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失恋バスター  作者: kikuna
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嵐の中、綾乃を見つけ出した雅久は、自分の気持ちを抑えきれずにいた。

裏切られても、まだハルが好きとなく綾乃を、雅久は力づくで抱いてしまうのだった。

そして二人は婚約をすることになる。

 僕の人生、後悔の連続だった。だから今度こそは上手くいく、そう信じたかった……。

 

 綾乃を家まで送って来た僕は、動くもの影を見て愕然とする。

 酔いつぶれたハルが、座り込み壁に凭れ掛かっていた。

 「……ハル?」

 酔いつぶれているハルの足元には、空き缶が転がっていた。

 「ハル? ハル、しっかりしろ」

 「おっ雅久、久しぶり。聖悠人、無事生還いたしました」

 敬礼してみせるハルに、僕は無性に腹が立った。

 「ふざけるなハル。今、何時だと思っているんだ?」

 「日本時間だと、夜の10時くらいいすっかね」

 「ハル、僕が送ってやるから帰るぞ」

 「雅久、ちょっと待って、俺、綾乃を待ってんだ」

 青ざめた綾乃が、微動だもできずにいた。

 「待つって、今更、会う理由なんてないだろ? 大体今まで、どこで何をしていたんだよ。そんな勝手が許されると思っているわけ?」

 「良いから放って置いて」

 話にならなかった。

 「ハルいい加減にしろよ。手を貸してやるから」

 僕の手を振り払ったハルが、綾乃を見つけ立ち上がって近づいて行くのを、何とか阻止しようと必死になる。

 「綾乃ちゃん見っけ。ただいま」

 二人の間に僕割り込む。

 「雅久、どいて。俺ら二人っきりにしてくれ。綾乃に大事な話があるんだわ。綾乃、すまなかった。少し話さないか」

 「ハル、いい加減にしろよ」

 突き飛ばされてもハルは、へらへらと笑うばかりで、それが腹が立って、許せなくって、気が付くと僕はハルの胸ぐらを掴みかかって行っていた。

 「ハル、自分が何をしたのか、分っているのか? 綾乃を散々傷つけて、良くおめおめとその面、出せたな。僕と綾乃は結婚する。もうこれ以上、綾乃を傷つけることは、僕が許さない」

 「はぁ? 何、人の女にちょっかい出してんの? 綾乃は俺にべた惚れなんだよ。なぁそうだよな綾乃」

 「何、勝手なこと言ってんだよ」

 「その手、放せよ。綾乃は俺と離れてて、ちょっと寂しくなっただけなんだよな。俺はそんなこと、気にしないから。だからもう一度」

 「ふざけんな。二度と僕と綾乃の前に現れるな」

 予感はあった。

 ずっと僕の中にそれは潜んでいて、だから急いでいたのかもしれない。

 「綾乃、こんな奴、放って行こう」

 「綾乃、もう一度、俺とやり直さないか。俺、お前じゃないとダメなんだ」

 咄嗟的だった。

 僕に殴られたハルがよろめく。

 「いってぇ」

 「どうしてなんだよ。どうして?」

 気が付くと、僕は力任せにハルを殴り続けていた。

 「綾乃を愛している。雅久、頼む。綾乃を、俺に返してくれ」

 「何を言ってんだよ今更。僕と綾乃はこれから結婚して、どんどん家族を作って、僕だって……僕だって」

 「雅久君、もう止めて」

 愕然とする僕の前に、綾乃が立ちはだかっていた。

 「綾乃、ごめんな。俺、凄く反省している。もう一度俺と」

 「勘違いしないで聖さん。雅久君を止めたのは、犯罪者にしたくなかっただけだから。私はもうあなたのことなんて、忘れました。お願いです。もう私の前には、二度と現れないでください。私たち、婚約したんです」

 「綾乃、そんなことを言わずにオレの話を聞いてくれ。この通りだ。本当に悪かったと、反省をしている」

 頭を下げるハルを、綾乃は一度も見ようとしなかった。

 「雅久君、行きましょ」

 毅然とした態度を振る舞う綾乃手が、小刻みに震えていたことを、僕は気が付いてしまっていた。

 何事もなかったように、穏やかな日々が二人を幸せへの道を辿らせていた。

 あれから綾乃は、一言もハルのことを触れてこない。

 二人の婚約を僕ら以上に喜んだ兄貴と里中さんが、着々と結婚式の準備を進めて行っていた。

 式場の打ち合わせの帰り、僕は寄り道をしようと綾乃を誘う。

 二人でよく待ち合わせたカフェでお茶を飲み、街路樹が立ち並ぶ道を二人で歩く。公園を見つけた僕らは、ベンチに腰を下ろし空を眺める。

 晴れ渡った空が気持ち良かった。

 「かわいい」

 綾乃が、遊具で遊ぶ子供に目を細める。

 綾乃を胸に引き寄せる。

 こんなことも僕は普通にできるようになっていた。

 綾乃に出会って、僕の人生は大きく変わって行った。

 髪を撫で、僕はゆっくり息を吐き出す。

 「綾乃ちゃん、今までありがとうな」

 「今更、なに?」

 「一度、礼を言っておこうと思ってな」

 「変な人」

 僕は綾乃の手を持ち上げる。

 「好きだったなこの指の形」

 僕はさりげなく綾乃の指から指輪を抜き取った。

 「雅久君?」

 驚いた眼で見る綾乃に、僕は目を細める。

 自分でも愚かだと思う。

 「綾乃、僕たち別れよう」

 「雅久君、もしかして」

 言いかける綾乃の口を、僕は指で塞ぐ。

 「良いから僕の話を聞いて。僕と綾乃では釣り合わない」

 「そんなこと」

 「住む世界が違い過ぎる。綾乃のご両親だってそう思っているはずだよ。やっぱ派遣社員っていうのは、ないなって自分でも思うし」

 「そんなの関係ないわ。私は平気よ」

 「無理しないで良いって」

 「雅久君、私本当に聖さんのことは、もう何とも思っていないし。父や母がどう思うと、私全然平気よ」

 「綾乃が平気でも僕がダメなんだ。一回くらい僕の言うことを聞いてよ。綾乃にふさわしいのはハルだと思う。あいつは凄い。あいつとならきっと綾乃は幸せになれる」

 「どうしてそんなことを言うの?」

 「見ていればそんなこと、分る。まだ、ハルが好きなんだろ?」

 綾乃は頻りに首を振る。

 ずっと綾乃を見てきた僕だから分かる。綾乃は無理をしている。この先ずっと……、大事だからそんなことはさせられない。

 とっくに出ていた答えだった。

 綾乃の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。

 「僕じゃダメなんだ。綾乃のことを心から笑わせられるのは、ハルしかいないんだ」

 「雅久君、それは違う。私はもう聖さんのことは」

 「いい。もうこの話は止そう。また前の僕らに戻ればいい。ハルの愚痴ならいくらでも聞いてやるから、行ってやれよ。あいつ、かなりへこんでいるみたいだから」

 「でも」

 「良いから早く行けって言ってんだろ。僕の気が変わらないうちに、行けって」

 僕は戸惑う綾乃の背を押した。

 間抜けな道化役が、僕には似合う。

 後ろ髪を引かれながら、綾乃はハルの元へ去って行った。


 ――そして僕は抜け殻になった。

 

 


やっと手に入れたはずの人は、どこか寂し気でそれが悲しかった雅久の選ぶ道は一つだけ。

憎らしいほどの晴天のもと、悪になりきれなかった雅久は別れを切り出す。そしてそれぞれの季節が始まろうとしていた。


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