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ヒーロー

 俺の体は言う事を聞かず、アマネは聖剣を振りかぶる。


 完全に詰みな状態。


 それでも俺はルシフェルを制止して、アマネを凝視し続けた。

 そして聖剣が振り下ろされる。


 斬撃は唸り声をあげながら、地を裂き、空間を断裁する。

 ……が。


 俺には、当たらなかった。

 衝撃波は喰らったが、直撃はしなかった。

 俺の一メートル横を通り、それははるか後方まで地面を裂いていく。


「アマネ……」


 刀を杖代わりに、もはや感覚がほとんど無い足を奮い立たせ、アマネを見る。

 すると、アマネの手が震えていた。

 何かに耐えるように、何かに葛藤するように、聖剣はその天秤に揺れている。


「あああああああああああああああああああ!」


 アマネの声色ではあるが、決して想像もつかなかった咆哮をあげると、アマネは聖剣を地面に突き刺した。

 直後に爆発が起こる。


 朦々と立ち込める砂煙が晴れると。


「……」


 アマネがその中心で横たわっていた。


 ルシフェルがそれに近づいていく。

 俺も、空中浮遊で近づいて行った。体のバランスが取れずに、右往左往しながら何とか辿り着く。


「……寝てるみたいだね」


 怪我はあるが、大したことはなさそうだった。

 そして、憑き物が落ちたかのように、安らかな寝息を立てている。


「はあ、君には困ったよ、ルーク。約束はちゃんと覚えていて欲しいね」

「説教は後にしてくれ。流石に今回はもう疲れた」


 これ以上増援は来ないだろうと、辺りを見渡す。

 すると、一緒にここまで来たユキと、俺の人間だったころ一番の友人だったサイが近寄ってきた。


「これは、いったいどうしたんだ?」


 サイにしては、神妙な口調だと感じて、何故か笑ってしまう。

 どう転んでも、人を安堵させる奴だ。


「話すにはちょっと長いな。とにかく、ここを離れなくちゃならない」


 俺も体は動けないが、アマネ、ベレッタ、カトラスは意識すらない。

 さて、どうするか……。

 思案していると、ユキが口を開いた。


「なら、私がルークさんを背負います。ベレッタさんとカトラスさんは、サイさんとルシフェルさんでお願いできますか?」


 ユキは、もう空を飛ぶことは出来ない。

 俺も体重はそんなにないとはいえ、安全圏まで背負っていくのは相当辛いと思うのだが。


「そうか、なら僕がベレッタを運ぶから、君はカトラスを運んで」


 ルシフェルは即答する。

 しかも、重い方のカトラスを初対面のはずのサイに押し付けて。


「えー、俺もベレッタさんが良いんだけど」

「僕は戦いで疲れているんだ。それに傷の具合から言えば途中で目を覚ます確率はカトラスの方が高い」

「いやー、そう言う問題じゃなくてね。……ルーク、どさくさに紛れてユキちゃんの変な所を触るなよ」


 サイはおんぶされた俺を怨めしそうに見る。


「心配すんな。もう体の感覚がほとんどないから、どうも出来ない」


 魔力で浮くことくらいは出来るが、バランスが取れないのでどうしても迷惑がかかる。体重を半分くらいにすることしかできず、どうしても一行の速度は遅くなる。しかしおちおち休憩もしていられないので、歩みを止めることは許されなかった。


 次第に日は暮れ、辺りは暗くなる。

 カトラスが目を覚ましてからは、なんとかウィズの住む森の麓までは辿り着き、夜営の場所を決めた瞬間、俺は倒れ込むように眠った。


 ……何時間ほど、経っただろうか。


 不意に目を覚ます。辺りはまだ暗く、月が照らしている光だけが頼りだった。


「やあ、起きたかルーク。ずるいよ、見張りを決める前に眠るだなんて。僕ももう眠りたいから、代わってくれるよね」


 ルシフェルは俺の是非を聞く前に横になり、俺に聞こえるようにわざとらしく寝息を立てた。

 どれほど根に持っていたんだと、苦笑して俺は木を背もたれに座り込む。


 順番に横になっている人の数を数える。

 しかし、一人足りない。

 不審に思って顔を上げると、少し遠く、20mくらい先に人影が見えた。

 酷い筋肉痛だったが、体が動かせないとほどではない、くらいには回復している。

 辺りが暗いので木の影かとも思ったが、近づいてみると確かにそれは人だった。


「なんだ、ベレッタ、起きてたのか」


 いつの間にか目を覚ましていたベレッタは、座り込んで地面を見つめていた。

 俺が話しかけると、ようやく顔を上げる。


「……ルーク」


 体力はそれなりに回復しているはずだが、ベレッタの口調はまだ脆さがあった。


「なんで一人で、こんなところにいるんだ?」

「少し、考え事をしていたのよ。どうして、私だけ弱いのかな、って」

「別に、弱くはないと思うけどな」

「あなたは見てないかもしれないけど、ミカエル戦はほとんどカトラスが戦っていたわ。そして、私とカトラスが負けたミカエルに、あなたは勝ったんでしょう? 魔王なのに情けないなって思ってたのよ」


 ベレッタは再び目線を地面へやって、小さく呟く。


「まあ、そうは言ってもな。なんと言うか、覚醒したと言うか、いきなりで俺もよく分からんが」

「……カトラスも言っていたわ。覚醒がどうのって。どんな感じなの?」

「うーん、今までの魔力がより濃くなったような感じだな。希釈されていない、純粋な魔力。人間、魔人に関わらず、色々な感情を持っているけど、あの時の俺は確かに怒りや憎しみみたいな負の感情しかなかった。……前までは、戦いで楽しいと思うこともあったんだよ、こいつをぶっ飛ばしたら気持ちいいだろうな、とか。でも、今回はそんなことを考える余裕もあんまなかったし」

「……そう。じゃあ、私の感情が薄いってことかしら」

「まあ、深く考えてどうにかなる問題じゃないだろ。取りあえず向こうに戻ろう」


 俺が差し延べた手を、ベレッタは何を思ったか、俺を引きずり込んだ。

 筋肉痛であったことを差し引いても、俺がベレッタの体重を支えられないとは思えない。


 俺はベレッタの上に覆いかぶさり、右手は掴まれ、左手は脇腹の辺りに触れている。

 そして。


「あんまり、力がないのね」


 ベレッタの顔は、吐息がかかりそうなほどに近くにあった。


「そ、それは、仕方ないだろ。全身ぼろぼろなんだから」


 すぐに離れようとしたが、右手だけは掴まれたままだった。


「いいでしょ。二人きりで話せる機会なんてそんなにないんだから」

「……そうか?」


 ベレッタは俺の右手を放す気はさらさら無さそうなので、仕方なく同じ木を背もたれに並んで座った。

 空を見上げると、満天の星空が映る。

 星座なんてオリオン座くらいしか分からないが、もし前の世界でもこれくらいに星が見えていれば、星座に興味の一つでも持ったかもしれない。


「……ねえ」

「なんだ?」


 ベレッタはようやく握っていた手首を放す。

 代わりに、手の甲に優しく重ねた。


「言った事あるわよね。私が、ウィズに憧れていたという事」


 ウィズ、始まりの魔女とも呼ばれる女の人。今もまだ、生きているが。


「そういや、そんなことを言ってたな」

「子供だった私が憧れたのは、憎い奴を全員皆殺しにするダークヒーローみたいな、勧善懲悪な所だったのだけどね。大人になるにつれて、違う所にも憧れたわ。きっとウィズは加藤一に救われた。そういう、お姫様みたいなところにも憧れたのよ」

「……ま、そういう妄想はよくするな。俺も前の世界では、学校に突如現れたテロリストをばったばったと倒していくようなヒーローに……」


 気晴らしに冗談を言ってみたが、それでもベレッタは真剣な面持ちを崩さなかった。


「でも、あなたは実際になってくれたわ。私のヒーローに。助けに来てくれて、さっき目を覚ました時は少し悔しかったけれど、とても嬉しかった。……その、なんていうか、ありがとう」


 ベレッタの声は小さかったものの、やけに透き通っていて、聞き馴れない単語を耳にしたもんだから、俺は返事も忘れてベレッタの顔を凝視してしまった。


「……なによ。人が素直に感謝してるのに。信じられないわけ?」

「……少しな」


 俺がそう言うと、ベレッタは小さく笑みをこぼす。


「まあいいわ。今度は私がなるから、ヒーローに」

「……俺は、お姫様になる趣味はねえけどな」

「いいえ、きっと守ってみせるわ。あなたも、皆も」


 ベレッタは俺の手の甲に乗せていた指をギュッと絡ませ、空を見上げた。

 燦然と輝く星に誓うように、ベレッタの口調はいつもと同じく、強く気高く変わっていた。


次回は8/16くらいに更新

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