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一目ぼれをした綾乃が好きになったのは親友のハル。自分の気持ちを打ち明けられないまま、綾乃と春の恋を成就させるため奮闘。そして必然的に味わう失恋のイタミ。
僕の人生、後悔の連続で、そもそもらしくないことをした、僕へのこれは罰。
僕に恋をする資格も度胸もない。これで良かったと思う。
殺人的な暑さが僕を狂わせた。ただそれだけの話。気の迷い。思い当たる言葉を連ね、僕は自分に言い聞かせ家路を辿る。
家に戻ると、さっき帰って来たばかりだと言う、兄貴がリビングで寛いでいた。
「お、雅久。出掛けていたのか。珍しいな」
兄貴はいつだって大袈裟。今でも職場と家の往復しかしていないと思っている節がある。ま、それは否めないのだが、最近は、悔しいが、兄貴のおかげでだいぶ外を出歩けるようになった。
無言で通り過ぎようとする僕に、兄貴ニタニタと話し掛けてくる。
「なぁ雅久、今度二人で旅行へ行かないか?」
「行かない」
即答する僕に、兄貴は失笑する。
「相変わらず渋いね。そう言わず、海外にでも行こうや。俺としてはウベア島がお勧めだけど、雅久が行きたいところがあれば、それに合す。勿論、旅費は俺が持つ」
ジロッと見る僕に、兄貴は笑顔で言い繋ぐ。
「楽園。知っているか、ニューカドレニアだぞ。ウベア島。天国に一番近い島。一面の海とサンゴ礁。人魚伝説のモデルになった島らしいぞ。どうだ。そそられるだろ?」
「里中さんと行けよ。そんなところ」
「みどりとだと、楽園も楽園じゃなくなる」
「どういう意味?」
「意味なんてないよ。俺は男同士、羽をのばしたいだけ」
「数多い、ご友人とどうぞ」
「数なんて、多くないよ」
ボソリと言う兄貴の言葉が、僕には聞き取れずにいた。
聞き返す気にもなれず、僕はそのままリビングを後にする。
兄貴はお気楽で良い。
能天気に笑って話す兄貴を見て、僕はつくづく思う。
「な、雅久。行こうぜ」
そんな言葉を背中で聞きながら、僕は自室へと向かう。
何もなかったと思えばいい。
――そして僕の日常が戻って来ていた。
何もなかったことにすることで、失恋のイタミを忘れようとする雅久の巻でした。




