神殺し
雷をエーベルハルトに向けて放つ。
倒すために。殺すために。
雷撃は直撃した。
体が痺れて動けなくなったのか、エーベルハルトは膝から落ち、手を着いた。
「ルーク! 目を覚まして!」
……エーベルハルトが何かを叫ぶ。命乞いをしているのか、俺にはよく聞こえなかったが、勝負は決したようだ。
電流を溜め、少しずつエーベルハルトへ近づいていく。
「目を覚ましなさいよ、この、ばかルーク!」
直後、俺の頭が、爆発した。
「……いってぇ……。なんだ、何が起きた?」
「……ほう、手加減したとはいえ、普通の人間なら死んでもおかしくないですよ」
「死なないって分かってるから撃ったに決まってるでしょう?」
そこでようやく気が付いた。
俺が、エーベルハルトに操られていたという事に。
「まあいいです。使い物にならないなら、その男には少し黙っていて貰いましょうか」
俺に、雷撃が襲う。
いつもなら、雷など簡単に避けられるはずだった。
だが、エーベルハルトの催眠によるものなのか、蛇に睨まれた蛙のように、動くことも、魔力を行使することも出来なかった。
「ぐあああああ!」
全身に熱と痛みが走る。
常人なら勿論、魔力を持つ者でも死ぬほどの一撃だっただろう。
雷の能力を持つ俺だったから、何とか死なずに済んだ。
それでも、催眠如何に関わらず、もう、一歩も動けない。
「ルーク!」
「ふふ。さあもう一回」
またしても、雷撃が俺を襲う。
先程よりは威力が低い。
まるで、俺をいたぶるかのように何度も撃たれた。
ベレッタが俺の方に駆け寄ってくる。
「いいんですよ? あなたが庇っても。まあ、そこの男と違って、雷の能力を持たないあなたが喰らえば、一撃で屠る威力は持ってますけどね」
ベレッタが倒れれば諸とも死ぬ。
そんなことは、当のベレッタが一番分かっている。
拳を握りしめ、ベレッタは効果の薄い爆破の魔力をエーベルハルトに撃つことしかできなかった。
ベレッタの顔から、どんどん精気が失われていく。俺が足手まといになったばっかりに。
やがて、俺はもはや息をすることさえ難しくなっていた。
そして、握りしめていたはずの拳を、ベレッタはだらりと開いた。
「……ごめん、ルーク。私はやっぱりヒーローにはなれないわ」
「……べレ……ッタ」
「ヒーローって、誰かを救う存在を指すんでしょ? 私は、私は……」
……突如、ベレッタの魔力が跳ね上がった。
ベレッタの周囲の空間が、歪んで見える程に。黒いオーラが、蠢いている。
始まりの魔女、ウィズをも凌ぐほどの魔力。
「私は、私の我が儘で。……あいつを殺す」
直後、鼓膜が破けんほどの音が鳴り響いたかと思うと、エーベルハルトが立っていた地面が深く抉られていた。
ルシフェル戦で見た、あの長時間溜めに溜めこんでようやく放ったはずの威力を、ノータイムで撃つ。
「何が……」
当然、エーベルハルトは驚きを隠せなかった。
覚醒。
まさか、ここまでとは。身近にいた俺でさえ予想外だった。
余力を残しながら、エーベルハルトを弄ぶように、ベレッタは魔力を行使する。
「どうかしら? 自分でやっていたことをやり返される気持ちは?」
魔王。そう呼ばれるにふさわしい存在。
神の力を借りたエーベルハルトを、もはや子供の様に扱っている。
「終わりにしようかしら。魔人を生み出した元凶に、魔力を持って罰を与えてあげる」
ベレッタが出した手に、小さな火球があった。
20m以上離れているはずなのに、熱い。
灼けるような痛みが、俺にまで伝わってくる。
目を開けられないほどに眩しく、ものの数分で全身が干からびてしまいそうだ。
形容するならば、それはまさしく、小さな太陽。
「な、に……?」
もはや、エーベルハルトに先ほどまでの力はない。
あきらかに、オーバーキルだった。
それでもベレッタの顔つきは、まだ足りないと言わんばかりに釈然としていない。
「堕ちなさい。地獄へ」
火炎は、視界の全てを覆った。
ベレッタが盾となってくれたおかげで爆風には呑まれなかったが、それでも全身に火傷を負いそうなくらいに熱せられる。
爆炎が晴れると、目の前にあった城の瓦礫さえ消えていた。
蒸発でもしたのか、炭の残骸さえない。
地図が変わるほどに、平面だったはずの土地に凹地が出来ている。
……それでも、ベレッタは浮かない顔をしていた。
「……ありがとう。助かったよ、ベレッタ」
助かった、といっても瀕死の状況だが、本当に死ぬことはなさそうだ。
「礼を言うのはこっちの方よ。ルークがいなければ、精神が壊れてたかもしれない。……まあ、覚醒したのもあなたのお蔭だけどね」
ベレッタは焼け焦げた地面を見つめる。
初めて見るなら、ここが皇帝の住まう城だったと、誰が思うだろうか。
「ねえルーク、この機会を逃したら、もう言えなくなりそうだから言うんだけど……」
そう言う割には、ベレッタの言葉は詰まっていた。
気恥ずかしそうに、そっぽを向いている。
「何だよ、もったいぶらずに言え……」
その時だった。
ギルガメシュが、遥か空中から俺たちのいるところに着地する。
「やあ、お二人さん。どうやら終わったみたいだね」
それに続き、ウィズ、コルト、カトラスにルシフェルも集まってくる。
「し、死ぬかと思いましたわ……」
「さすがに力技だと分が悪いな」
「セカンドが早く来ないからだよ、本当に」
ウィズとギルガメシュはそうではないが、3人は傷を負っているらしい。
だが、見た目ではそれほど深い傷ではなさそうだ。
「ああ、良かった。それでベレッタ、さっきの話って何?」
「……もう機会を逃したわよ」
よく分からんが、どうやら言う気がなくなったらしい。
もう人間たちが襲ってくることはないかもしれないが、早く魔界に帰らなくては。
そう思った矢先のことだった。
背筋に、今まで感じたことの無い程の悪寒が走ったのは。
「……ゲートが、開いた……?」
「……ゲート?」
分身とは言え、神であるギルガメシュでさえ、今まで見たことの無いほどの青ざめた表情をしている。
「異世界をつなぐゲートだ。これは……」
目の前の空間が歪む。
ゲートと呼ばれた、異空間をつなぐその歪みから出てきたのは。
「万能神……!」
白髪に長いひげを蓄えながら、しかしどこか若々しささえ感じる存在。
しかし、それはどこか、おかしく感じた。
そして――。
ザン! と。
万能神の首が飛んだ。
皆、何が起こったのか分からなかった。
万能神の身体は塵のように細かくなり、虚空に消えゆく。
だが、身体に走った悪寒は消えるどころか、益々強まっていくばかりだ。
「……やっぱり、こんな世界があったのね」
ゲートから、女性が現れる。
パーツ自体は、見たことがある。しかし、それで形成されたはずの顔は、全く異なって見えた。
どす黒いオーラは、天にまで伸びるようにゆらゆらと揺れながらそびえ立つ。
そう、これは。
魔神となった、もう一人のウィズだった。
次回は2週間後くらいに更新




