャンセルするのも癪だし、そうかと言って、一人で行くのもね。淋しすぎるかなって、だからガッちゃん、全然気にすることはありません。胸を張ってついて来るのであります」

 敬礼をして見せる里中に、僕は返す言葉が見つからなかった。

 そう言うことだったのか、と僕は思った。

 あの唐突な質問は、ここへ繋がっていたのだ。

 柔らかい笑みの里中と目が合い、僕は慌てて目を反らす。



 


少しだけ、兄貴がいる世界を知りたい、そう思った雅久の巻でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=312221793&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ