最後の戦い 人間界へ
ギルガメシュが呼んだのは、この世界のウィズだった。
確かに、戦力としては申し分ない。
俺はウィズに事情を説明すると、快諾してくれた。
「私がいない間に、面倒なことになったのね」
「ええ、色々と……」
ウィズとギルガメシュが何の知り合いだったのかは分からないが、仲が悪いわけでもなさそうだ。
「決行は明日だ。それまでに、傷をちゃんと癒しておきなよ」
そう言うと、ギルガメシュは屋敷の中に戻っていった。
「エーベルハルト、か」
ウィズは、その名前を口に出す。
「しかし、催眠とか洗脳を出来る能力って、そう都合よく子孫に残せるものなんですか?」
「……違うよ、ルーク君。エーベルハルトは、家系ではなく一人の人間を指すの。私と同様に、600余年の人生を過ごした存在。連邦国初代皇帝にして現在まで即位し続けている、化け物。不老が生まれ持った能力なのか否かは知らないけれど、ただの催眠術師と思っていたら痛い目に遭うわ。それに、誰もあなた達を助けには向かえない、足手まといになるからね」
「そう、ですね」
崩壊しかけた街は、たった一日で復興に向けて歩み続ける。
死者が出なかったのも大きな要因だろう。
天使を相手に、良く戦ったのだと思う。
「もっと褒めて下さい、お姉さまぁ」
「あーはいはい、ありがとうね」
天使を相手取らなかったとはいえ、魔王軍を率いて最前線で戦ったマリーも、いつも通りベレッタに甘えている。
「じゃあ、前哨戦として、酒でも飲むことにするか!」
もはや魔人ですらない、サイは景気づけにとどこから持って来たのか酒をふるまっている。
昨日までの暗く、重かった雰囲気は、払拭されつつあった。
人間も、元天使も、神も、魔人も、そして、異世界からやって来た人も。
楽しく酒が飲める。
これが、どれほど尊くて、代えがたいものであるか。
俺がこれまで戦ってきたのは、これを守るためだったんだと、今なら言える。
「人というのはこういうのが素晴らしいな。まあ、戦いが終わった後の酒の方が美味いが」
ギルガメシュは遠い昔を懐かしむように盃に口を付ける。
「戦いが終わった後、か。そいつは楽しみだな」
酒が美味く感じる。これよりも美味い酒が飲めるなら。
人間界にいた時、明日への労働力もそうだった。
単純なことは何も変わらない。
結局、昼から催された宴は夜まで続いた。
明日には重要な戦いが待っていると言うのに、二日酔いにならないかが心配だ。
酔い冷ましに外に出ると、一緒にベレッタが付いてきた。
「大分飲んでるのか? 顔が赤いぞ」
「そんなに飲んでないわよ。あなたこそ顔が赤いわ」
「だからこうやって風に当たりに来たんだよ」
月は丸く、闇夜を照らし続けている。
ベレッタとの間に長い沈黙が流れたが、気まずくはならなかった。
時間で言えばそこまで長い付き合いではないのだが、それでもだいぶ長い時を共にした気もする。
「ねえルーク。この戦いが終わったら、私……」
「ああ、そりゃ駄目だ、死亡フラグだ」
「は? 死亡フラグ?」
「よくあるんだよ。この戦いが終わったら結婚するんだ、とか、真っ当な人間になる、とか言うとな、大体次の話で死んじゃうんだよ」
出鼻をくじかれたようで、ベレッタは釈然としない顔で睨み付けてくる。
「何よ、まるで私が真っ当な生き方をしていないみたいじゃない」
「あながち間違いじゃないと思うが」
そう言うと。ベレッタは嫌そうな顔をしながらも近づいてきた。
横に並んで、小さな声で呟く。
「ねえ、もし元いた世界に帰れるってなったら、ルークは帰ったりするの?」
「そうだな、向こうでは死んだ扱いになってるだろうし、面倒なことになりそうだけど……。親の顔はもう一度見たいとは思うな。それに、魔力があれば生活には困らなさそうだしなー」
「別に、こっちの世界だって困らないでしょ。魔王軍の幹部なんだから」
「なんだ、引き留めてくれるのか」
「ち、違うわよ! ただ、いなくなると、寂しいけど……」
「それは、ありがたいお言葉だな」
「と、とにかく! 明日が重要なんだから、早く寝なさいよね!」
「はいはい。ベレッタも、もう酒は飲むなよ」
「分かってるわよ!」
捨て台詞を言い残す様に、ベレッタは屋敷の中へ戻っていく。
なんだか面倒なことになりそうなので、俺はもう少しの間、外に居ることにした。
……元の世界。
行き来できるなら、戻りたいと言う気もする。
天使でできたのだから、神だって俺を異世界に連れて行くことくらいは出来るだろう。
だがもし、もしどちらかの世界しか選べないと言うのなら、俺はどちらの世界を選ぶだろうか。
俺はそんなことを少し考えながら、眠りに就いた。
翌朝、敵地に乗り込むメンバーが終集結する。
俺、ベレッタ、コルト、カトラス、ルシフェル、ギルガメシュ、そしてウィズ。
傷も癒え切ってはいないが、早くしなければ逆にこちら側へ乗り込まれてしまう。街が復興に向かっているのに、それは避けなければならない。
「しかし、向こうはテレポート技術を持っている。私や母上ならともかく、普通の飛行では入れ違いになってしまっては元も子もない」
「それなら問題ないさ。俺の能力は重力を操る類のものでね。本気になれば小型のブラックホール位は造れるわけだが……」
カトラスの問いに、ギルガメシュは淡々と答える。
ブラックホールという言葉はみんな知らないようだが、ギルガメシュのいう事が本当であれば、星の一つや二つは簡単に消滅させられるという事だ。
「ま、それを応用すれば、たかだか数百kmくらい、ものの30分程度だ」
音速とまではいかずとも、ただの飛行に比べれば格段に早い。
「じゃあ、いこうか」
ギルガメシュはパチンと指を鳴らすと、特に魔力を用いていないのに全員の身体が宙に浮いた。
そして、何かに引っ張られているように、段々と加速していく。
亜音速にまで達すると、加速はなくなり息が多少なりとも楽になった。
「じゃあ、作戦は昨日話した通りだ。俺が能力で敵と君たちを分散させるから各個撃破。簡単だろう?」
ギルガメシュはさらりと言ったが、言うほど簡単なことではない。
だが、やらなければ死ぬだけだ。
ギルガメシュが言うには、ウィズなら神と互角に戦え、コルト・カトラス・ルシフェルは少し分が悪いという事だった。
その分、ギルガメシュは勝てる見込みが大きく、それまでいかに時間を稼げるかが鍵となる。
そして俺たちは……。
ベレッタの方を見ると、表情は落ち着いていた。闘志が静かに、しかし強く秘められている。
正直、皇帝エーベルハルトの力は未知数である。神を取り込んだのだから厄介であることに間違いはないが、相性がどう働くのか。
そうこうしているうちに、魔界を抜け、人間界へ入って行く。
そして。
「……あれがアマネの言っていた、皇帝エーベルハルトの住まう城か」
「確かに、3神の気配も感じるな。あと、妙な気配がもう一つ。……じゃあそろそろ別れるか」
ギルガメシュがそう言うと同時に、4方に別れた。そして、城にも亀裂が入り、ギルガメシュの能力によって3神を引きずり出す。
「じゃあ頼むよ、お二人さん」
城に残っているのは、雑兵と皇帝エーベルハルトのみ。確かに感じる妙な気配を頼りに、俺とベレッタは城の亀裂から入って行った。
次回は9/13あたりに更新




