18
嵐の中、綾乃を見つけ出した雅久。
ビジネスホテルの一室。
ハルのために泣く綾乃に、気持ちが付きあげてくる雅久だった。
「雅久君?」
それは衝動的だった。
「もう泣くなよ」
僕は綾乃を抱きしめていた。
「そうだよね。泣かれたって雅久君、困るだけだよね。ごめんね……」
泣き笑いする綾乃が切なくて、僕はそのまま口を塞ぐ。それが罪だと知っていても、止めることはもうできなかった。
「やめちまえよ。もういいじゃないか。ハルなんかやめちまえよ。僕が綾乃のことを幸せにしてやる」
「雅久君、放して」
怯えた瞳が悲しかった。
「どうしてだよ。畜生畜生」
嫌がる綾乃の手を押さえつけ、僕は夢中でその胸へと顔を沈める。
「お願い……、雅久君、やめ……」
嫌がる綾乃を僕は愛し続けた。
朝、最低な気分で目覚めた僕は、横で目を閉じている綾乃の髪を撫で、頬にキスをする。
綾乃が一睡もできなかったことを気が付かないふりをして、僕は自分の中に芽生えた罪悪感をかき消すように、綾乃を抱き寄せる。
「幸せなんか、後からついてくるものでしょ?」
里中が僕に熱く語った一言だった。
半信半疑でその時は聞いていたけど、今はそれを信じたい気分だった。
嵐の爪痕が残る街を、僕は綾乃と歩く。
ずっと望んでいたことだったのに、身が切られるようで、心が痛んだ。
僕はそっと綾乃の肩を抱く。
綾乃は何も言わず、小さく微笑んだ。
――そして、僕らは付き合い始めた。
何も考えまい。
泣き顔ではない、綾乃が僕の腕の中にいる。それだけでいい。何も望まなければ、僕らはきっとうまくやっていける。今は辛くても、時間が解決をしてくれる。その為なら僕はどんなことも厭わない。
僕の決心を知った美憂が珍しく、良しと言って、僕の前から去って行った。
もう僕に迷いはなかった。
綾乃が僕を見つけ手を振る。
それを見て自然に顔が綻ぶ。
もうこれ以上何も望むまい。
幸せな日がそこにはあった。
綾乃の為なら何にでもなれる。
そういう僕に、綾乃は困ったように笑う。
大袈裟でも何でもない。僕は綾乃が好きだ。胸を張って言える。
無理も、いつか無理ではなくなるそう信じて、僕は突き進むことを選んだ。
苦手な人ごみに溶け込み、少しおしゃべりになった僕を、綾乃が目を細め見詰めてくる。
二人の間を阻むものなんて、何もない。
遅い春に、僕は心を躍らせていた。
だから僕は気づかなかった。綾乃がどんな気持ちでいたかなんて……。
瞬く間に月日が流れ、イルミネーションが街を彩り始める11月。
少し急ぎ過ぎかなと思いつつ、僕は指輪を手に綾乃を食事に誘う。
緊張で吐きそうだった。
うまくいったら兄貴の背中を、押そう。
そんなことを考えながら二人で食事をした帰り道、イルミネーションを見て綺麗と呟く綾乃に僕はプロポーズをした。
恐々顔を見る僕に、綾乃は小さな声で、はいと言ってくれた。
嬉しくって、僕は初めて綾乃の前で泣いた。
ずっと僕に無縁だと思っていた、瞬間だった。
人目も気にせず、僕は綾乃を抱き寄せ、唇を重ねる。
もう大丈夫。
僕は自分の中にあった不安を吹き飛ばせ、浮足立っていた。
愛と罪の狭間に揺れる雅久の巻でした。




