最後の戦いの序章
神の分身である5体のうち、1体は消え、もう1体はここにいる。
しかし残りの3体は、皇帝エーベルハルトに取り込まれていると言う。
「取り込まれているって、どういうことだ?」
「そのエーベルハルトは人の心を操るのが得意なんだろう? それが人だけではなく神や天使にも効いた、ということさ」
神を操る。そんなことが、出来ると言うのか。
「普通は出来ない。ミイラ取りがミイラになるから俺は会ったことはないが、万能神が構築した物理法則でもなければ、魔力の類でもない。万能神からしてみればあれも魔人と同様に、除去したいバグだろうな」
「……おい、ちょっと待て」
そこでベレッタが話を遮る。
「さっきお前はエーベルハルトを殺すと言ったが、今の話を聞くにお前には出来ないという表現だったが、まさか私に嘘を吐いたのか」
ベレッタは再び憤怒した。
嘘を吐く奴は、最も嫌うタイプだ。
「そう怒るな。やってみなければ分からんぞ? だが俺には無理でも、万能神なら瞬殺だ。一応これでも、分身だからな。嘘にはなるまい」
「……チッ」
ベレッタは舌打ちをする。ギルガメシュには、口喧嘩でも勝てなさそうだ。
しかし、疑問が一つ生じる。
「万能神はどう対処するつもりだ?」
「それは賭けだね。ウィズに頑張ってもらうしかない。まあ勝率はあると思うよ」
異世界で死んでもらう。
分が悪いが勝率はある賭けだとギルガメシュは言った。
「問題は時間だ。ミカエルと、ここに来たガブリエルが消滅したことは、エーベルハルトにも割れているだろう。3神は俺の方で対処できるが、エーベルハルトは想定外の事が起きる可能性もある。出来れば、こちらから先手を打ちたい」
「……俺達なら、エーベルハルトを倒せる保証があるのか?」
「さあね。でも、魔神の方のウィズは、洗脳されることなく倒したらしいよ。黒は、何にも染まらないからね。純粋な憎悪さえ持ち続ければ、操られることはない」
結局、エーベルハルトに対抗できるのは神や天使でもなく、魔人でしかない。
だが、先手を打つのには時間が足りない。
怪我が治るまでもそうだし、もし向かってる途中に向こうが長距離テレポートを使って入れ違いになれば目も当てられない結果になる。
「まあ、今日は休むしかないな。飯を食わないと、体力が持ちそうにない」
神とやらの戦いの前に、みんな精魂疲れ果てている。
元気な奴なんて、ギルガメシュくらいしかいない。
街もボロボロで、あの豪勢だった屋敷が嘘のように崩れており、屋根は布で覆っているだけだった。
それでも、出てくる飯は美味かった。
そして、飯を食べた後すぐに就寝する。
その前に、アマネが俺の前にやって来た。
「……申し訳ない」
俺が声をかける前に、アマネは深々と頭を下げた。
エーベルハルトに操られ、俺に怪我を負わせたことを気に病んでいるらしい。
「ルークには、非常に迷惑を掛けてしまったみたいで……」
気丈に振舞ってはいるが、今にも泣き出しそうな顔だった。
「いや、気にしてないよ。アマネのせいじゃないしな」
「だが……」
気にしてないと俺が言っても、人一倍責任感の強いアマネは、受け入れがたそうに首を横に振った。
こういう性格じゃなければ、勇者は務まらなかったのかもしれない。
「まあ確かに手ごわかったけどな。手ごわかったどころか、あのままやってたら負けてたな。あははは」
冗談っぽく言いめかしても、アマネの顔はどんどん暗くなっていく。
俺自身が能天気な所もあるからか、こういう時どうすれば良いのか分からない。
「あー、なんだろーな。そう言えば、アマネはエーベルハルトに催眠だか洗脳されたんだろ? その時のことは憶えてるか?」
「曖昧だが……。奴を見ていると、なんだか吸い込まれそうになって、視界が段々とぼやけていく。奴の声を聞くと、なんだかそれが、自分の声のように聞こえた。よくあるだろう、自分の中の悪魔と天使が対立する時が。それが両方、エーバルハルトの言い分になる。何度も、何度もそれが自分の意思であるかのように言い聞かされて、考える力が無くなっていく。気付いた時には、私は魔界にいた」
「……つまり、声を聞いたり相手を見たりすると危険なのか」
「たぶん、そう」
それは非常に難しい話だ。
相手の位置を探るのには魔力だけでも事足りるが、どうしても一手遅れてしまう。もしエーベルハルトが催眠・洗脳しか出来ない相手ならそれでも問題はないのだが。
もし魔法も十分に使えると言うのなら、ギルガメシュが言っていたように、100%の憎悪を持って戦わなければならない。
だが、ミカエル戦でも、僅かながら余計な考えはあった。
今までが3~40だったのが、99くらいになったようなものだ。完全な100とは言い難い。
翌日、目が覚め外に出ると、ギルガメシュがいた。
「早いんだな」
「俺はルシフェルと違って人になったわけじゃないからな、睡眠は必要ないのさ」
「そりゃあ便利なことで。……エーベルハルトは俺とベレッタがやる。残りはどうするんだ?」
「二人掛かりか。ま、仲間に足元をすくわれないように気を付けるんだな」
確かに、どちらかが操られれば戦況は一気に不利になる。
「なるようになる。で、ほかの3神はギルガメシュが担当してくれるのか?」
「いや、流石に対複数は無理だな。一対一じゃないと」
「……なら、他はどうするんだ」
「ルシフェルとカトラス、あとはガブリエルを殺した……何と言ったか?」
「コルトか」
「そうそう、その面子ならいける」
しかし、相手は天使ではない。あのミカエルを超える力を持った神だ。3人で相手が2神では、分が悪い気がする。
「ああ、流石に2神は無理だ。良くて単神だな」
「じゃあ、残りの神は……」
「案ずるな、もう呼んである。そろそろ、来る頃合いだ」
ギルガメシュは上空を仰ぎ、口角を上げた。
すると、俺にも分かるようになる。
絶大な魔力が、こちらに近づいてくるのが。
感じたことのある魔力。これは。
「あなたが呼んだのね、セカンド」
「久しぶりだな、ウィズ」
始まりの魔女、ウィズが来た。
次回は9/6くらいに更新します。




