表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/60

神殺し

 雷をエーベルハルトに向けて放つ。

 倒すために。殺すために。


 雷撃は直撃した。

 体が痺れて動けなくなったのか、エーベルハルトは膝から落ち、手を着いた。


「ルーク! 目を覚まして!」


 ……エーベルハルトが何かを叫ぶ。命乞いをしているのか、俺にはよく聞こえなかったが、勝負は決したようだ。

 電流を溜め、少しずつエーベルハルトへ近づいていく。


「目を覚ましなさいよ、この、ばかルーク!」


 直後、俺の頭が、爆発した。


「……いってぇ……。なんだ、何が起きた?」

「……ほう、手加減したとはいえ、普通の人間なら死んでもおかしくないですよ」

「死なないって分かってるから撃ったに決まってるでしょう?」


 そこでようやく気が付いた。

 俺が、エーベルハルトに操られていたという事に。


「まあいいです。使い物にならないなら、その男には少し黙っていて貰いましょうか」


 俺に、雷撃が襲う。

 いつもなら、雷など簡単に避けられるはずだった。

 だが、エーベルハルトの催眠によるものなのか、蛇に睨まれた蛙のように、動くことも、魔力を行使することも出来なかった。


「ぐあああああ!」


 全身に熱と痛みが走る。

 常人なら勿論、魔力を持つ者でも死ぬほどの一撃だっただろう。

 雷の能力を持つ俺だったから、何とか死なずに済んだ。

 それでも、催眠如何に関わらず、もう、一歩も動けない。


「ルーク!」

「ふふ。さあもう一回」


 またしても、雷撃が俺を襲う。

 先程よりは威力が低い。

 まるで、俺をいたぶるかのように何度も撃たれた。


 ベレッタが俺の方に駆け寄ってくる。


「いいんですよ? あなたが庇っても。まあ、そこの男と違って、雷の能力を持たないあなたが喰らえば、一撃で屠る威力は持ってますけどね」


 ベレッタが倒れれば諸とも死ぬ。

 そんなことは、当のベレッタが一番分かっている。

 拳を握りしめ、ベレッタは効果の薄い爆破の魔力をエーベルハルトに撃つことしかできなかった。


 ベレッタの顔から、どんどん精気が失われていく。俺が足手まといになったばっかりに。

 やがて、俺はもはや息をすることさえ難しくなっていた。


 そして、握りしめていたはずの拳を、ベレッタはだらりと開いた。


「……ごめん、ルーク。私はやっぱりヒーローにはなれないわ」

「……べレ……ッタ」

「ヒーローって、誰かを救う存在を指すんでしょ? 私は、私は……」


 ……突如、ベレッタの魔力が跳ね上がった。

 ベレッタの周囲の空間が、歪んで見える程に。黒いオーラが、蠢いている。


 始まりの魔女、ウィズをも凌ぐほどの魔力。


「私は、私の我が儘で。……あいつを殺す」


 直後、鼓膜が破けんほどの音が鳴り響いたかと思うと、エーベルハルトが立っていた地面が深く抉られていた。

 ルシフェル戦で見た、あの長時間溜めに溜めこんでようやく放ったはずの威力を、ノータイムで撃つ。


「何が……」


 当然、エーベルハルトは驚きを隠せなかった。


 覚醒。


 まさか、ここまでとは。身近にいた俺でさえ予想外だった。

 余力を残しながら、エーベルハルトを弄ぶように、ベレッタは魔力を行使する。


「どうかしら? 自分でやっていたことをやり返される気持ちは?」


 魔王。そう呼ばれるにふさわしい存在。

 神の力を借りたエーベルハルトを、もはや子供の様に扱っている。


「終わりにしようかしら。魔人を生み出した元凶に、魔力を持って罰を与えてあげる」


 ベレッタが出した手に、小さな火球があった。

 20m以上離れているはずなのに、熱い。

 灼けるような痛みが、俺にまで伝わってくる。

 目を開けられないほどに眩しく、ものの数分で全身が干からびてしまいそうだ。

 形容するならば、それはまさしく、小さな太陽。


「な、に……?」


 もはや、エーベルハルトに先ほどまでの力はない。

 あきらかに、オーバーキルだった。

 それでもベレッタの顔つきは、まだ足りないと言わんばかりに釈然としていない。


「堕ちなさい。地獄へ」


 火炎は、視界の全てを覆った。

 ベレッタが盾となってくれたおかげで爆風には呑まれなかったが、それでも全身に火傷を負いそうなくらいに熱せられる。


 爆炎が晴れると、目の前にあった城の瓦礫さえ消えていた。

 蒸発でもしたのか、炭の残骸さえない。

 地図が変わるほどに、平面だったはずの土地に凹地が出来ている。


 ……それでも、ベレッタは浮かない顔をしていた。


「……ありがとう。助かったよ、ベレッタ」


 助かった、といっても瀕死の状況だが、本当に死ぬことはなさそうだ。


「礼を言うのはこっちの方よ。ルークがいなければ、精神が壊れてたかもしれない。……まあ、覚醒したのもあなたのお蔭だけどね」


 ベレッタは焼け焦げた地面を見つめる。

 初めて見るなら、ここが皇帝の住まう城だったと、誰が思うだろうか。


「ねえルーク、この機会を逃したら、もう言えなくなりそうだから言うんだけど……」


 そう言う割には、ベレッタの言葉は詰まっていた。

 気恥ずかしそうに、そっぽを向いている。


「何だよ、もったいぶらずに言え……」


 その時だった。

 ギルガメシュが、遥か空中から俺たちのいるところに着地する。


「やあ、お二人さん。どうやら終わったみたいだね」


 それに続き、ウィズ、コルト、カトラスにルシフェルも集まってくる。


「し、死ぬかと思いましたわ……」

「さすがに力技だと分が悪いな」

「セカンドが早く来ないからだよ、本当に」


 ウィズとギルガメシュはそうではないが、3人は傷を負っているらしい。

 だが、見た目ではそれほど深い傷ではなさそうだ。


「ああ、良かった。それでベレッタ、さっきの話って何?」

「……もう機会を逃したわよ」


 よく分からんが、どうやら言う気がなくなったらしい。

 もう人間たちが襲ってくることはないかもしれないが、早く魔界に帰らなくては。

 そう思った矢先のことだった。


 背筋に、今まで感じたことの無い程の悪寒が走ったのは。


「……ゲートが、開いた……?」

「……ゲート?」


 分身とは言え、神であるギルガメシュでさえ、今まで見たことの無いほどの青ざめた表情をしている。


「異世界をつなぐゲートだ。これは……」


 目の前の空間が歪む。

 ゲートと呼ばれた、異空間をつなぐその歪みから出てきたのは。


「万能神……!」


 白髪に長いひげを蓄えながら、しかしどこか若々しささえ感じる存在。

 しかし、それはどこか、おかしく感じた。

 そして――。


 ザン! と。


 万能神の首が飛んだ。


 皆、何が起こったのか分からなかった。

 万能神の身体は塵のように細かくなり、虚空に消えゆく。


 だが、身体に走った悪寒は消えるどころか、益々強まっていくばかりだ。


「……やっぱり、こんな世界があったのね」


 ゲートから、女性が現れる。

 パーツ自体は、見たことがある。しかし、それで形成されたはずの顔は、全く異なって見えた。

 どす黒いオーラは、天にまで伸びるようにゆらゆらと揺れながらそびえ立つ。


 そう、これは。

 魔神となった、もう一人のウィズだった。

 


次回は2週間後くらいに更新

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ