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先代魔王の死

 アルトさんは何とか命に別状はなかったものの、目を覚ましても顔色は優れなかった。

 皆がベッドの周りを取り囲んだが、誰も自分から話を聞ける雰囲気ではなかった。

 耐え兼ねて、アルトさんが自ら口を開く。


「双龍島に行ったのは皆も知っていると思いますが……」


 アルトさんは年輩だが、カトラスが遥か上なので敬語を使っている。ましてや、そのカトラスが見たこともないような不機嫌な顔つきなのでアルトさんも話しにくそうにしていた。


「出発前の予想通り、双龍島の一部には人間が住み着いていました」


 双龍島。

 人間界と魔界を航路で渡るには、龍の住み着く二つの島の間を通らなければならないらしい。

 俺も龍に出会ったことはあるが、非常に凶暴で、とてもそんな奴らの巣窟になんて近づきたくはない。


「そして、人間だけではなく、天使まで」


 竜の住み着く島の、一部とはいえ制圧できる戦力。

 アルトさんは、悔しそうに体を震わせながら言葉を紡ぎだす。


「マグヌスは、散って逝った。天使と、相打ちになって」


 その言葉に、皆が驚愕の表情を浮かべた。

 マグヌスは、先代の魔王で、実際に戦闘しているところを目にしたことはないが、純粋な戦闘力で言えば屈指の実力者との話だった。


 だが、皆が驚いている中、カトラスだけは違った。

 悲しい、悔しい、そういった感情は読み取れるが、驚いてはいない。

 それは、唯一カトラスだけが本物の天使を相手にしたことがあるからだろう。


「それで、そこにいた人間たちはどうなった?」

「壊滅させました。生き残りはいるでしょうが、天使を失ってしまえばあそこに留まることは不可能かと」


 カトラスは何やら考え込むと、最後に一つ、とアルトさんに質問を投げる。


「その天使の外見はどうだった? ミカエルだと、逆に困るんだが」

「天使の名前は分かりませんが、外見は短髪で長身の男でした」


 男、というとミカエルではないのだろう。

 まあ堕天使のルシフェルが言うには、天使は特に男女で別れているわけではないようだが。

 カトラスはアルトさんの返答に頷くと、意を決したような表情で口を開いた。


「明日、ミカエル討伐に連邦国に向かう。私はあの憲兵団団長とかいう男を道案内として連れて行く。他の者はアルトさんの看病と、あと私が編成した魔王軍をこの街に待機させておいてくれ。長距離テレポートの術者が向こうにいないとはいえ、予備がないとは言い切れないからな」


 それは、冷静な判断ではない。

 一人で敵地に向かうなど、いくらカトラスでも自殺行為だと思う。


「……カトラス、それは一人で行くつもりなの?」


 ベレッタは凄んで言った。

 ベレッタも、安全な地で待っているのは性に合わないし、なにより人間に大きな憎しみを抱いている。


「しかしベレッタお嬢様、相手は……」


 カトラスは諭すように言ったが、ベレッタはそれを遮る。


「カトラス。魔王はあなたではなく私よ。そういう約束でしょう」

「……分かりました」


 カトラスはベレッタの提案を断ることは出来ず、諦めたように肯定した。

 

 だがそれなら、俺だって黙ってはいられない。


「……なら俺も付いて行く。カトラスもミカエルに恨みはあるだろうけど、俺にだって少なからずある」

「いや、無理だ。山頂付近はどんなルートを選んでも、貴様には飛行が出来ない様な強風が吹き荒れる。私の能力なら飛んで行けるが、抱えられるのはせいぜい2人までだ。道案内役とベレッタお嬢様がいる以上、貴様にはここに居て貰うことになる」

「……歩いてはいけないのか」

「出来る限り、この怒りが風化する前に、決着をつけたい。……そんな目で見るな。帯同は出来んが、人間界に来ることは許してやる。まあ、貴様が来るのを待つわけではないがな。山を越えるくらいなら、裏道を使う方が良いだろう」

「……裏道?」


 カトラスは裏道といったが、魔界と人間界を行き来するには、危険な魔物と環境が渦巻く山脈を越えるか、龍の巣窟である双龍島を通って船で渡るしかないと聞いていた。


「人間界と魔界の間には山脈が連なっているが、一か所だけ平地がある。実は、私の母上がそこに住んでいる。人間は勿論、魔人もあまり好んでいくところではない。まあ、私の名前を出せばすんなり通れるだろう。ルシフェルなら場所を知っているはずだが」

 

 母上、というとあの航海日誌にあったウィズという女の人だろうか。カトラスも長命だが、始まりの魔女と呼ばれた母親もまだ存命とは。


「分かった。ならルシフェルも連れて行く」


 残るのはコルトだけだが、流石にアルトさんがこの姿では連れて行く気にはなれない。コルトの母親も、コルトを心配そうに見つめていた。

 だが、いつもは外に出たがらないコルトも、事情が事情だけにばつの悪そうな顔をしている。


「コルトは心配すんな。新魔王軍も、ルシフェルのついでに声をかけてくるから」


 頭をポンとたたくと、コルトは小さく頷いた。


「時間かかりそうだし、俺の方はもう出発するよ。悪いけど、ユキにも来てもらう」

「私も、ですか?」

「人間がずっとここに居る訳にもいかないだろ。適当なところで別れることになるだろうけど」

「……分かりました」


 取り敢えず、役割分担が済んだところで、俺とユキは支度を整えた。

 カトラスとベレッタはといえば、憲兵団団長から情報を引き出す為か、また別室へずるずると引きずっていく。

 擁護はしないが、あいつもあいつで不幸な男だな、と思う。


「じゃあ、行こうか」

「はい」


 コルトとコルトの母親が見送ってくれる中、俺とユキはルシフェルと新魔王軍がいる街へと向かった。


次回は7/10あたりに更新します

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