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天使殺し

 早く、早くミカエルを殺さなければ、俺の心は蝕まれてしまう。


 負の感情を魔力へ、魔力を電気へ変換する。

 それを吐き出すように、俺はミカエルへと放つ。


「死ね」


 自然と口から出る言葉と共に、雷はミカエルへと向かっていく。

 いつもとは規模が違った。

 実際に天から降り注ぐ雷と同様に、全てを焦土と化す雷が、数多も生み出せる。


 ……それでも。

 立ち込める砂煙から、ミカエルは幾度も立ち上がった。


「本当に、厄介なガキですね」


 ダメージはあるのかもしれない。

 それでも、決定打に欠ける。

 どんなに大電流・大電圧を流し込んでも、磁力により竜巻のように砂塵で切り裂こうとも、ミカエルは立ち上がる。


 これが、本当の天使の力なのだろうか。

 いや、距離が遠すぎるだけだ。

 どれもこれも、ミカエルに届く前に威力が半減している。

 その時、ルシフェルが俺の目の前に降り立った。


「……バラキエル。何をやっているのです。離れて戦いなさいと言ったでしょう」

「も、申し訳ございません」


 どうやら、ルシフェルとバラキエルの戦いも拮抗しているようだ。

 しかし、ルシフェルは偶然ここに来たのではなく、俺に助言をしに来たのだった。


「ルーク。言い忘れていたけど、有効打を与えたいのなら攻撃に魔力を込めないと。魔力を全て電気に変えるのではなく、電気と魔力を複合させる。魔力を込めれば、天使の防御力も大分緩和させることができる」

「……それは早めに言って欲しかったな」


 俺が嫌味を言うと、軽く舌を出してルシフェルは颯爽と飛び立っていく。


 ……そうか、魔力を込めれば、ね。

 天下一魔王杯を思い出す。武器や電気に魔力を込める練習は嫌という程した。


 ミカエルを見据える。

 薄笑いを浮かべるミカエルの表情を、今に変えてやる。


「何度やっても……」


 いくら天使といえども、雷を避ける速度はない。

 どうしても、甘受しなければならないのではあるが……。


 ミカエルは雷を受けた瞬間、苦悶の表情へと移り変わった。

 雷がミカエルの身体を通り抜けた後に、膝を着く。

 皮膚は赤くなり、体からは湯気が立っている。


「……魔人風情が」


 おそらく、初の有効打だったのだろう。だがどうやら、ミカエルも本気は出していなかったらしい。

 どうしたことか、戦場と化したこの土地に落ちていた武器という武器が、ミカエルの周りに集まっていく。


「これは……」

「ルシフェルは知らないかもしれませんが、私には魂ともう一つ、武器を司る天使でもあるのです」


 剣の、槍の、弓矢の、斧の、全ての矛先が俺に向けられる。


「散りなさい」


 そして全てが、弾丸と同様の速度で放たれる。

 しかし。


「武器なんて、強度の問題からすべからく金属がつかわれる。光速でもない限り、そんなもの簡単に避けられる。体術にしても近づけなければ意味がないしな」


 土煙が晴れた後のミカエルの顔は、それはもう見ごたえのある愉快な顔だった。

 唖然、とはあの顔を言うのだろう。

 ただ、それも長くは続かなかった。


「ふふ。ふふふ。あらあらあら」


 半ば諦めたように、しかし自暴自棄になったわけではない、高らかな笑いが響き渡る。


「まさか、私を本気にさせるとは思いませんでしたよ」


 ミカエルは神に何かを祈るように、両手を胸の前で組む。


「神よ。私に力を授け給え」


 ミカエルの体全体が光り出したかと思うと、それが一点に集中していく。

 そして。


 ミカエルの身体から、一本の剣が抽出された。

 魔神の俺が言うのもなんだが、どことなく神聖なものだと感じる。


「エクスカリバー。あなたでも、名前くらいは聞いたことがあるでしょう? 神話では鉄を丸太のように斬るくらいの事しかできませんでしたが、あれはあくまで人間の話。天使が手にすれば……」


 ミカエルは、軽くその剣を振った。

 すると。

 風の切り裂く音がしたかと思うと、俺の身体は吹っ飛んだ。

 直撃こそしなかったものの、斬撃が通った所は、数百メートルに渡って地面が裂けていた。


「さあ、終焉といきましょうか」


 ミカエルは剣を構え、それと同時に天使の力が増幅されていく。


 まずい。

 そう思うと同時に、俺は雷を放っていた。

 魔力を練り込んだ、天使殺しの雷を。

 それでも、エクスカリバーは、雷を切り裂いた。

 そして、その斬撃が俺を襲う。


 刀を魔力で覆い、何とかやり過ごす。

 しかし、気付かなかった。威力の高い斬撃に、俺は見事に騙されていた。


「ようやく、近づけましたね」


 俺が後手に回ったため、そして雷を切り裂くことが可能となったため、ミカエルは接近戦に持ち込んでくる。

 魔力により生成した電気で強制的に筋肉を操り、何とかミカエルの速度に対応する。


 それでも、少しずつ削られていった。

 過度な運動に、身体が悲鳴をあげる。

 心からどんなに魔力が供給されても、身体が追いつかない。


 ミカエルはそれを見透かしたのか、鍔迫り合いから俺を大きく弾き飛ばした後、大上段の構えを取る。


「これで終わりです。……エクス―――」


 魔力が闇であるとするならば、魔法は光。

 そう皮肉るように、ミカエルの持つ聖剣に光が宿る。

 大層な、それでいて神々しい光。俺には嫌に、眩しく見える。


「―――カリバー‼」


 斬撃は、試し切りの時とは比較できないほど範囲を広げ、避けきることは不可能に近い。


「あちらが聖剣なら、こっちは魔剣か。なれば、この名の無き名刀を伝説にするしかないな」


 刀を、さらに魔力で覆う。

 斬撃は光。対して、こっちの刀は漆黒に染まった。

 全てを飲み込むような、漆黒の闇に。



 ……鉄が、悲鳴をあげている。

 斬撃と刀のぶつかり合いにより、衝撃波に熱が帯びる。

 足で踏ん張ってはいたが、地面そのものがえぐれ、徐々に押され始める。


 聖剣の斬撃が消滅したころには、元の経っていた場所から数十メートルは後退し、皮膚には切り傷と火傷が無数に刻まれていた。


「―――受け切ったのは流石ですが、それで終わりじゃありませんよ」

 

 一息つく間もなく、ミカエルは攻撃に出る。

 ミカエルの、鋭く重い一撃が俺の刀に加わる。

 肉が捩じれ、骨が軋む。


「ぐ……ああああああああああああああああああ」


 もう、体なんてどうでもいい。

 脳から筋肉へ向かう命令は、神経を伝う電気信号によってもたらされる。それを、強制的に魔力の電気によって引き起こす。


 人の限界を超えた動き。

 それでもってようやく、ミカエルと互角に戦える。


「ここまで、戦いを愉しめたのは、久しぶりですね」


 もはや、時間の感覚が分からない。

 一秒が極限までに延ばされたような感覚の中、聖剣の剣戟を打ち払う。

 蝋燭のように儚い自分の命を、綱を渡るように、ギリギリで守っている。


 ……違う。

 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。

 俺の求めた復讐は、こんなものではない。


「……なっ!」


 体がぼろ雑巾のようになろうとも、精神次第で魔力は際限なく溢れ出る。

 肉が切れようが、骨が折れようが、魔力によって動かせるのであれば、問題はない。

 もう信号とは言えない、攻撃と紛うほどの電流で体を操る。


 防戦一方だった展開で、一つ、ミカエルの剣を打ち払った。


「終わりにしよう、ミカエル」


 磁力により、砂塵を巻き起こす。

 天にまで届く、竜巻のような砂塵の嵐。


 そして、視界を奪ったうえで、無数の稲妻を放つ。


「甘いですよ」


 それでも、ミカエルは対応した。

 しかし。


「残念。後ろだ」

 

 稲妻も、魔力の込めようによっていくらでも曲げられる。

 自分の位置を騙すことなど、造作もなかった。


 魔力と、電気で高熱を帯びた刀は、ミカエルの背中を突き刺す。

 意外にも、豆腐のように薄い感触だった。


「か、はっ……!」


 天使に心臓があるのかは知らないが、左胸を確かに貫いた。

 刀を捻じりながら抜くと、鮮血が溢れ出る。


「天使も血は赤かったんだな」

「ばか、な……。大天使たる私が、こんな子供に……」

「大天使も大したことがない、ってことだろ?」

「……貴様に、神の罰が下るだろう。私でなくとも、貴様はすぐに死ぬ運命にある」

「……もういい、消えろ」


 最後にとどめとして、渾身の雷撃でミカエルを貫いた。


 ミカエルが携えていた翼は消え、上空から地へと落ちていく。

 地面に落下した時に鈍い音がするかと思ったが、まるで空き缶のようにただ乾いた音だった。


 ミカエルの死体を確認しようと地面へ落ちると、ミカエルだった物質は空気に溶けていくように、霧散していった。



「遅いねルーク。まさか、僕のことを待っていたわけじゃないだろう?」

「……ルシフェルか。そっちも、終わったのか」


 辺りを見回しても、バラキエルと呼ばれた天使はもういない。


 しかし、ルシフェルの身体には天下一魔王杯の直後を思い起こさせるような傷跡が無数に刻まれていた。表情だけは余裕だが、微かに膝が震えている。

 対する俺も、怪我は派手だし、筋肉痛に至っては身体に鎖が巻かれているのではと錯覚するほどで、指一本動かすのですら億劫だ。



 ……しかし。

 そんな死闘を繰り広げた俺とルシフェルの目の前に、女の子が一人立っていた。


 自らを勇者と称し、それでいて魔人と和解した女の子。

 だが、面を上げた勇者の瞳は、以前のそれと全く異なっていた。

 どこか機械的な、感情を一切伴わない無機質な黒。


「……アマネ?」


 名前で呼びかけても反応はない。

 それどころか、ミカエルが落としたエクスカリバーを拾うと、矛先を俺へと向けた。

 聖剣には、光が宿る。

 しかしその光には、聖も悪も介さない、ただ予めプログラムされていたような、色の無い光だった。


 ルシフェルが唇を噛んだのを見て、俺も、冷や汗が出てきた。


次回8/5くらいに更新

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