ユートピアシティ
ユートピアシティ、極東の近海の小さな島国家である。そこではある特殊な存在がいる。魔法少女だ。
そして厳しい入国審査を通り抜けた者だけがそこで契約を交わし、魔法少女となれるのだ。
彼女達の様子は全世界に配信され今や、少女のなりたい職業ランキングで1位を常に独占している。
男性もそこでは契約精霊となり、少女達を魔法少女にすることが出来るが、少女達以上に厳しい入国審査が設けられている。それでも入国申請はあとを絶たない。
バカバカしいと批判する者も多数いた。しかし、少女達は 好きな願いを叶え、魔法を使い、そして自由に生きる…人々の目にはまさに理想郷がそこにあるように映った。
さて、ここまで長々と話してきた訳だが俺は今ちょうど
魔法少女に追われていた。
「待て待て待て!なんで俺がこんなハメに遭っているんだよ」
「逃げられませんわよ。どうせ貴方なのでしょ。この頃ユートピアシティで魔法少女をつけ狙っている契約精霊って…」
「断じて違ーう!!どうせまたアンタの勘違いだろ!ユートピアシティのお騒がせ"ドジっ子魔法少女のくりむるーん"」
「うるさい!うるさい!!うるさーい!!!取り敢えず貴方を粛清しますわ」
光の翼を生やした彼女から地上へと魔弾が次々と放たれる。マスコットのような動きにくい体では爆発で吹き飛ばされはまた吹き飛ばされを繰り返し、弄ばれれだけであった。
狭い路地に差し掛かった時だった。少女とすれ違った。
―――彼女を巻き込むわけにはいかない
俺は身を翻し、彼女の方を見た。
「君!!早く逃げるんだ危な……」
彼女は俺を抱き抱えた。そして何も言わずにそっと俺の体を放すと、剣を構えた。
「ふーん。貴方にも契約していた娘がいたのですの?まぁ宜しいですわ。まとめてお片付けですわ」
余裕たっぷりの彼女に向かい少女は凄まじい脚力で空を舞う。
「ぬ、何ですのこの娘!?」
くりむるーんは確か近接武器を持っていなかったはず…勝てる!
「一発で仕留める」
「ふんっ。そのような魔法道具では私のバリアは突破できませんわよ」
「"魔法道具"ならね」
「な、あなたもしかしてそれは…レギュレーション違反ですわ」
「うるさい」
彼女の肉片が少女の着地と共に降ってきた。
「イヤァァァァァァァァァア!」
腕を削ぎ落とされ彼女は発狂する。
見るに耐えない光景だった。少女は彼女の解体をするかの如く何度も何度も空を舞い、切り裂いていく。
「戦闘終了」
鉄のような気持ち悪い匂いに加え無残にぐちゃぐちゃになった彼女を見ているだけで吐気がした。
「やれやれ、酷いことをしますね最近の魔法少女は」
奥から彼女の契約精霊らしいペガサスのマスコットが現れた。彼は持ってきた袋に丁寧に肉片を詰めた。
「彼女は…くりむるーんはどうなるんだ」
恐る恐る俺は聞いた。
「あぁ…彼女なら大丈夫ですよ ハハッ。それよりもあなたの魔法少女は少し…おてんばが過ぎるようですね。注意しておいて下さいね」
まるで言っている意味が分からなかったが彼はそれだけ言うと去っていってしまった。
俺はさっきの少女の方を見た。彼女は暫く電源が切れたように動かなかったが意識を取り戻したように視線をこちらに向けた。
「あの…ありがとう危ないところを助けて貰って…」
彼女は嬉しそうな顔をしたがすぐに苦しそうな顔をして蹲った。
「大丈夫か!?っ血が!」
彼女の胸元から血が出ていた。あの一瞬の戦闘でくりむるーんに射抜かれていた。
倒れたまま少女は動かない。
―――どうする?このままじゃあ何も出来ない。そもそもここに病院ってあったっけ?見たことがない気がする。
「ど、どうすればいいんだ!」
「契約を交わすのさ」
「え?」
「さぁその子を魔法少女に導くんだ」
奥から次に現れたのはこの町のマスコットキャラクター『イノ太』だった。